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バ美肉おじさんは転生しました!  作者: 森本みつき
第1章 オークキングの花嫁
3/13

第3話 バ美肉おじさんは追跡しました!

バトルシーンはむずい。


第3話 バ美肉おじさんは追跡しました!




 並列思考で精神を分裂させたことにより、おじさん担当である私はメニュー画面の管理と遠隔操作系スキルの管理を任されることになった。

 メニュー画面は念じるだけで眼前から私の脳裏へと移すことができたので、これからは使えそうなスキルを探す作業と、メニュー画面の細かな機能を検証していくことが、今の私の主な仕事となる。


 そして最も重要な仕事が、操血スキルで下着を作ってルジェの聖域を守ることだ。

 おじさんが美少女の下着を管理する日が来るなんて……人生とは本当になにが起こるかわからないものである。

 ちなみにルジェの担当は、体を動かすことと、美少女として生きること。


 そんな役割分担をしたところ、私とルジェの能力にちょっとした変化があった。

 ルジェは五感が鋭くなり、私は第六感や空間把握能力が鋭くなったのだ。

 おそらくこれは役割分担することで、担当している分野に集中できるようになり、情報処理の効率化に成功したのだと思う。

 さらに私は『体を動かす』という大きな仕事から解放されたことにより、若干だが思考速度が上昇したことも実感していた。

 初期SPの半分を消費して衝動買いした並列思考スキルだが、ルジェとの会話機能を抜きにしても、お値段以上の効果があったと言えるだろう。

 だからこれは決して無駄使いではないのだ。



 そんなこんなでメニュー画面の管理を任された私は、手始めにインベントリのチェックを行うことにした。

 私たちを転生させた宵闇と光明の女神様が全裸サバイバル動画にハマっていることから、どうせなにも入っていないだろうと考えていたのだが、インベントリの中には一通の手紙が入っていた。

 手紙をルジェの手元に取り出して、開いてもらう。

 そこには美しい筆跡の日本語で、女神様からのメッセージが記されていた。



PS:目が覚めたところから東に行くと迷宮都市、北に行くとエルフの村。西は行き止まりで、南には豚鬼族(オーク)の縄張りがあるよ!



〈――マップの情報が更新されました〉



 手紙を読み終えるとログが流れたため、流れで《マップ》を確認してみると、真っ白な地図の上に現在地、迷宮都市、エルフの村、豚鬼族の縄張りの位置情報が表示されていた。


「このどれかを目指せってわけね!」

『ゲーム的に考えれば迷宮都市を目指すのが正規のルートっぽいが、エルフの村を目指すのも面白そうだな!』

「まあ、あたしたちは、いつの間にか南の方に進んでいたみたいだけれど……」


 そうなんだよ……。

 地図にはルジェが通ってきた箇所だけがカラフルに地形表示されているのだけれど、その軌跡はおよそ南南西の方角へと向かっていた。

 つまり、ルジェは全裸で豚鬼族の縄張りへとスキップしていたことになる。


『……行動だけ見れば、完全に痴女だな』

「……あんたも同罪だからね」


 どうりで禍々しいフィールドデザインになっているわけだよ。

 この先は完全に危険地帯だもの!


