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バ美肉おじさんは転生しました!  作者: 森本みつき
第1章 オークキングの花嫁
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第2話 バ美肉おじさんは分裂しました!

あけましておめでとうございます。


第2話 バ美肉おじさんは分裂しました!




 森の中を、らんっ、らんっ、とスキップして移動する。

 フワフワな腐葉土を踏みしめ、木漏れ日に照らされた暖かな森の空気を楽しみながら、私は七色に輝く不思議なモヤの中を全裸でスキップしていた。


 え? どうしてスキップしているのかって?


 そんなの『かわいい』からに決まっているだろう。

 あとはまあ、身体能力の確認というのもあるけれど……一流のバ美肉おじさんたる者、常にかわいいを意識して行動しなければならないのだ。

 というか体に羽が生えたように軽やかで、以前は膝が痛くてジョギングすらできなかった私としては、単純に飛んだり跳ねたりできることが嬉しかった。

 どうやらこの肉体に痛風は無いらしい。


「さらば! プリン体の恐怖っ!」


 ……ちょっと中身のおじさんが出てきてしまったが、あの痛みを知る者としては美少女に転生したのと同じくらい嬉しいのだから仕方がない。

 つまりこの時の私は幸せの絶頂で、頭がパーになっていたのだ……。




 そんなこんなで移動すること三十分。

 私はひとつの結論へと辿り着く。


「うん、迷ったかも!」


 先ほどまで嬉しくてクルクル回っていた私は、自分がどちらから来たのかすらもわからなくなっていた。

 いや、転生した瞬間から迷子みたいなものだけど……なんか森の様子が鬱蒼としてきたというか……そこら辺から怪物でも出てきそうな気配がするというか……。

 オープンワールドRPGとかで順路を外れて進むと、やたらと強い雑魚モンスターが現れてワンパンでやられたりするだろう?

 雰囲気としては、あんな感じに近い。

 足元に生える植物の形状も禍々しくなっているし、とにかく正しいルートから外れた感が凄かった。


 ふー……まずは落ち着こうか、私よ。


 ここは危険がいっぱいの異世界なのだ。

 そしてなにより、今の私は全裸なのだ。

 美少女の姿で遊ぶよりも先に、やるべきことがあるだろう。

 日本のサブカルチャーを愛するナイスなおじさんだった私は知っている。

 異世界に来たら最初にやるべきこと。

 それは『ステータス』をチェックすることだ。

 いや、この世界にステータスがあるかどうかは知らんけど、その有無からチェックするのがセオリーだろう。

 そんなわけで、


「ステータスオープン!」


 全裸の美少女は欠片も恥じることなく、お決まりの呪文を唱えた。

 天上天下唯我独尊なルジェ様は、この程度で恥ずかしがったりしないのだ。

 そして目の前に現れる四角い画面。



《ステータス》

 名前:ルジェ・チノミヤ

 状態:健康

 職業:【吸血姫】

 種族:【吸血姫】

 加護:【宵闇と光明の女神】


《装備》

 武 器:なし

 防 具:なし

 装飾品:なし



 おお……ほんとにあったよ、ステータス。

 というかゲームみたいな『メニュー画面』と言ったほうがいいだろうか?

 画面の上部には《ステータス》《スキル》《インベントリ》《マップ》と四つの項目が設置されているし、完全に地球のゲームが意識されていると思う。

 そして加護の欄にある【宵闇と光明の女神】という御方が、私を転生させてくださった女神様だろうか?

