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5.信用ゼロには疑いを

「待ちましょう! ちょっと待ってください!」


 わたしは必死で訴える。


「その、ちょっと勘違いしただけです! 旦那様がたった二か月でそんな不義理な事をするわけがないと信じています!」

「信じているのに、そういう発想になる訳か?」

「そ、そそ、それは、その――……ちょっとした冗談――とか?」


 あははは、っと笑ってみせると、旦那様に思い切りため息を吐かれた。

 ちょっと、ため息吐きたいのこっちのほうなんですけど!?


「全く笑えないな、それどころか、鳥肌が立ちそうだ」


 えぇ?

 そこまで?

 でも、顔は本気で歪んでいる。

 これは相当嫌がっているなぁって私でも分かった。

 だけどミシェル嬢はとっても美人。そこまで嫌がるようなことでもないだろうに。

 それとも、好みじゃないとか? まあ、人の好みは様々だけど、それでも鳥肌が立つくらいミシェル嬢はありえないとか、普通じゃない。


「あの、ミシェル嬢と何かあったんですか?」


 わたしの知らない過去に。


「さあな」


 教えてくれる気はないようで、短くわたしに返すと、旦那様がわたしの身体を起こしてくれた。

 良く分からないけど、気が逸れたらしい。

 そのまま軽くわたしを抱きしめて、あっさりと解放した。


 うーん、やはり旦那様らしくない。


 いつもなら、このまま何か怪しい流れになっていって軽く顔に口づけくらいはされる。

 もちろん唇にはあの日だけだけど。

 

 あっ、別に望んでなんていません。あっさり解放されてうれしいですけどね?


「そういえばリーシャ、君は皇女殿下についてどこまで知っている?」


 あ、事前情報を教えて下さるんですか? 親切ですねぇ。

 執務机に座らせたまま、旦那様がわたしを閉じ込めるように手をつく。

 でも、これはこれで近すぎるんでちょっと離れてほしい。


「美人で性格苛烈、旦那様の正妻の座を狙っていたってことくらいです。なにせ我が家は皇女殿下が参加するような夜会には参加資格もないもので。唯一会う機会があるとすれば、皇室主催の舞踏会とかですけど……あそこは人酔いしちゃいますので」


 当時は身体が弱っていたから、人込みは避けたかった。

 社交界の出来事なんて、領地経営にはほとんど関係なかったので興味なさすぎて、ほとんど聞き流してはいた。


「ほとんどその通りだ。両陛下とも可愛がり、教育係も甘かったらしい。唯一叱るのは一番上の兄皇子だが、今は遊学に出ていてそれもあってやりたい放題だ。さすがにすべての行動を肯定することはないが、少し叱る程度だ」

「両陛下がすべての行動を肯定してたら、すでに皇女殿下はこの国にいないのでは?」


 貴族の力関係とか変わってきそうだし。


「良く分かったな」


 ふっと口の端を上げる旦那様に、その本気度が窺える。

 というか、それこそちょっとした冗談だったのに。


「国に混乱を招く存在を断罪する事に戸惑いはない。それがリンドベルド公爵家の役目でもあるからだ」


 わたしは詳しくは知らないけど、リンドベルド公爵家は国に忠誠を誓っている。

 皇帝陛下ではなく、国そのものに。

 それは絶対的で神聖な誓い。

 なぜそれを信じられるのかわたしには全く分からない。


 だからこそ貴族の中でリンドベルド公爵家は特別なのだ。

 結婚前は姻戚関係にあるし、数代に一度はお互いの血を入れ合うから、かなり親密な関係だと漠然に考えていたけど、旦那様の口ぶり的にそれだけではないようだ。


「そもそも彼女をリンドベルド公爵家に入れるのはもともと無理があった。私の祖母が皇女で、少し血が近すぎる。血が近すぎる弊害は、一番分かっているだろう?」

「それは、まあ。重々に」


 なるほど。性格だけじゃなかったのね。絶対、それが原因だと思っていたけど、少し血が近かったのか。

 まあ、近すぎるという事でもないけど、皇女殿下の髪の色が少し気にかかったのかもしれない。

 彼女の髪は深紅――とまではいかないけど、赤い髪。

 皇室とリンドベルド公爵家は数代に一度は婚姻を結んでいるけど、皇室でここまでリンドベルド公爵家の色に近い子供が産まれるのは初めての事。

 先祖返りの可能性もある。

 そうすると、かなり血が近くなるということでもあった。


「それを伝えれば、皇帝は理解を示してくれた。だが、納得しなかったのは皇后と皇女だった。先祖返りの可能性があると言うだけでは、断る理由にならないそうだ」


 皇女様の婿がねとしては一番の人だからね。

 手放したくない気持ちも分かる。


 旦那様の方が皇女様から見ても八歳年上だから、社交界デビューする前に結婚していれば皇女様がこんな厄介なことになっていなかったのにね。

 その場合、わたしは今もベルディゴ伯爵家にいる可能性が高いけど。


「もしかして邪魔されていたりしたんですか?」

「前々から打診は受けていた。まだ彼女がほんの子供時分から。確かに私の方が年がかなり上だが、問題になるほど上という程でもない。それを言ったらリーシャとの年齢差の方が開いている」


 十歳差ですからね。

 貴族の政略結婚としてはまだありえる範囲の年の差。


「つまり、多少牽制されていたが、問題になるほどでもない」

 

 あー、じゃあ本当に興味なかったんですね、結婚に。

 まあ、それどころじゃなかったのは理解してますけどね。


 それに、今仕事を回されているけど、普通の貴族令嬢では処理しきれない。それこそ、運営技術がないと色々分からない事が多いだろうと思う。単純に家政を取り仕切るだけじゃない。

 普通は婚家に女主人がいて、少しずつ仕事を教わっていくけど、それができない旦那様は、即戦力となる女性を探していた。

 それが偶然にもわたしだったわけだけど。


前から思っていたけど、困っているなら言ってくれたらわたしだって悪魔じゃない。

少しはやりますとも。

まあ、実際現状知ってたらちょっとは考えたかも知れないけど。

守って欲しかったなんて事は言わないけど報連相(ほうれんそう)ぐらいはあっても良くない?


「でも、結婚しなかったから希望を持たせてしまったというのは大いにある。まさかはっきり断っているのに諦めていなかったのは驚きだった」


 驚きだったじゃないですけどね。

 もしかして、少しは皇女殿下のなさりように思うところがあるのかな?

 多少は責任感じてる?


 まさかねー。


「別に皇女殿下をどうにかしろとは言わない。所詮、向こうも何もできないだろうし。リンドベルド公爵家を敵に回せばどうなるかくらいは分かっているだろう」


 言わないんだ。

 どうせ旦那様の事だから、皇女殿下をなんとかしてもらおうとか考えているんだと思ってた。


「立食形式の広い会場だろうし、はじめに挨拶した後は適度に過ごして帰れば問題ない――ってなんだ?」

「いえ、別に」

 

 すっかり疑り深くなっているのは気にしないでください。




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