第5話 バ美肉おじさんとリザルトタイム
第5話 バ美肉おじさんとリザルトタイム
「ん~っ! 勝利っ!」
やったぜ、とルジェは万歳し、すぐに脱力して膝から崩れ落ちる。
『まあ、そうなるわな』
初戦闘が格上との戦いで、さらには手足を十回以上も斬り飛ばされたのだから、戦闘後のルジェは満身創痍だった。
ステータスの状態欄にも、危険な文字が表示されている。
状態:失血、魔力欠乏、渇血、疲労
戦闘中の出血はなるべく操血スキルで体内に戻していたけれど、出血回数が多かったせいでけっきょく大量の血液を失ってしまった。
あとはスキルを使いまくったせいか魔力もスッカラカンになっているらしい。
まあ、回復手段はあるからいいけれど。
私は周囲に浮かせていた血球を操り、うつ伏せに倒れるルジェの口元まで運ぶ。
『飲めそうか?』
吸血姫というからには、血を吸えば回復くらいするだろう。
「ありがと」
ルジェは差し出された血液を迷わず口にして、【吸血】スキルでゴクゴクした。
「うまっ!? オークの血、うまぁっ!」
血を吸うことへの忌避感は不思議とまったくない。
おそらく種族が吸血姫に変わったことで精神が変容しているのだろう。
その後もルジェは大量の血液をゴクゴクし、最終的に3リットルくらい飲んだところで満足した。
「ぷっは~! 生き返った!」
血を得たことで【再生】スキルが活性化したらしく、小さな傷まで完治して、吸血後のルジェは艶々になっている。
『ふむ……どうやら血を飲むと魔力まで回復するらしい』
おまけに疲労以外の状態が改善されたことを伝えると、ルジェは苦笑する。
「身体能力といい、再生能力といい……便利な体になったもんだわ」
ルジェが言う通り、この肉体の性能はすごい。
普通の人間ならば軽く二桁は死ぬような戦いを生き延びたのだ。
『まあ、便利な分にはいいんじゃないか? おかげで収穫も多かったし』
【豚鬼族・放浪者】は強敵だったが、格上との戦闘を経験することで私たちが得たものはたくさんある。
戦闘技術の成長。
SPの獲得。
新しいスキルのアンロック。
特に戦闘中に獲得した【職業】はステータスからいつでも変更することができ、変更することでその職業に関係するスキルの成長速度が速くなったり、関係する行動に補正が付くらしい。
現在獲得している職業の効果はこんな感じだった。
【見習い格闘家】……素手での戦闘行動を極微補正。格闘系スキルの成長率を極微上昇。
【格闘家】……素手での戦闘行動を微補正。格闘系スキルの成長率を微上昇。
【狂戦士】……戦闘行動と再生能力を中補正。状態に『狂戦士化』を付与。
【放浪者】……生存能力と探索能力を小補正。生存系・探索系スキルの成長率を小上昇。
【吸血姫】……血を用いた行動を極大補正。血に関わるスキルの成長率を極大上昇。姫らしい行動を中補正。姫らしいスキルの成長率を中上昇。
まあ、今のところは固有職である【吸血姫】が優秀すぎて、ほとんど変える必要がないのだが、その時々の必要な能力に合わせて補正効果を変えられるのは便利そうだった。
そしてさらに、私たちの眼前には巨大なオークの死体と頑丈そうな武器が横たわっており、死体の向こうにある巣穴にはエキゾチック美女が捕らわれているはずなのだ。
戦闘経験の無い私たちが死闘を生き延び、このような成果を得ることができたのは、ひとえに女神様から貰ったこの肉体と能力が優秀だったからだろう。
「しっかり感謝しないとね」
『うむ』
そのうち神殿を見つけて、真摯に祈りを捧げようと思う。
しかし今はエキゾチック美女を救出するのが先だった。
私はまず血球から真紅のドレスと靴を制作して、それをルジェへと着せる。
それからルジェにオークの死体と血球に触れてもらい、それらをインベントリへと収納していった。
最初は遠隔で収納しようとしたのだが、どうやら触れていないとインベントリには収納できないらしい。
そして下着姿を卒業したルジェは巨木の根元に空いた洞へと足を踏み入れ、意外と広いその空間の最奥に、一人の乙女が拘束されているのを発見する。
『おおっ……!?』
「これはっ……!?」
その姿に、私とルジェは内心でガッツポーズした。
いや、足しか見えてなかったから実際に会ったら顔は微妙とか、そんな展開も覚悟していたのだが……想像を超えてくるとは思わなかったよ……。
私たちはエキゾチック美女とか勝手に呼んでいたけれど、実際に対面した彼女は17歳くらいの美少女だ。
しかし『少女』と呼べるのは顔だけで、肉体のほうはグラビアアイドルでも裸足で逃げ出すようなエキゾチックっぷりを発揮していた。
