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【書籍化・コミカライズ】三食昼寝付き生活を約束してください、公爵様  作者: チカフジ ユキ
(第三章)三食昼寝付き、心の癒しは重要案件
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9.これはわたしのせいではございません

「リーシャ、起きろ!」


 肩をゆすられて、わたしは強制的に眠りの淵から呼び戻された。

 寝ぼけ眼で目をこすりながら、不機嫌そうに身体を起こすと、目の前には旦那様。


 ものすごく顔に出てしまったのはご愛嬌。


「……なんですか……、そもそも、なんでいるんですか」


 うぅーっと唸るようにぼんやり文句を言うと、旦那様にいきなり抱き上げられた。

 突然の事に、わたしは理解が追い付かず、成すがままだ。


「問題が起きた。彼らは、想定外におかしい種族だったようだ」


 はぁ?

 彼ら? 想定外におかしい?


 どういう事なのか全く分からないまま、わたしは旦那様にベッドから身体を掬い上げられ抱きかかえられた。


「ちょ!」


 一体何ですか!

 と文句を口にするよりも早く、旦那様は部屋のバルコニーに繋がる扉を開けて外にでる。


「下を見ろ」


 部屋付きのバルコニーに連れてこられると、旦那様に下を見ろと促された。

 わたしは未だに思考能力が追いついておらず、言われるまま、バルコニーの下に視線を向けた。

 そこには、人だかりが出来始めていて、遠巻きに何かを見ている。


「……大きく……なりましたねぇ?」


 ……うん、大きくなってるねぇ。寝る前は確かに小さかったように思うんですけど? あれぇ? 夢、夢かなぁ?

 なんか灰色っぽいでっかいのがいますねぇ。

 あの子が成長したら、こんな感じになるのでしょうか……。


「わふ!」


 旦那様の足元で、小さな毛玉がバルコニーの手すりの隙間から外を覗き込んで鳴いている。

 あ、可愛いですねぇ。

 でも首の鎖、噛みちぎられているのは気のせいでしょうか?


「現実逃避しているんじゃない、起きろ」

「起きてますぅ」


 子供っぽい言い方になってしまったせいで、旦那様がため息を吐いた。


「仕方ない」


 そうつぶやくと、旦那様がわたしを片手で抱きなおした。

 

「ひゃっ!」


 バランスを崩しそうになって、思わず旦那様の首に縋りつく。

 ちょっと、変なところ触らないでください!

 しかも、いきなり体勢変えられると驚くんですよ!


 そう抗議するよりも早く、旦那様は足元のわふわふ鳴いて尻尾を振っている小さな子供を空いている手で拾い、そのままバルコニーに足をかけた。


「え?」

「しっかり捕まっていろ」


 短くそう言うと、そのまま二階にあるわたしの部屋から飛び降りた。

 ふわりとする浮遊感。

 しっかり抱えられているけど、どこか安定しないそれに、恐怖と驚きでがしッと旦那様にしがみ付いた。


「ひえぇぇぇ!」


 なんで飛び下りるんですかぁぁ!!

 舌噛みそうになったじゃないですか!!


 って、そもそも玄関から出ましょうよ! 何横着してるんですか! 普通の人は飛び下りるって発想にならないって理解してますかねぇ?


 時々とっても動きが雑――というか乱暴な旦那様。

 二階から落ちたくらいで死にはしないかもしれないけど、大けがはするんです。

 心臓がドキドキ早鐘の様に打っているのは、決して旦那様にトキめいたからじゃないですからね!

 

 そんなわたしに対して、旦那様は大股で騒ぎになっているそこに近づいていく。

 ちなみに、わたしは昼寝のために軽い室内着、そして裸足のため、旦那様は下におろすことなくそのままわたしを抱えたままだ。

 旦那様はわたし一人の重さなど意に返さず、左右に分かれる使用人の間を歩いて行く。


「あ、リーシャ様……」


 ミシェルが一番前で、わたしと旦那様の姿を見て目を見開いた。

 いや、何も言わないで!

 そのニヤついた顔! ちょっとなんでもないですからね!?


「で、どうしたらいいんでしょうか? さすがに少し困りますよ、リーシャ様」


 なんでそこでわたしに振る?

 わたしだって何がなんだか分からないよ!

 どうして、大きな獣様がどーんと居座っているかなんてね!


 二階からでも良く見える、そんな場所に我が物顔で寝そべる大型の獣が一体。

 整えられている芝の上で悠々と寝ころんでくつろいでいる様子は、ここが自分の居場所――縄張りだとでも言っているかのよう。

 全く警戒することもせず、前足に頭を乗せているその姿は実に自然体だ。


「えぇと……お迎え……でしょうか?」

「相当寝ぼけているな。いいか、普通そんな簡単に居場所など分からない。そもそも、国境を越えてまで匂いを追ってここまでくるなど、明らかに異常だ」


 分かってますよ。

 気持ちがいいところ起こされて、頭はいきなり動けないんですよ、色々と。


「わふ、わふわふ」


 旦那様に地面に下ろされた子が、うれしそうにゆったりと過ごしている大型の獣に寄っていく。

 鼻先でお互い挨拶をしているのか、それとも確認しているのか、触れ合っていると、今度は大きい方が、小さい子供を優しく舐めた。

 それに転げまわって喜んでいる毛玉がほっこりする。


 って、ほっこりしてる場合じゃない!


「あのー、やっぱりお迎えですよねぇ?」

「だといいな」


 あー、うん。

 言いたいことは分かりますよ?

 居座るかも知れないって事ですよね?

 でも、相手は野生の動物ですよ? 好んで、人と暮らすなんてあるんですかねぇ?

 あったとしたら、とっくに家畜化されてますけどね。


「とりあえず、こっちに危害を加える気配はないけど……さすがにこの大きさの獣を皇都に無断で連れ込んだって言われたら、まずいんだよねぇ」


 と、ミシェル。


 そうなのだ。

 この皇都に連れて入れる大型動物は決まっている。

 それ以外は面倒な手続きが必要になるし、もし何かあったら全面的に飼い主が補償することになっているのだけど、今回は――……どうしようもなくない?


「え……わたしのせいじゃないですよね?」

「今のところ、君が責任者という立場だろうな。連れ帰ってきたのはリーシャだ」


 えーと責任者?

 ちょっと!


 確かにあの子ここに連れ帰ってきたのはわたしですけど、皇都に連れ込んだのは私じゃないですけど?

 それに、さらに言えば、大型獣様は勝手にいらっしゃいましたけど!?

 どこから来たか分かりませんよ。


 とりあえず、第一発見者に詳しく聞きましょう! 旦那様。

 もちろん、一緒にですからね!?



お時間ありましたら、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いします。




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