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27:求婚

「バカなッ、こんなことがあるわけが……ッ」


 堂々と玉座の袂まで辿り着いたフィオナを見て、スコットが苛立ち交じりに声を上げる。

 そんな中、アリシアはほっと安堵していた。


「――国王陛下、ご入来!」


 選定侯の入場が終わり、玉座の近くから現れた衛兵が叫ぶ。

 玉座の間にいる楽団によって荘厳な音楽が奏でられ、立派な白髭を蓄えた初老の男――オースティン王国十七代国王、ブレント・ノワール・オースティンが現れた。

 次いで王妃と王子たちが現れ、玉座の隣に並べられた椅子の前へ立つ。


 貴族たちは一斉に臣下の礼を取り、ブレントは彼らを見回して建国祭の開幕を宣言した。


 慣例となっている王国への忠誠を誓う儀式を終えると、後は本当の祭りになる。

 儀式を終えた貴族たちから順に玉座の間の隣のホールへ移動し、飲めや歌えやの宴が始まる。


 アリシアがホールに入ると、ホールの中央でクライヴとフィオナが話しているのが見えた。

 彼女が人だかりの中にいることに若干の違和感を抱きながら近付くと、アリシアに気付いた二人が手を挙げて招き入れる。


「ご立派でした、フィオナ様」

「ふん、公爵家の人間として当然ですわ。……その、ありがとう」

「いえっ」


 顔を赤くして感謝の言葉を口にするフィオナにアリシアは優しく微笑みかける。

 そんな二人をクライヴは穏やかな笑みを湛えて眺めていた。


 ――っと、そこへずかずかと割って入る者がいた。


「っ、おい、アリシア・プリムローズ!」


 鬼の形相で詰め寄ってくるスコット。

 その勢いに気圧されてアリシアは一歩後ずさる。


 スコットが間近に迫ったその瞬間、アリシアの視界を広い背中が覆った。


「僕たちはちょうど話しているところだったんだけど、君は一体誰かな」

「クライヴ様……っ」


 二人の間に割って入ったクライヴは、スコットを鋭く睨みつける。

 公爵家の跡取りの威圧にスコットは一瞬怯むも、すぐに引き攣った笑みを張り付けた。


「これはこれは、クライヴ卿。ご歓談中のところ申し訳ありませんが、俺は今彼女に用があるんですよ」

「申し訳ないとわかっているのならここは引くべきじゃないかな。いくら建国祭が半ば無礼講とはいえ、貴族として最低限の節度は必要だ」

「っ、あんたの目は節穴か! 目の前の女が昨日までと違うことに気付かないのかっ」


 スコットの叫び声に周りの興味も集まり始める。

 アリシアが内心ハラハラしていると、クライヴは涼しい顔で応じる。


「節穴? 少々言葉が過ぎるのではないかな? それとも僕の婚約者に何か不満でも?」

「っ、おい! アリシア、お前もなんとか言え――ッ」

「きゃっ」


 クライヴの脇をすり抜けてアリシアの腕を掴もうとするスコット。

 しかし、クライヴがそれを阻む。


「いっつ、おい、離せ!」


 手首を掴まれたスコットが顔を顰める。

 クライヴはスコットの耳元に口を寄せると、凄味のある声で囁いた。


「状況が見えていないようだから言っておくけど、今の君の振る舞いは狂人のそれだ。フィオナ嬢もアリシア嬢もここにいて、君の弁を肯定する要素は何一つない。レディを脅迫すること自体許せないことだが、君がここで大人しく引き下がれば、それ以上何も起こらないんだけどね」

「――っ、あんた、まさか全部知って……!」


 クライヴの顔を見上げ、驚愕の表情を浮かべるスコット。

 それからアリシアの顔を忌々し気に睨みつけ、クライヴの手を振り払ってホールを去っていった。


「クライヴ様、申し訳ありませんっ」

「どうして謝るんだい? 僕は婚約者とその友人に無礼を働く者を止めただけだよ」

「それは……」


 そう言われればこれ以上何も言えない。

 だが、今まで彼のことを騙していたアリシアたちの事情を知った上で、スコットから助けてくれたのも事実だ。


「……ありがとうございました」


 アリシアは深い感謝と共に頭を下げる。


 ――その時、場の空気が一変したのをアリシアは頭を下げたまま感じ取った。


 ハッと顔を上げるとホールの入り口から先ほどまで玉座に座していた男――ブレントが現れた。

 立派な白髭を弄りながら歩みを止めることなくアリシアたちへ近付いてくる。

 そして、目の前で足を止めた。


 慌てて礼をしようとする三人を、ブレントが制する。


「臣下の礼は不要だ。何せ今日は祭りなのだからな」


 重々しい響きを持った声でブレントが話す。

 三人は恐縮しながらも頭を上げた。


「聞いたぞ、レイモンド卿。フィオナ公爵令嬢と婚約したそうじゃないか」

「――はっ」

「めでたいことではあるが、公爵家同士の婚姻を王家として喜ぶべきか否か……」


 含みを孕んだ物言いに、アリシアたちはただ固唾を呑んで見守っていた。

 そんな中、クライヴだけが口を開く。


「恐れながら陛下。僕は愛する女性のためならそのようなことは気にしない男です」

「はははっ、そうかそうか」

「――しかしながら、僕は真実の愛を見つけたのです」

「ふむ? と申すと?」


 クライヴは一度フィオナを見る。

 フィオナは小さく頷いた。

 その頷きを見てから、今度はアリシアを見つめた。


 どこか熱っぽいその視線にアリシアはドキッとする。


「――レイモンド公爵が長子、クライヴはフィオナ公爵令嬢との婚約を破棄します」

「――ほう」


 ホール内がざわりと沸き立つ。

 ブレントは興味ありげに顎髭を擦る。

 そして、と。クライヴは言葉次いでアリシアの方を向いて跪いた。


「彼女――アリシア・プリムローズ子爵令嬢に求婚いたします」

「……はぇ? えぇええ――ッ!?」

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