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14.誰のための最善か

「話を戻すが、ラグナートもかなりの影響力を持ってはいても、所詮は使用人。当主に出て行けと言われたら従うしかない。そうならないように、立ち回った結果、君に厳しく接していた。だが、君が成長していくにつれ、君が母君に似ているがゆえに重ねてしまったんだろう。このままいけば、不幸な結果になるのではないかと」

「確かに、ベルディゴ伯爵家にいたら未来は無かったかも知れませんね」

「母君は幸せとはいえない結婚をしたが、孫の様な年の君にも同じようになってほしくなかったんだろうな。ラグナートはそこまで話していないので推測だが」


 ひたすらに、わたしが直系一族であるから守っていた。血を守る事こそが、自分の使命であるかのように。

 そこにあるのは、ある意味執着に似た強い思い。

 そんなに大事なモノなのかわたしには分からないけど、ラグナートにとっては生涯を捧げたからこそ、誰よりも思いは強かったのだと思う。


「まあ、ベルディゴ伯爵家で幸せになってくれれば、ラグナート的には一番喜ばしい事だったんだろうがな」


 それはわたしだってそうだ。

 なんだかんだで、ベルディゴ伯爵家を守るのはわたしだと思っていた。

 ラグナートだってそういうつもりでわたしを教育して守ってくれていた。

 だから、旦那様の言う通り、ラグナートにとって一番最善だったのはベルディゴ伯爵家にわたしが留まって幸せになる事だ。

 それができなくなった時、ベルディゴ伯爵家の血を守るかわたしの幸せをとるかの選択でラグナートは後者を取ったという事だった。


 実は、父親からこの話を聞かされた時、真っ先にラグナートに相談した。

 それは当然の事。

 誰よりも信頼できるからこそ、このままではベルディゴ伯爵家を出て行く事になる可能性を伝えなければならなかった。

 でも、ラグナートは反対しなかった。

 あれだけ実直にベルディゴ伯爵家とその直系を守ってきたのに、最後の直系であるわたしを外に出すのを止めなかったのだ。

 

「はじめから旦那様とラグナートはグルだったんですね」

「グルって……間違ってはいないがせめて共犯者ぐらい言えないのか」

「同じ意味です」


 気が合うなと思っていた。それは間違いではないと思うけど、それ以上に初めから旦那様とラグナートが組んでいたと言う方がしっくりくることもある。


「今思うと、他家の事なのに詳しすぎだなって思いましたよ、ラグナートの調べた件は。旦那様がラグナートを通して資料を渡したんですよね?」

「そうだ、でも彼ならなんとかしてそうだがな」


 ラグナートが優秀なのはわたしが一番知っている。

 だからあまり不思議には思わなかった。


「旦那様的にはそれで良かったんですか? ラグナートに勧められたからと言って結婚は重大案件だと思いますけど」

「結婚はいつかはしなければならないとは思っていた。それは義務だからな。だからと言って誰でもいいわけでもない。たまたま条件に見合った人間がいて、たまたま優秀な人間が私に忠誠を誓うと言ってきたから、受けただけだ。もちろん、もし見当違いだったらさっさと理由つけて結婚抹消していたかもしれないが」


 それは確かに難しい事じゃない。

 結婚したと社交界で話に上りはするけれど、当の本人は姿を見せず、本当に結婚したのか疑う人間だっていた。

 もし、わたしが旦那様のお眼鏡にかなわなければ、あっさりと切り捨てられていたと思う。

 はじめから結婚なんてしていなかったとリンドベルド公爵家が言えば、あ、ただの噂だったのねで終わる。

 なにせ、結婚式自体広まる前に終わったわけだし。

 

 リンドベルド公爵家から考えればベルディゴ伯爵家なんて些細な規模でも、それでも当主代理として色々仕事していたので、時には非情な決断も必要なことくらいはわたしにだって分かる。

 理解はできるけど、やられたくはない。


「リーシャ的にはどうだったんだ、この結婚は?」


 それは難しいところだ。

 旦那様の話を聞く前までは、気持ちは半々。

 旦那様は善人ではないけど悪人という訳でもない。

 一応、人の気持ちを汲んで動くこともあるみたいだし。まあ、自分に利があると思ったからなんだろうけど。

 うーん、まあ生活は改善されたし、今はまあまあ居心地もいい。

 それに話を聞いたら、多少二人の気持ちと行動も理解した。

 理解しても、それを納得するかどうかはまた別問題だけど……


 わたしが悩んでいると、旦那様のため息が降ってきた。


「そこまで悩まれると困るんだが」

「仕方ないんですよ、色々やられた恨みというのはなかなか消えませんからね。でも、今は少し旦那様の事見直してはいます。わたしの事よく見てるなって……確かに無理矢理動かさないとわたしはぬるま湯の中でぬくぬくしていただけでしょうし」


 だって下手な義務も仕事も嫌だしね。


「断言してもいいが、ぬくぬくしていたら、一か月もしないうちに飽きてるぞ」


 呆れたように旦那様が言う。


「私が言うのもなんだが、君はどちらかと言えば頭と身体を動かしているときの方が生き生きしている。堕落したいと言っていたのは、それだけ身体が休みたがっていただけで、それが改善されれば、暇になってしょうがなかったと思うぞ」


 そんな事はない――そう言いたかったけど、確かに下女の真似事して楽しく身体動かしてたわ。

 嫁いで一週目から。


「色々やらせていたが、もうやりたくないと言うのなら、やらなくてもいい。一応、公爵夫人としての義務――仕事はしなくていいという約束だったしな」


 それを今さら言うんですか。

 でも、旦那様は本当にわたしの事をよく見ている。

 いやいや言いながらも、適度に仕事しているほうがわたしには合っていた。仕事人間とは思いたくないけど、旦那様と仕事の話をするのは嫌いじゃない。

 話の合う人と仕事の相談するのは、楽しいし意外な意見も聞けるし自分のためにもなる。


「別に今のままでいいです。旦那様も言っている通りでもありますし、今後は何かやらせたいときにはぜひ相談していただきたいですけど……でも、もしここでわたしがじゃあ仕事やめますって言ったら、どうするんですか? 離婚ですか?」


 そんな事するつもりはないけど、もしそんな事したら、旦那様は即離婚と言いそうだ。


「今はしないな」

「意外ですね、旦那様ならあっさり離婚しそうなのに」


 考えもしないで否定してくる旦那様を意外そうに見上げると、それが当然かのような口ぶりでわたしに言う。


「自分でも意外に思うが、存外君と話をするのは嫌いじゃない、むしろ好ましいと思った。はじめはここまで話が合う人間が珍しいのかと思ったが――……今は、一人の人間として、女性として好ましいと思っている」


 突然の旦那様の告白に、わたしは脳内処理が追い付かずぽかんと口を開けて、それこそ旦那様に言わせれば間抜けな顔でその深紅の瞳を見つめていた。


「………………えっ?」

「……なんだ、その反応は。そもそも、好きでもない女にあれほど色々するものか。周りはみんな気付いていたのに、君だけが気付いていなかった」


 いえ、全然知りませんでした。

 単なる嫌がらせかと……。


「まあ、そんなお子様な君に無理矢理教え込むのもいいかと一瞬本気で考えたこともあったが……そこは理性的にやめておいた」


 そ、そうですか。

 一瞬ゾクッと背中に悪寒が走りましたよ、旦那様。

 



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