 試しにその名前に触れてみると、小さなウィンドウが出てきて説明が表示された。



【宵闇と光明の女神】……幻想界マグナ・マギカを管理する大神の一柱。金月神や混沌神とも呼ばれている。最近は全裸サバイバル動画と、血飲屋ルジェの動画にハマっており、睡眠時無呼吸症候群で死んだバ美肉おじさんの魂を全裸美少女の姿で転生させた。おじさんにはこの世界で自由に生きてほしいと思っている。



 うん……自分の置かれた状況がよくわかったわ……。

 なにやら全裸サバイバル系のエンターテインメントとして転生させられた感じがしなくもないけれど、生き返らせてもらったのだから文句は言うまい。


 とりあえず女神様……睡眠時無呼吸症候群で死んだおじさんを蘇らせてくれて、本当にありがとうございます。

 それと動画のご視聴もありがとうございます。

 バ美肉おじさんやっててよかった……。

 嬉しくて泣きそうだよ……。

 ていうか異世界の女神様も見てるとか……y〇utubeやべぇな。


 私はナムナムと感謝の合掌をして確認作業に戻る。

 画面の名称をタッチすると説明がでることがわかったので、他のところもツンツンしてみると、追加で一つの解説ウィンドウが現れた。



【吸血姫】……この世にたったひとりしか存在しない吸血鬼に似たナニカ。聖なる肉体と(よこしま)な精神を兼備し、混沌の覇王となる資質を生まれ持っている。



 ふむ……どうやら【〇〇〇】と表示されている部分には説明が出るようだ。

 しかし酷い説明文である。

 転生した種族が謎の生命体であることはさて置き、私の精神が女神様から『邪』と認定されたのはショックだった。


 おかしいな……私は善良な日本男児だと思うのだが?

 ちょっと美少女の皮を被ったりはしているけれど、愛と勇気しか友達がいないし、どう考えても私の精神は聖なるおじさんだと思う。

 強いて邪悪っぽい部分を挙げるとするならば、美少女であるルジェの肉体を活かして、女湯に入ったり、異世界の美少女たちと濃密なスキンシップを取ろうと思っているけれど、それは『美少女が大好き』という設定を持つ血飲屋ルジェとしてのロールプレイなのだから、私の心に邪悪な部分など欠片もないのだ。

 まったく、おじさんを悪者にする風潮にも困ったものである。



 まあ、気を取り直して。

 お次はスキルチェックといこうか。

 先にインベントリを見て服の有無を確認してもいいけれど、おそらく宵闇と光明の女神様は服を用意していないだろうし、なにより私はゲームのスキル画面が大好きなのだ。

 スキルを組み合わせてコンボを考えたり、ぶっ壊れた性能のスキルを探したり、そこには男心をくすぐる浪漫が詰まっていると思う。

 もしかしたら服を作るスキルがあるかもしれないしね。

 そして神々が実在するこの世界にはどんなスキルがあるのかと、私はワクワクしながら画面を切り替えた。



《取得スキル一覧》

職業:なし

種族:【吸血・基礎】【再生・基礎】【聖邪吸収】

固有:【金月神の祝福】


《保有魂素量》……1000SP



 うん、これは弱い……よな?

 吸血姫レベル1、みたいな。

 いくつか取得済みのスキルがあったので、ひとつずつ見てみる。



【吸血・基礎】……吸血行動に極微補正。

【再生・基礎】……再生能力に極微補正。

【聖邪吸収】……聖気と邪気を吸収し、SPに変換する。

【金月神の祝福】……宵闇と光明の女神が創造したバ美肉おじさんの固有能力。メニュー画面を使用でき、この世界の言語を理解できるようになる。



 ……どうやらこのメニュー画面は特別な能力だったらしい。

 固有というからには私にしか使えないのだろうし、メニュー画面の中にはインベントリとかマップとか、単体でもチート能力になりそうなものが含まれているうえに、言葉まで理解できるようになるのだから【金月神の祝福】はかなりのぶっ壊れスキルだろう。


 さらにスキル画面を調べてみると《保有魂素量》の後に『取得可能スキル一覧』が表示されており、魂素(SP)というポイントを使えばスキルを取得できることがわかった。

 たとえば【剣術・基礎】などの初歩的なスキルなら100SPで取れるけれど、【剣術・神級】を取ろうとするとアホみたいな量のSPが必要になる。


 ざっと目を通してみたが、基本的にスキルは最低ランクの【基礎】から始まり、鍛えていけば【初級】【中級】【上級】と熟練の域に達し、さらに極めれば【王級】【帝級】【神級】と天才や英雄と謳われるような域にまで高めることが可能らしい。

 耐性系スキルは【極微】【低位】【中位】【高位】【極大】【無効】【吸収】の七段階。 


 取得条件を満たしていないのか、今はロックされているスキルも多いけれど、取得可能スキル一覧には数万種類ものスキルが表示されており、条件を満たせばドラゴンの魔法を使用したり、鬼神の武術を体得することもできるみたい。


 ……ほんとこれ、やろうと思えば覇王になれるんじゃないか?