セミショートの金髪。
引き締まったウエストに、小麦色をした艶やかな肌。
薄着の衣装からはスイカみたいな爆乳が零れ落ちそうになっており、下半身を守るスカートも大きく破れているせいで、ムチムチの太ももが半分くらい剝き出しになっている。
そして極限まで整った顔の左右に生える長耳を見れば、彼女の種族など簡単に察することができた。
「だ、ダークエロフっ!?」
エルフじゃなくてエロフ。
このけしからん体つきは、誰がなんと言おうとエロフである。
『そりゃあ、オークも攫いたくなるよ……』
そんな失礼な感想を抱いてしまうくらい、彼女は凄まじくエロティックな雰囲気を纏っていた。
ゴキュリ……と生唾を呑み込むルジェに、ダークエロフさんが話しかけてくる。
「エロフじゃなくてエルフなのだが……」
いつの間にか女神様から貰った翻訳機能がONになっていたらしく、ダークエロフと呼ばれた美少女は頬を赤らめて否定した。
「あー……ごめん。すごく大きなおっぱいだったから、エロいと思った気持ちが言葉に出てしまったわ」
ルジェは素直に謝罪する。
「む、胸のことは言わないでくれ! 気にしているんだっ!」
涙目になった美少女はどうにか爆乳を隠そうとするが、両手を頭の上で縛られて荒縄で壁に括り付けられているせいで、プルプルと爆乳が揺れるだけでエロいだけだった。
「ちょっと待って、いま縄を切ってあげるから」
もう少しその絶景を眺めていたい気もしたが、よく見ると縄の下の皮膚から血が滲んでいたので、ルジェは素早く鋭爪スキルを発動して拘束を解く。
バラバラと美少女を縛っていた縄が地面に落ちた。
「すまない、助かった……ちょうど魔力が尽きていたんだ……」
解放されたダークエルフさんは座ったまま頭を下げると、周囲に散乱している布の切れ端を恥ずかしそうに集め出す。
どうやらオークに上着を破られたせいで、彼女は露出度の高い格好になっていたらしい。
『本気でピンチだったみたいだな』
私はインベントリから血液を取り出して外套を作成する。
自分を犯そうとしたオークの血で作られた服なんて着たくないかもしれないが、半裸で歩くよりはマシだろう。
全裸で歩いた経験のある私が言うのだから間違いない。
「よかったら、使って」
真紅の外套を渡されたエルフさんは、血を操ったことに少し驚いた顔をしたあと、
「……ありがとう」
素直にお礼を言って外套を羽織った。
艶めかしい体を隠した彼女はホッと息を吐き、立ち上がってルジェに頭を下げる。
「貴女が私のために戦ってくれたことを精霊から聞いた。このたびは危ないところを助けていただき、心から感謝している。私はポポラ村のアイラ。情けないところを見せてしまったが、これでもシャドウエルフの戦士として闇の精霊から加護を受けた者だ」
精霊のことはよくわからないが……ダークエルフじゃなくてシャドウエルフなのね。
自己紹介をされたので、こちらも返す。
「ご丁寧にどうも。あたしはルジェ……えーっと、職業は…………記憶喪失の美少女よ」
異世界からやってきたバ美肉おじさんです、とか言っても絶対に通じないので、ルジェは記憶喪失路線で行くことにしたらしい。
アイラと名乗ったエキゾチック美少女は、ルジェの言葉をしっかり咀嚼してから頭を上げる。
「……そうか。なにやら複雑な事情があるようだが、命の恩人を問いただしたりはしないので安心してほしい」
100パー嘘だとバレているようだ。
しかしアイラさんは結構な人格者らしく、ルジェへと真摯に対応してくれた。
「それと、できれば貴女に恩返しをする機会を頂けると嬉しい。誇り高きシャドウエルフの端くれとして、私にできることならなんでもしよう」
うん?
「いま、なんでもって言った?」
ニチャリと内心でおじさんの部分が微笑む。
日本ならば完全にネタとして扱われるやり取りだが、しかしアイラさんは拳をプニッと豊かな右胸に当てて、真剣な顔で答える。
「ああ、なんでもは、なんでもだ。命の恩には命を賭して報いるのが、シャドウエルフの流儀だからな」
ふーん。
へー。
そんなエロい体して真面目に『なんでも』とか言っちゃうんだー……。
いや、もちろん私は聖なるおじさんだから、エロいお願いなんてしないけれどね?
だけどルジェは『困っていない美少女にはセクハラをする』という設定のキャラだから、『なんでも』なんて言われたら我慢できないのだ。
「そ・れ・な・ら――」
そしてルジェは厭らしく微笑んで、欲望をドストレートに宣言した。
「――おっぱい揉ませて!」
明日から仕事が始まるので、投稿ペースが落ちるかもです。