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24.被害者なのか加害者なのか

「金や優遇措置やらで、この村の事は黙らされていたのさ。もし、俺たちが手伝わなかったら、被害も出ていないのに騒ぎにして、この村を訴える用意があった。周辺は全て敵。上は、こちらの訴えを退けることの出来るやつがいて、じゃあどうしろと? もし借金の問題になれば、全員が借金奴隷になっても払えるかどうかわからない」


 壁を睨むようにして見ているイリーガルの瞳は怒りが滲んでいた。


「もし、まわりの人間が少しでも助けてくれていたのなら、なんとかなった。しかし、見捨てることを自分たちの利益だけを考えるような奴らなんかに同情はできない。川の水に有害物質が流れれば、あいつらにも被害を与えられるだろう?」


 それが復讐だとイリーガルが言った。

 しかし、それを事前に知って被害を食い止めていたのは旦那様だ。

 彼からしたら、旦那様がすべてを知っていて、何もしないで放置したようにも感じたはず。なんだか、余計に拗れている。


「私も万能ではない。知っていても出来る事と出来ない事がある。この領地は広く歴史がありすぎて、私一人の権限では動く事ができない事も多々ある事は知っているはずだ。期待してくれているのは有難いが、見捨てた方が良い事もある。領地経営には光も闇もどちらも存在しているのだからな」


 旦那様と結婚して長くはないが、それでも人となりは分かってきているつもりだ。

 少なくとも、簡単に人を突き放すことはしない人だと思っている。助けるためには彼なりに利がないと動けない。動いてはいけない。そういう考えを持っている人だ。

 慈善事業でないからこそ、一度許せばなし崩しに秩序が乱れる。


「それが真実であろうと、俺たちには関係ないな……被害者面したいが、俺たちにも非がある事は分かっている。――――……さて、色々話したが、領主様あんたはどうするつもりだ? 犯罪者としてこの村の連中全員ひっとらえるか?」

「何事も無く穏便に済ませるのなら、全員の口をふさぐのが一番楽な道だ。それが一番知らぬ存ぜぬで通せるからな」

「素晴らしい力技だな……もしそれをやるのなら、せめて子供たちだけは助けてほしい」


 本気だとすれば、それを止める手立ては彼にはない。

 唯一良心に訴えかけるとすれば、子供たちを助けてほしいという事だけだった。

 旦那様は、もう聞きたいことはすべて聞けたのか、がたりと音を鳴らして席を立つ。


「一つ聞きたいんだがいいか? どうして今回動く気になったのかを」


 旦那様は口角を上げて、イリーガルの質問に答えた。


「新妻のご所望だったからだな。この地が欲しいんだそうだ。なにやらやりたいことがあるらしい。領地にとっても有益そうだから許可したので、ここで働く人間の確保もしたいところだ。お前たちが口を噤めば、なんの問題もなく解決するだろうな」


 そのふざけたような説明に、イリーガルの方が訝し気に旦那様を見た。

 事実かどうか、一瞬わたしの方を見て来たけど、知らぬふりをする。


 ……旦那様、わたしを理由にしてますけど、はじめからどうにかするつもりでしたよね? あんなに分かりやすくわたしに気付かせたんですから。

 イリーガルは、思いもよらないことを言われたような驚愕な顔をしてわたしを見た。なので、わたしはにこりと微笑んで返す。

 先に言っておきたいんですけどね、別にこの人愛妻家ってわけではないですからね? その辺ぜひ誤解しない様にお願いします、と眼力に込めて。


「なるほど、色々と気持ちのありようが変わったのか……政略結婚だと思っていたが、案外そうでもないのか? まあ、見た目は美人だし……」


 イリーガルがぶつぶつと独り言を言っている。

 完全に納得できていないって態度。

 少なくとも、全くおとがめなしで終わるとは思っていないようだ。

 本当の所、どうやって最終決着付けるかはわたしには分からない。旦那様の気持ち一つで全てが決まる訳なのだから。

 領主として軽々しく謝罪はできないし、犯罪行為をそのままにしておくことも出来ない。

 その落としどころは、この先決まっていくけど、たぶんそこまで悪い事にはならない気がする。


 旦那様の顔がいい感じに笑っていますので。


 何か企んでますって顔だけど、わたしは何も聞かなかった。

 聞けば墓穴を掘りそうだったので。


「今日の所は、事実確認だけだからな。戻るぞ」


 がたりと席を立つ旦那様に続いてわたしも席を立つ。

 その際、旦那様は手を取って立ち上がらせてくれることを忘れない。

 なんとなく、イリーガルの視線が気になったが無視した。


「マードックはもうしばらく預けておく」

「それはどうも……持ち帰ってもいいんだが?」

「あれは役に立つだろう? それに、本人もここが気に入っていそうだ。言われたことはするが、それ以上の事は自分の意思で動いてもいる事は、分かるだろう?」

「まあ……あんたの命令だけで動いていたとは思わないさ」


 少なくない年月を共に過ごしていたのだから、お互いの事は多少分かるようで、村で過ごしていた全部が全部旦那様の命令で動いていたわけではない事は分かっているようだった。


「イヤイヤここに留まっていたら、流石にわかるさ。今だって、率先して山の方に行ってくれてる」

「山ですか?」


 そういえば、村に到着した後も誰も様子を見に来ないことを不思議に思っていた。

 男性陣がほとんどいないと。


「そういえば、言ってなかったな。少し前から、山の方で大型の獣の姿を見かけるようになったらしい。実際に見たのはほとんどいないが、マードックが昨日調べてくれて、確かに何かの足跡が複数あったようだ」

「それは危険ではないのですか?」

「判断が難しい。見かけると言っても、はっきりとその姿を見てはいないんだ。ただし、何かあっても助けを呼べないことは分かってるだろ。だから、事前に慎重に調査して、対策を取るのさ。今までもそうしてきた」


 山や森が広がる場所なのだから、多少の大型獣は生息している。

 それでも、ここまで人里近くに来ることは少ないらしい。


「まあ今は、この土地を欲しがっている高貴なお方がいるらしいので、対応はお任せしたいところですがね」


 そんな言葉を投げかけてきた。

 わたしに向かって言っているけど、軍を動かすなら実際は旦那様の領分なので、しれっと旦那様に対応を押し付けることを心に決める。

 これ以上お互いに言葉は無く、これで本当に終わりなのだと判断して旦那様と二人で店を出ようとしたその瞬間、けたたましい音を立てながら勢いよく扉が開かれた。


「イリーガルさん!」


 慌てたように飛び込んできたのは、カルナークだった。

 わたしたちの事を気にすることもなく、はあはあと肩で息をしている様子と尋常でない慌て方で、何か良くないことが起きたのだという事はすぐに分かった。


「カルナーク、どうした」

「どうしたら……マードックさんが!」

「落ち着け。一体何があったんだ?」


 カウンターの中から出て行くと、カルナークの肩にそっと触れる。

 今にも泣きだしそうなカルナークは、わたしたちのことなど目に入っていないようで、縋るようにその手を掴んだ。


「マードックさんが言っていた、あれが――、崩落が起きて! マードックさんが中に!!」


 混乱してるカルナークの身体は震えていて、縋るようにイリーガルの腕を掴んでいた。




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