6.皇室のお茶会
みなさんキラキラしてますね、さすがは皇室主催の大規模お茶会。
なんというか、気合の入り方が違います。
独身の紳士淑女の方々にとっては最高のお見合い場所。
なにやらそこら中でうふふふ、きゃっきゃっと戯れている。
主に、女性陣。
なぜかすごく必死なのはなんででしょうね。
そして、わたしの姿を見ると驚きと同時に恐怖のような顔になるのはなぜ?
おかしいわぁ、わたしあなたがたとほぼ初対面ですよね?
そんなに怯えないでくださいな。
「何したんだ?」
「何もしてませんよ」
さすがに旦那様も気づいたか。
でも言っておきますが、わたしは何もしてません!
そもそも、初めてお会いする方々ばかり。
原因は無くもないけど、あれは旦那様にも原因があるんですよ?
おそらく、あのお茶会に来ていたメンバーがわたしのことを社交界で広めてくれたのだと思う。
怒らせると望まない結婚を結ばされるぞと。
そこまで非道な事はしませんよ。
まあ、時として不幸は襲い掛かるものですけど、決してわたしのせいではございません。間違わないでくださいね? 因果応報という言葉があるんです。
手に持つ扇の影でうふふふと笑う。
エスコートしている旦那様にはモロバレだけど、別に問題なし。
ちょっと、旦那様! なぜそこで残念な子を見るような目でわたしを見ているんでしょうか?
失礼ですよ!
旦那様は軽く息を吐くと、正面を見るように促した。
「主催者のお出ましだ」
本日の主催者は皇室であり、つまり皇妃陛下だ。
母親である皇妃陛下が主催するお茶会に、皇女殿下が参加しないとか、そんな事はありえない。
仲の良い母子なのだ。
皇妃陛下はオレンジの髪と同色の瞳を持つ人で、本日は綺麗な青のドレスを着ている。
二十年近く皇妃として内外での社交をこなしているだけあって、その影響力は絶大。そして、本人もそれに見合う努力をしていると言うのは見て取れる。
共に姿を現したのは真っ赤な髪と皇妃陛下から遺伝したオレンジの瞳。見た目だけなら、すごく美女なんだけど、性格を知っていると目が意地悪く見える。何か、獲物を狙っているかのような目だ。
着ているのは流石に深紅のドレスではなかったけど、似たような色合いの赤いドレス。
その皇女殿下の姿に周りの貴族からの視線がちらちらと旦那様とその隣のわたしに多く集まる。
喧嘩売られてるぅ!
社交が苦手でも、こんなにあからさまならすぐわかる。
ああ……いまからわたしが小動物の如く、皇女殿下に狩られるわけか……。
まあ、一度くらいなら下手に出て逃げに徹してもいいか。
旦那様もいるしね。
何かあったらわたしの盾になって下さい!
「行くぞ」
「はい」
気合を込めて足を踏み出す。
旦那様は本日は登城用の仕事着だけど、それなりに格式ばった服装だ。その胸ポケットには深紅のハンカチーフ。カフスボタン等の小物も同様の色の宝石。
わたしの方は、今日の日のために誂えた、深紅のドレス。
深紅のドレスは公爵夫人特有のドレスだけど、基本的には夜会に着るイブニングドレスが多い。
お茶会にまでこのドレスを着ることはほとんどないけど、今日はわざわざ着てきた。
誰が見ても分かるように。
だって、わたしの今の容姿を知っているのは一部の貴族だけ。
信じてくれなさそうだしね。
わたしは旦那様と共に主催者の元に向かう。わたしたちに気づくとまるで道をあけるかのように人が横に割けていく。
向こうもわたしたちに気づき、こちらを見ていた。
おぅ、皇女殿下、すっごく睨んでる。
美女に睨まれると迫力ありますなぁ。
口元がひくつきそうになりながら、それでも根性で穏やかに笑みを浮かべた。
旦那様が若干皇女殿下の視線から守るように動いているのは、絶対自分のためなんだろうなぁ。
夫婦仲良好です! 妻の事は大事に思っています! ってパフォーマンス。
夫婦仲最悪だったら、横やり入りそうですしね。
実際のところは誰にもわからないから。
