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6.夫婦の寝室にて

 わたしはバタンとベッドの上に正面から倒れ込んだ。

 現在、すでに夜もだいぶ深い時間だ。わたしはお風呂も済ませて寝巻に着替えている。

 柔らかいベッドは勢いよく倒れたわたしを優しく包み込んでくれた。


「つ、疲れた……」


 移動に、怖い小父様方との会食。

 休む暇もないとはこの事だ。


 ある意味皇都邸では、平和だったのだと知った。

 既に懐かしい気持ちでいっぱいだ。


 お昼寝、お昼寝が恋しい。ダラダラ生活したい。仕事するとか言ったけど、撤回したい。


 うぅっと低く唸っていると、静かに扉の開く音。

 人の動く気配がして、ベッドが少し沈む。


「死んだふりか?」


 そうです!

 ですから話しかけないでください!


 ぽんぽんと頭の後頭部を子供を慰めるような手つきで労ってくる。

 髪がベッドに広がっていて、旦那様が髪を軽くつまんでいるのを感じた。


 というか、好きですね。

 髪弄るの。


「どうだった?」


 何が? と聞き返したいところだったけど、おそらく今日の晩餐会の事だ。

 家臣や、親族まで集まっていたのは驚いた。

 全員、わたしに興味津々。

 わたしは大勢の人間に試されている気分になった。むしろ、試されていたのだと知った。

 こうなるだろうなってどこかで分かっていても、怖いんだよ!

 祖父や母世代がこちらを隙なく一挙一動を見られていて、ゆっくりご飯なんて食べられない。

 胃が縮みます。


「何人か気になる人はいましたよ。あからさまな視線には気づきますよ。厄介そうな方もいますけど、若い方々は皆さんいい人そうですね。お義父様世代の方々が一番面倒そうだなと思いました」


 旦那様も同じように感じている事は分かっている。

 よっこらしょとベッドの上に座り込む。

 予想外に近い旦那様に若干身体が逃げそうになった。


「実は祖父と同年代の長老格の方が、伝統も大事だが、それにこだわる事が実にくだらない物だという事を知っている。なにせ、戦争を間近に感じていた世代だし、彼らの父親は戦争を経験もしている。伝統で凝り固まった概念は存在しないようだ」


 なるほど。

 戦争中は臨機応変な対応が求められますからね。


 国同士の戦いで、リンドベルド公爵領軍だけで撃退できていたのも、柔軟な考えがあってこそという事だ

 まあ、地の利があったというのも大きいと思うけど。


「むしろ、平和になってからの方が伝統伝統とうるさいな」


 で、伝統無視して結婚した旦那様が気に食わないと。

 ついでに、その嫁も。

 もちろん伝統が大事なのは分かる。

 旦那様だって全てをないがしろにしたいわけではないと思う。

 結婚なんて人生の一大イベントなんだからちゃんとしろ! って気持ちも分かる。


 思い出すのは、本日の晩餐時。

 本日、当主の帰還を祝う晩餐会と名打っておりましたけど、その実わたしの品評会。


 いやぁ、正式なお披露目は確かにされていないので、親族家臣一同、集まっておりましたよ。

 特に御親戚の方々は虎視眈々と旦那様の隣の席を狙っていた方々がいらっしゃったので、じーろじろでしたね。

 ちなみに、今回の晩餐会は正式なものではない。


 きちんと招待状を出しての正式なものはまた後日。

 今回はその前哨戦だ。知り合いが尋ねてきてるから晩餐に招待する、そんな感じの晩餐会。

 しかし、さすがはリンドベルド公爵家。その知り合いの数はやばいですね。

 もともと家臣との晩餐会は定期的に行われているとの事。労いや今後の事の意見交換の場に使われているそうだ。

 夜ごはん食べるだけなのに、お仕事兼ねているとはね。

 あ、でも社交なんてそんなものか。


「悔しそうにしている相手を見るのはなかなか愉快だ」

「前から思っていましたが、性格歪んでますね」

「君も大概言うようになったな」


 ええ、ええ。

 遠慮していたら、駄目だってこと悟ったんです。

 悟りを開いたら、こうなったのであしからず。


「一番興味のあった話は?」

「やはり炭鉱の話でしょうか。実は、炭鉱のあるところって、高地だからあの子たちが生活してきた場所と似た環境かなと思いました」


 炭鉱閉鎖するなら、ぜひ遊び場所に下さい。


「しかも、北よりだからな。毛の感じ的におそらく環境的には涼しい場所の方が得意だろう」


 もともと高地に居ついているヴァンクーリさん。

 寒いところがお得意なのは当然の事。


 旦那様はわたしの要求を正確に理解し、少し考えてまあいいかと判断したようだ。


「どうせ廃鉱にしたら人はあそこでは生活できなくなる。新たな産業を興すにしろ、いい案はないし……あえて言うなら、アレを栽培するかくらいだな」

 

 アレとはヴァクイの事ですね。


「食べる動物いるからいいんじゃないですか? 北部なんて一大生産地ですよ。麦の生産は微々たるものですから」

「そもそも、市場ではどのくらい売れるんだ? そしてどのくらい買われる?」


 関わっていない事業に関しては旦那様も知らない様子。

 なんでも知っていそうだけど、ちょっと安心した。


「北部寄りのベルディゴ伯爵家でも少しは生産してましたけど、ほとんどが領地内で消費でしたね。知っているかも知れませんが、お高いですけど栄養があるので飼料的には少なくすみます。ですので、実際のところは買うなら飼料代金としてはお高くなるかなってところです」


 あくまでも買うならだ。

 自領で売るためにではなく、使うためとなると、もう少しお値段は下がる。

 寒いところなら勝手に育ってくれる素晴らしい食べ物。

 食べ物と認めたくないけど。

 一番手間なのが、中の種を取り出すところ。品種改良されていても、硬いものは硬いのだ。


「買うより自領で賄えるのならその方がいいな」

「ちなみに、最近アレ食べさせた方がお肉が柔らかくなり甘みが増すという報告がありました。予算割いて研究してみようかと思いましたが、わたしが結婚したのでなくなりましたけど」

「面白そうな研究だな」


 旦那様が興味を示した。


「ブランドつけて売り出せば、高値が付くかなぁと思いまして。北の方では家畜さえも少ないから今まで着目されませんでしたけど、食べる物によって変わるのは人も同じですし」


 基本的にはちょっとお高い飼料とお安い飼料を混ぜて使うのが一般的。

 ただし、人が食べるのも厭う品を家畜に与えてもいい影響はないと言うのが食肉を育てている領地の言い分。

 まあ、分かる。

 栄養あってもおいしくないものは影響しそうだよね。


「どうせ廃鉱にするなら研究設備でも作るか? 有益そうな話だし、研究員は変わり物が好きだから、でかい動物が走り回っていても文句言わないだろうしな」

「そこに雇用も生まれますしね」


 まずは作物作るところから。

 お世話する人も必要だし、一番必要な人手は収穫時。


「ほかにも色々考える必要はありそうだが……、それは後日にしよう」


 すでに夜も大分遅い。

 そろそろ、寝なければ明日に差し障る。

 何気なく旦那様を見ると、旦那様と視線が合う。

 いたたまれない気持ちにさせられて、身体がむずむずした。

 疲れて寝たい。

 だけど――……


 どうやって寝ます? 旦那様。




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