「はぁ……これも美少女の宿命ってやつかしら?」

『オークと美少女の宿命とか……』


 薄い本が厚くなりそうな妄想が私の脳裏を過り、ルジェは頬を赤らめた。


「ちょっ!? クロノ! 凌辱系の妄想は禁止っ! あたしは百合(ゆり)専で、そういうの苦手なんだから!」

『おっと、これは失敬』


 私はすぐにイカ臭い妄想を霧散させる。


『……それでどうする? 来た道を引き返したほうが、私はいいと思うのだが?』

「……そうね。私もオークには遭いたくないし――」


 と、ルジェが踵を返そうとした時、


「――っ!?」


 木々の合間にドスドスと動く巨大な影が見えた。

 それを見たルジェはすぐさま走り出す。

 来た道を引き返すためではなく、その巨大な影を追い駆けるために。


「誰かが捕まっていたわ!」


 彼女は吸血姫の優れた視力で、巨大な影の肩にバタバタと暴れる細い脚を見つけたのだ。


「しかも、あの曲線美は確実にエキゾチック系だった!」


 おまけに脚だけで美人と判断したらしい。

 オーク×エキゾチック系美人×誘拐とピースが揃えば、それだけでナニかが始まることが予測できる。

 端的に言えば、さっきの妄想みたいなイベントが発生するに違いない。


『しかし、これは現実なわけで……慎重に行動したほうがいいんじゃないか?』


 私の慎重論に、ルジェは真剣な眼差しで首を横に振った。


「現実だからこそ、全力で生きなきゃダメなのよ! 女神からチート能力までもらっているのに、多少の無茶もせずに日和るとか、そんなダサい生き方はしたくないわ!」

『か、かっけぇ……』

「それに、せっかく美人と仲良くなれるチャンスなんだから……ここでフラグを立てておくのはテンプレでしょう?」


 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべるルジェに、私はもう惚れるしかなかった。

 ていうか彼女は戦闘狂ってキャラだしね。

 ピンチな女の子を見捨てて自分だけ逃げる選択肢など、ルジェのコマンドには存在していないのだろう。


『……そうか。ならば私は全力でサポートに努めよう』


 私もエキゾチック美人には興味があるし、ここで蛮勇に身を任せ、前に踏み出してみるのも一興だろう。


「頼りにしてるわよ、相棒!」


 追跡を開始すると、吸血姫の肉体は素晴らしい性能を発揮した。

 鋭さを増した五感は遠くを走るオークの足音や匂いを感知し、強靭な足腰はあっという間に相手との距離を縮めていく。

 やがてその背中をルジェの目が捉えると、オークは巨木の根元に空いた洞の中へと姿を消すところだった。

 恐らくそこでエキゾチック美女と『いいこと』をするつもりなのだろう。

 美女のほうも貞操の危機を悟ったのか、小さく「離せっ!」とか「助けて!」とか切実な悲鳴が聞こえてきた。

 許すまじ……。


「うおらぁ! 出てこいや、このクソ豚があああああっ! エキゾチック美女はあたしのもんじゃあああああ!」


 ルジェは巨木の前に立って、全力で叫ぶ。

 日本語で叫んでいるから理解はできないだろうが、これからナニしようという時に騒がしいやつがいれば普通は排除しにくるだろう。

 そして洞から這い出てきたのは、全長2.5メートルほどの巨大な生物。

 豚鼻をフゴフゴと鳴らすそいつは、薄汚れた体にボロ切れのような衣服を纏っており、背中側の腰には剣鉈のような形状の武器を差している。

 首にはジャラジャラと頭蓋骨を連ねた首飾りが吊るされ、そこには人間の物としか思えない骨もいくつか存在していた。

 ……もしかしたら病人を運んでいるだけの心優しいオークかもしれないと期待していたのだが、これは確実に『乙女の敵』だろう。

 股間にテント張ってるし。


「ブヒヒッ!」


 ネチャぁ……と舌なめずりをする異形の姿に、ルジェはゾワッと鳥肌を立てる。


「うわっ……絵に描いたような凌辱系エロゲのオーク…………」


 捕まったら100%、苗床コースだろう。


『戦闘系スキルの取得はどうする?』


 私はメニュー画面の管理を担当しているので確認すると、ルジェは不敵に笑った。


「まずはそのまま戦ってみましょう。ちょうどいいから素の状態でどこまでやれるのか、この肉体の性能を試してみたいわ」

『……危なくなったら勝手に取るからな』


 メニュー画面の操作や戦術とかは私が考えることにして、ルジェには戦闘だけに集中してもらうことにする。


「ええ! そっちは任せるから、こっちは任せといて!」


 そしてエキゾチック美女(推定)を守るため、醜悪なモンスターとの初戦闘が始まった。



     ●◇●◇●



 最初に動いたのはオークだった。

 こちらを無力な獲物としか考えていないのか、オークは無造作に距離を詰めると、手を伸ばしてルジェを捕まえようとしてくる。


「舐めプかっつーの!」


 ルジェは迫りくる掌を大雑把に躱し、自分の胴体よりも太い腕を力任せに殴りつけた。

 ドゴッ!

