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バ美肉おじさんは転生しました!  作者: 森本みつき
第1章 オークキングの花嫁
6/13

第6話 バ美肉おじさんはオークの巣を漁ってみた

正月休み明けの仕事。

だるーい。


第6話 バ美肉おじさんはオークの巣を漁ってみた




 アイラさんを救出してから10分後。


「でっか! なにこれ!? ほんとにでかいわねっ!?」


 ルジェはオークの巣穴から移動せずに、アイラさんの大胸筋をタプタプしていた。

 異世界にはバストを守る下着が無いのか、アイラさんはノーブラだったので、服の上からでもダイレクトな感触が伝わってくる。


『いいぞ! もっとやれ!』


 おじさんの声援を受けて加速する手の動きに、アイラさんは顔を赤くして俯いた。


「その……あまり弄られると、流石に同性でも恥ずかしいのだが…………」

『いいぞ! もっとやれ!』


 念のために言っておくが、これはエロい目的でやっているわけではない。


「むぅ、すごい重量……片方で3キロくらいあるんじゃないかしら?」


 純粋にスイカの重さが気になったから測定しているだけなのだ。

 まあ、女体化しているせいか性欲が湧いてくることはなかったし……これはおじさんの下心ではなく、100%ルジェの『美少女が大好き』という設定に基づいてロールプレイを行っていることだけは断言しておこう。


 健全だろ?


「んっ……ふっ……くぅ…………」


 なにやらアイラさんから色っぽい声が聞こえてくるけれど、二人の美少女がイチャイチャしているだけだから、これは少年誌でも掲載できるに違いない。

 残念ながらルジェの視点ではルジェの姿が見えないけれど、傍から見ればロリ美少女と爆乳エルフが絡み合う『百合でしかない』世界が完成しているはずである。


『くっ……どうして私には、三人称視点が標準装備されていないのかっ!?』


 思わぬ欠陥にも気づいてしまったが、エルフの大胸筋をタプタプして過ごすのは、とても有意義な時間だった。




 それからさらに20分ほどルジェはスイカの重量測定に勤しみ、アイラさんがぐったりしてきたところで現実に戻ってくる。


「オークの巣穴でやることじゃないわね!」


 他人の爆乳を揉みしだいておいて、それはあんまりな感想だが、


「ほんとになぁっ!」


 しかし激しいスキンシップの甲斐はあったようで、先ほどまで他人行儀だったアイラさんがルジェに突っ込めるくらいには打ち解けていた。


「あっ……」


 思わず突っ込んでしまったと口に手を当てるアイラ。

 ルジェは「むふーっ!」と喜びながら、赤面する美少女へと抱き着く。


「あたしへの絡みは今みたいな感じでいいわよ! 堅苦しいのとか苦手だし!」


 どさくさに紛れて胸の谷間へと顔を埋めるルジェに、アイラは嘆息しながら「わかった」と呟いた。


「そういうことなら、私も遠慮なく付き合わせてもらおう……とりあえず胸をオモチャにするのはやめてくれ!」


 グイッと頭を押し退けられ、ルジェは満面の笑みを浮かべる。


「そうっ! それよっ! 適度に嫌がる女の子が、あたしは好きなのよっ!」

「……ルジェは厄介な性格をしているな」


 微妙な顔をしながらも、優しく押してくれるところにアイラの人柄が出ている。


『生真面目で堅物な女騎士って感じ?』


 騎士ではなくて、職業は戦士らしいけれど、彼女には『くっ、殺せ!』とか言いそうな雰囲気があった。


「あんたはエロそうな性格してるわね」

「!? どこが!?」


 そりゃあもう、すべてが。



     ●◇●◇●



 そしてスキンシップを終えた二人はオークの巣穴の探索を始めた。

 獣とスルメイカの匂いがするから、正気に戻ったルジェはさっさと出て行こうとしたのだが、


「はぐれオークの巣を調べないのか?」


 と、アイラに止められたのだ。

 なんでも私たちが戦ったはぐれオークは、普通のオークよりも数段強い上位種らしい。

 そしてはぐれオークの巣からは必ず貴重なアイテムが見つかるため、討伐したなら隅々まで調べるのが常識なのだとか。

 たしかにアイラが捕まっていた寝床の隣には、ガラクタが寄せ集められて小高い山を成している場所があり、ゲームだったら採集場所になりそうな雰囲気があった。


『パッと見はゴミの山にしか見えないのだが……』


 しかし貴重なアイテムが埋まっているというなら【放浪者】の職業が役立つかもしれない。探索能力を補助する効果があったはずだし、私は試しに職業を【放浪者】へと変更してみる。