「本日はお招きありがとうございます。私の仕事の関係で、なかなか妻を紹介する機会がなく申し訳なく思っておりましたが、紹介するのによい機会に恵まれ参加させていただきました。こちらは妻のリーシャ・リンドベルドでございます」
「リーシャ・リンドベルドでございます。ベルディゴ伯爵家からリンドベルド公爵家へと嫁いでまいりました」
頭を下げて、声がかかるのを待つ。
「頭をお上げなさい」
皇妃陛下の許しを得て、わたしは顔を上げる。
間近で見る皇族に少し緊張した。
一応、成人した際に皇帝陛下に謁見はしたけど、多数の成人貴族の一人だったので、ここまで近くに皇族がいる事は初めてだ。
まあ、旦那様も皇族の一人と言えなくもないけど、もう慣れた。
皇妃陛下がわたしを上から下まで眺めまわして、かすかに鋭く睨む。
まあ、皇妃陛下からしても、わたしは娘の婿がねを奪った人間だから、思うところはあるよね。
仕方がないとは言っても、社交界の女性権力者に嫌われるとか、ある意味すごいよねぇ。他人事なら楽しんだけど、当事者だと楽しめない。
「まあまあね。あなたは、どうやらお母様に似ていたようね。見た目だけならばリンドベルド公爵家に釣り合っていてよ?」
高圧的に、容姿だけの女と評価受けました! 容姿しか取り柄がないって批判的お言葉だけど、でもありがとうございます!
みなさんのおかげで、自分でもびっくり変貌を遂げたけど、こうして皇族の方にも褒めてもらえる容姿で、しかも母に似ていると言ってもらえるのは、すごくうれしい。
むしろ、ベルディゴ伯爵家にいた時は、容姿のぱっとしない父に似ていると言われていたので、余計にうれしい。
「お褒めいただきありがとうございます。これからも、夫を支えてリンドベルド公爵家を盛り立てていく所存です。ぜひとも皇妃陛下や他のご夫人方を参考にしていきたいと思いますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます」
夫を立てて、出すぎず控えめに。そして、なるべく無難に返す。
新婚の新妻ならばこんなところだろう。
とりあえず、結婚歴の長いお方たちを敵に回すのは、令嬢方を敵に回すより厄介だ。
ぜひ、仲良くしてくださいとあいさつしておけば、近くで聞いていた人の耳から外に広がってくれるはずだ。
「あら、わたくしとも仲良くしてくださるでしょう?」
突然わたしと皇妃陛下との話の腰を折るように皇女殿下が話しかけてきた。
うーん、これ一応無礼な発言だって分かってるんだよね?
これは一応公務の一種。
つまり、母娘の間柄でも遠慮すべき関係である筈だ。
どう反応するべきか迷っていると旦那様が皇女殿下に苦言を伝えた。
「まずは、その装いをどうにかするところから始めるべきではないでしょうか? 社交の場に深紅に近い布地を使ったドレスを纏うなど、我がリンドベルド公爵家に対し思うところがあると言っているようなものです。まさか、皇族ともあろう方が、そのような常識も知らないとは言わないでしょう?」
うわー。
旦那様も言うね。
周りの貴族もびっくりしてますよ。
一瞬にして緊張感が増した気がする。
さすがにわたしも少し変な汗が出てきた。
公的場所で、皇族批判とかよく出来るな。怖いもの知らず――というか、リンドベルド公爵家だから許されるのか……。
「まあ、クロード。我が娘――リンデットも悪気は無かったのよ? それにただの赤いドレスではないの。娘には赤が良く似合っているのよ。髪の色ですしね」
意味ありげに皇妃陛下がわたしのドレスをちらりと見る。
それは、わたしに深紅は似合わない――つまりリンドベルド公爵家は分不相応って批判ですかねぇ。
でも、自分でいうのもなんだけど、このドレスも以前着たドレスも良く似合っていたと思うよ。
皆さんの協力のおかげでね。
お時間ありましたら、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いします。