 意外にも力強い音が鳴る。

 ぺちんとルジェの拳が跳ね返されるだけかと思いきや、実際はオークの太い腕が少女の細腕によって大きく弾かれた。

 流石に傷を負わせることまではできなかったが、吸血姫であるルジェの力は、その華奢な見た目に反してかなり強いらしい。

 オークも少しは痛かったのか、忌々し気にこちらを睨みつけてくる。


「ブギィイイイイイッ!」


 そして今度は怒りに任せて腕を振り上げ、攻撃の体勢に入った。


「よっしゃ! バッチこい!」


 それを見たルジェはアホなのかボクサーみたいに構えて、オークの攻撃を防御しようとする。

 いや……それは無理があるだろう。


「んぎっ……!?」


 バキャッと、豪快な音が鳴り、案の定ルジェの身体は吹き飛ばされた。

 20メートル以上もの距離をサッカーボールみたいにバウンドし、ボロ雑巾のようになったところで、ようやく勢いが止まる。


「あー……いたた…………流石に正面から殴り合うのは無理かー……」

『そこは体格差を見て気づこうか……』

「いや、ほら、剣と魔法の世界なら物理法則を超越できるかと思うじゃない。それに、片腕だけで済んだんだから、ちゃんとガードには成功しているわ!」


 オークの剛拳をモロに受けたルジェの左腕は、その半ばから骨が皮膚を突き破って飛び出しており、傷口からはピューピューと血液が吹き出している。

 しかし右腕のほうは無事だったらしく、転がった時にいくつものスリ傷ができているが、まだ動かすことはできそうだった。


『たまたま右腕に当たらなかっただけでは……』

「運も実力のうちってやつよ!」


 なんてやり取りをしている間にも、オークはこちらに近づいてきて、再びルジェを捕まえようとしてくる。

 まあ、遊びはここまでだ。

 私は開きっぱなしにしておいたスキル画面から、あらかじめ選んでおいた戦闘用スキルを取得した。



〈――100SPを使用し【体術・基礎】を取得しました〉

〈――100SPを使用し【軽業・基礎】を取得しました〉

〈――職業【見習い格闘家】が選択可能になりました〉



 ルジェは地面を蹴って、今度は迫りくる大きな手を最小限の動きで回避し、空中でくるりと一回転してから、華麗に着地を決める。

 その洗練された動きに警戒したのか、オークは醜悪な笑みを引っ込めると、腰の獲物に手を掛けて、こちらの動向を静観してきた。


「ごめん……舐めプしてたのはこっちだったわね」


 ルジェは無事な右手を左腕から飛び出した骨に添え、それをムリヤリ体の中へと押し戻す。

 激しい痛みが脊髄を駆け上がったが、痛風で痛みに慣れているルジェは、涼しい顔で左腕の整復を終えた。

 すぐに再生スキルが発動して、傷が閉じていく。

 この回復速度ならば、5分もあれば元通りになるだろう。

 再生スキル様様である。

 そんな風に私が冷静に観察している間に、ルジェは痛みで乱れた呼吸を整えていた。


「悔しいけれど……認めてあげる。今のあんたは、あたしよりも強い」


 言葉は通じないと思うけれど、それでも強者への敬意を表して、ルジェはオークに語りかける。


「だからこそ、ゾクゾクしちゃう……」


 彼女の声には恍惚の感情が含まれており、この死闘を心から楽しんでいることが、その声音を聞くだけでわかった。

 自分の血の匂いでハイになっているのか、そこには痛みや死の恐怖に怯える音色など、欠片も含まれていない。

 そして、ルジェは右腕一本でファイティングポーズを取り、


「楽しみね……あんたを倒した時、あたしはどれだけ強くなっているのかしら?」


 武器を抜いたオークとの第2ラウンドが始まった。



     ●◇●◇●



 新規獲得職業:【見習い格闘家】


《職業一覧》

 見習い:【見習い格闘家】

 固有職:【吸血姫】




 新規取得スキル:【体術・基礎】【軽業・基礎】


《取得スキル一覧》

職業:【体術・基礎】【軽業・基礎】

種族:【吸血・基礎】【再生・基礎】【操血・基礎】【並列思考・基礎】【聖邪吸収】

 固有:【金月神の祝福】


《保有魂素量》……200SP











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