『――おっ!』


 すると、なんとなくだが価値のありそうな物がわかるようになった。


「そういうことなら……探ってみましょ!」


 違いがわかる女になったルジェは、アイラと協力してガラクタの山を調べていく。

 そこにはゴミみたいな物から財宝と呼べる物まで、様々なラインナップが埋まっていた。



 塩漬けにされた謎の肉。

 乾燥させた野草の束。

 髄まで啜られた骨の欠片。

 獣の牙と爪。

 赤い小石が詰まった皮袋。

 文字の刻まれたネックレスが7本。

 赤黒いシミが付いた服が数セット。

 革の鞄が4つ。

 ベルトに付けるポーチが6つ。

 多様な種類のナイフが合計で14本。

 錆びた剣。

 折れた剣。

 軸の曲がったレイピア。

 柄の部分が腐り果てた巨大戦斧。

 弦の切れた狩猟弓。

 数本の弓矢と矢筒。

 ヒビの入った木の盾。

 少し凹んだ鋼鉄製のラウンドシールド。

 脇の部分が破れた鎖帷子。

 漆黒の全身鎧がワンセット。

 大量の硬貨が詰まった小さな樽。

 液体入りのガラス瓶が4本。

 空のガラス瓶が7本。

 汚れた本が3冊。

 綺麗な本が1冊。

 頑丈そうな木製の杖。

 指輪が2個。



 集めた品物を前に、アイラが予想を口にする。


「どうやら3つのパーティーが、ここにいたオークに潰されたようだ」


 剣士と斥候と魔法使いの初心者パーティー。

 剣士とレイピア使いと狩人の中堅パーティー。

 ソロで活動していた熟練の重戦士。


「そこまでわかるの?」


 ルジェが訊ねると、アイラは文字の刻まれたネックレスを指差した。


「この首飾りには冒険者たちの名前とランク、パーティー名が刻まれている。だから人族の文字さえ読むことができれば、それくらいは簡単にわかるのだ。あとは装備の種類や品質などから推測した」


 人族の文字が読めることが自慢なのか、大きな胸をブルンッと張るアイラさん。


「ふーん……冒険者ね」

『まあ、定番中の定番だよな』


 剣と魔法の世界らしい職業に、厨二な心が刺激される。


「なんだ? ルジェは冒険者に興味があるのか?」

「興味っていうか……将来的には冒険者になるんじゃないかしら?」


 ルジェがきっぱり答えると、アイラは先ほどまで揉みしだかれていた自分の胸を見て、不思議そうな顔をする。


「宝の山よりも脂肪の塊を優先する冒険者とは……」

「は? あんたの神乳より価値のある宝なんて、この世に存在するの?」


 率直な意見にアイラの頬が赤く染まった。


「…………私の胸は神でも宝でもない」


 いや、間違いなく至宝だろう。

 宝の山よりも神乳を大切にしているルジェは、オークの財宝を指差しながら反論する。


「あんたのおっぱいは宝物なの! ……ていうか武具や貨幣はともかく、骨の欠片とかゴミにしか見えないし……これとおっぱいを並べられたら誰でもおっぱいを選ぶわよ!」


 おっぱいと連呼する美少女を前に、アイラは恥ずかしそうに顔を背けた。


「いちおう……こういった骨は錬金術の素材や肥料になるらしい……だから売れば銀貨くらいにはなるだろう……とはいえ、流石にこれだけの荷物を全ては持ち帰れないから、今回は捨て置いたほうがいいかもしれないが……」


 話しを逸らすため、多種多様なアイテムの中から高価なものを選別しようとするアイラ。


「ああ、それならたぶん問題ないわ」


 ルジェはそんなアイラを止めて、職業を【吸血姫】へと戻し、集めた品物へと片手を向ける。


「――【操血】」


 そしてインベントリから取り出した血液で小高いアイテム類の山を覆い尽くし、血液を介してルジェと繋がった品物を血液ごとインベントリへと収納した。


『お! 上手くいった!』


 どうやら操った血液でルジェの体とアイテムを繋げてしまえば、離れたところにある品物を収納することも可能らしい。

 これは基礎から中級にレベルがあがったことで、8つまで分裂させることができるようになった並列思考を用いて、私がインベントリの活用方法を考えた成果である。

 より正確に言えばルジェの精神は固定でロールプレイに当てているから、7つの精神で考えた成果だ。


『うむ、これはスリとかに便利そうだな』


 今はまだそこまで精密な血液操作はできないけれど、血液の糸とかを作れるようになれば、こっそり他人のサイフに糸を巻き付けて、インベントリへと拝借することもできるだろう。


「っ!? ルジェは【血怪秘術】を使えるのか!?」


 アイテムの山が消えるのを見て、アイラが目を見開いて驚く。


「……けっかい秘術?」


 ルジェが小首を傾げると、アイラは頭を抱えて嘆息した。


「ああ……ルジェは記憶喪失だったな…………はぐれオークを単独で倒して、秘術まで使える吸血種となると…………深都の貴種としか思えないが……」


 なにやら盛大に勘違いされているようだが、ルジェは記憶喪失という設定なので、あえて突っ込まずに話を流す。


「そんなことよりさー。戦利品の回収も終わったんだから、さっさとこのケモノ臭い巣から出ましょうよ。せっかくだから、あたしがアイラを家まで送ってあげるわ! あんたって目を離すと、いつの間にかオークに攫われてそうだし」


 あんまりな評価だが、的を得ていたのか、アイラは膝を地面に落として項垂れた。


「私はそんなに……オークに好かれそうな身体をしているか?」


 わりと真剣な声音で訊かれたので、ルジェも真摯に答える。


「あたしにオークの気持ちなんてわからないけれど……少なくとも、あたしはここで見つけたどんな財宝よりも、アイラの身体のほうが素敵だと思っているわ」


 そう言って、ルジェはアイラに近づくと、ここぞとばかりに素敵なお乳をタプタプする。


「…………」


 嬉しそうに乳房で遊ぶルジェの様子を、アイラはしばし呆然と眺め、そしておもむろに奇抜な依頼を口にした。


「……も、もしも、私の胸を対価に仕事を頼んだら……ルジェはどこまで聴いてくれるだろうか?」


 そんなの考えるまでもない。


「あんたのデカ乳が手に入るなら、なんでもするわよ!」

『うむ、なんでもだ!』


 即答されたアイラは目線を落として、驚愕の表情で自分の双丘を眺める。



「私の胸って、そんなに価値があったんだ…………」



 そして私たちは、なんでもすることになった。






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