 強そうなスキルはコストも馬鹿みたいに高いから、国を作るには天文学的な量の魂素が必要になるだろうけれど、吸血姫であるルジェの目標としては悪くない気もする。

 自由に生きていいみたいだし……美少女の国でも創ってしまおうか?

 美少女が大好きなルジェならば、そんな感じで生きるだろうし……。


「夢が広がるわ~」


 まあ、今はこの森で生き残ることと、服をどうにかすることが先だけれど。

 とりあえず私は、ざっと目を通したスキル群の中から、服を作るのに使えそうなスキルと、すごく気になったスキルを取得してみることにした。

 画面を操作してスキルの取得を実行すると、視界の隅に文字が流れる。


〈――100SPを使用し【操血・基礎】を取得しました〉

〈――500SPを使用し【並列思考・基礎】を取得しました〉


 ログ表示まであるとか完全にゲームだな……。

 まあ、それはさて置き。

 吸血鬼系統の種族スキルである【操血】は、その名の通り血液を操る能力である。

 これを使えば、乙女の聖域を保護する肌着くらいなら作れそうなので取得してみた。

 肌着の作り方は単純。

 親指の腹に八重歯を押し付けて血を流し、スキルの力で握り拳ほどの血液を空中に浮かべてから、それを布状に伸ばしてお股と胸部に纏わせるだけ。

 真紅の下着を装着したルジェは、ドヤッと胸を張って私に訊いてきた。


「どうよ、これ? 似合ってる?」

『ああ、むしろ全裸よりもエロいくらいだ』

「キモッ……やっぱりおじさんの精神は邪悪の塊ね」


 素晴らしい!

 やはり私の勘は間違っていなかった!

 並列思考スキルを使えばルジェのロールプレイ担当の精神を作り出して、楽しく会話することができるかもしれないと考えたのだが、これは想像以上の神スキルである。

 人格を増やしてまで話し相手を作るとか……寂しいおじさんってか?

 うっさいわっ!


 自作したバーチャル美少女とお話ができるとか、まさに自給自足の極みと言えるだろう。


 だからこれはSPの無駄遣いでは決してないのだ。

 そしておじさんの精神担当である私は、ルジェの中に住まう異世界の精霊【クロノ】として、魔法少女の傍らにいるマスコットキャラみたいな立ち位置を目指していこうと思う。


「そんなマスコットは嫌なんですけど」


 ルジェさんが渋い顔をしているが、おじさんの決意は揺らがない。

 なぜなら一心同体である我々は、相思相愛であることを理解しているのだから。

 内心でそこを指摘すると、ルジェは頬を赤らめて、ぷいっと横を向く。


「……ま、これからよろしくね、クロノ」


 ロールプレイ担当の見事なツンデレに、私の心がほっこりする。


『ああ、こちらこそよろしく頼むよ、ルジェ』


それから私たちは細かな役割分担などをして、冒険の準備を整えていった。




     ●◇●◇●




 新規取得スキル:【操血・基礎】【並列思考・基礎】


《取得スキル一覧》

職業:なし

種族:【吸血・基礎】【再生・基礎】【操血・基礎】【並列思考・基礎】【聖邪吸収】

固有:【金月神の祝福】


《保有魂素量》……400SP





カオスの始まり……。



2022/01/09 下記の文章を追加しました。

人格を増やしてまで話し相手を作るとか……寂しいおじさんってか?

うっさいわっ!

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