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15.最後に笑うのは誰でしょう?

 その後、「まあ、しばらくは色々我慢して、信用構築を目指すことにする」と旦那様が言った。


 ぜひ、お願いします!

 いい人ではないけど、信用できるとミシェル嬢も言っていたので、これからの旦那様の行動に期待したいところだ。


 ラグナートにももちろん話を聞いた。

 さすがにあの話が冗談でした、嘘でしたなんてことはないと思うけど、ラグナート本人からも話が聞きたくてラグナートが使っている総括執事の執務室に押し掛けた。


 わたしが何を聞きに来たのか分かっているのか、ラグナートは驚く様子も見せずに席をすすめお茶を注いでくれた。

 まあ、おおむね旦那様が言った通りだった。

 そこで旦那様と共謀してわたしに嘘ついているって事がなければの話だけど、でも多分本当の事だ。

 長い付き合いで、わたしの事を誰よりも知っているであろうラグナートの事も、わたしだってよく知っている。


 ただ一つ、ラグナートは付け加えた。


「何がリーシャ様にとっての幸せか、それは私にもわかりません。だからこそ色々な事に挑戦してほしいとも思いました。私が強いてしまった事で諦めることも多かったでしょうが、できるならやりたかった事をしてほしいと思います。しかし、もし何かを始めるにしてもやはり元手となるモノも必要です」


 あー、つまりお金?

 ラグナート、あなた旦那様を金づると思っていたの?

 旦那様は、自分はラグナートがわたしを預けるに値する男だったなんて言ってたけど、それって性格とか内面の話じゃなくて、一番は財力だったの?

 それ、旦那様知ってる?


 ちょっとだけ旦那様がかわいそうになった。


「リーシャ様、申し訳ありませんでした。本当はもっと早く謝るべきでしたが、なかなか機会に恵まれず……」


 ラグナートがきっちりと頭を下げる。

 こんな風に後悔しているラグナートを見るのは初めてだ。

 でも、恨んでなんていない。

 わたしを育てて守ってくれた人で、今もこうして、自分を犠牲にしてわたしのために骨折ってくれている。

 老後をのんびり過ごしてほしかったけど、ラグナートは死ぬまで旦那様の元で働くことになった。

 それはそれで、ラグナートは楽しそうだからいいのかも知れないけど。

 それに、旦那様もラグナートを頼りにしているみたいだし、いい関係でいてくれるのなら特に言うべきことはない。


 ふと、わたしはいたずらにラグナートに聞いた。


「もしわたしと旦那様が喧嘩したら、ラグナートはどっちの味方になってくれるの?」


 ラグナートは穏やかに微笑んで言った。


「内容にもよりますし、言い分にもよります」


 と。

 ずるい言い方だ。

 まあ、間違った当主を止めるのも総括執事の役割の一つ。

 ぜひ、わたしに味方してほしい。大体の場合、旦那様が悪いから。


 話が区切りがついて、わたしはお茶を口に含む。

 すると、扉が外から数度叩かれ、ラグナートが返事をする前に扉が開いた。

 こんな事をするのは旦那様一人。

 いつもなら、問答無用で扉を開いているか、呼びつけているだろうに、一応は気を使ったようだ。


「話はすんだか?」

「ええ、旦那様もお茶をいかがですか? 後ろのお連れ様も」


 ラグナートの言葉に、わたしが旦那様と一緒に入って来た人物を見た。

 そして、あっと驚きに目を見開く。


「久しぶりですね、リーシャ様」

「ミシェル嬢――いえ令息?」

「僕の事、もうクロード様から聞いてるんですよね?」


 そう言う彼は、長かった髪をバッサリと切り、男らしい装いだった。

 こうしていると、確かにちゃんと男に見える。

 格好いいというよりは、可愛いだけど。


 ラグナートが席を立ち、二人がわたしの対面に座る。

 そして二人にもお茶を注いで、ラグナートは旦那様の後ろに立った。


「それでは改めまして。初めまして、リンドベルド公爵夫人。ミシェル・ルーと申します。以後よろしくお願いします。ぜひミシェルとお呼びください」

「……ルー?」

「そう、母親の実家の姓。今はもう没落してないんですけど、クロード様の計らいで、その姓をいただけることになったんで」

「えっと……アンドレット侯爵家の方は……?」

「ああ、縁を切ってきました。もともと、使い勝手のいいコマとしか見られていなかったし、働いた分だけ待遇良くなるとかだったらまだしも、完全にただ働きだったし」


 にこにこと微笑みながら、あっさりとそんなことを言い出すミシェル嬢――いやミシェルは、晴れ晴れとしたすっきり顔だった。


「まあ、詳しくはまた今度話しますよ」

「ミシェルを連れて来たのは、今後の事について話しておこうと思ってだな」

「今後?」

「ミシェルはリンドベルド公爵家の保護下に入り、公爵家で働くことになった。主な仕事は君の護衛だ」

「えっ?」

「これから外出の機会も増えるだろうが、さすがに一人で行かせるわけにはいかない。騎士を付き添わせるのも君は嫌がりそうだから、代わりにな」

「そうそう、女性のお茶会も任せて下さい。僕、結構好きだったんですよ女装は。コイバナとかもね」


 ……旦那様が言っていた。見ての通り変わり者だと。

 いや、本当に変わり者すぎでしょ。

 男がうきうき楽しんで女のお茶会参加するって、どういうことなの?

 しかも装い完璧美女になっちゃうんだから、世の中おかしい。


「これからどうぞよろしくお願いしますね、奥様。あ、もちろんクロード様の事で困ったことがあったら相談に乗りますよ! 僕はどちらかと言えば女性の味方なので。ちなみに、何か報復したいことがあったら、ぜひ僕も参加させてくださいね」


 一応雇い主になる旦那様の隣でそんな事言っていいのでしょうか?

 鋼の心臓でうらやましいです、ミシェル。


 というか、あなた絶対愉快犯でしょ、この間の時といい!


「性格は難ありだが、腕はいい。ほどほどに付き合うように」

「ひどいなぁ、うっかりクロード様の秘密ぽろっと話しそうです」


 え、秘密ってなんですか? すごく気になる!

 しかし、旦那様が深紅の瞳で凍てつくような輝きを放ちながらミシェルを睨む。

 ディエゴあたりなら、速攻ピキーンって固まりそうだけど、ミシェルは飄々として全く効いている様子はない。


「ま、それは追々にしておきますよ。いきなり雇い主に盾突きませんよ」


 癖強すぎでしょ、ミシェル。

 すっごい疲れそうなんだけど、主にわたしが。


 というか、旦那様……もしかして自分がつかれそうだからって、わたしに押し付けた……とかないですよね?


 ジッと旦那様を見ていると、目が合って、旦那様の口元がふっと上がった。


 やっぱり! わたしに押し付けたのか!!

 仕事押し付けるように面倒な人を押し付けないでください!

 信頼構築はどこ行ったんですか!!


 ふんぬー! って怒りを見せても、旦那様は撤回する気はないようだった。

 ミシェルとラグナートは、そんなわたしと旦那様を楽しそうに見ていた。



 

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