3.ミシェル嬢とのお茶会
天気が良くて、なんて最高のお茶会日和!
本日の主賓は、爽やかな青い空と同じような水色のドレスを纏ったご令嬢。黒髪黒目は勝ち気で、若干目じりが上がっているので気が強そうな印象を受ける。
年はわたしよりも二つ上の十九歳で、皇女殿下と同じ年だけど、皇女殿下みたいな苛烈な性格はしていないとは思う。
父親が侯爵位を賜っていて、本人もそれに見合うだけの努力をしていることは少し話しただけでも分かるし、その所作でも良く分かる。
そう、彼女は先日我が家で開かれたエリーゼ主催のお茶会に参加していたミシェル・アンドレット侯爵令嬢。
帰り際に今度お誘いしますねー、ではわたしもーみたいな挨拶をしていたので丁度よかった。
実際彼女からもお誘いのお手紙ももらっていた。
でも、今回はわたしが招くことにしたのだ。
分かるでしょ?
だって一回お茶会開けば半年は何もしなくていいんだよ?
面倒だって思っていたけど、旦那様は規模について何にも言わなかったし、ほら女二人集まれば、それは立派なお茶会なんだよ。
誰がなんと言おうとね。
「でも、本当に素晴らしいお庭ですね。こちらの東屋もとても歴史を感じさせます」
それはそうだろう。
お金かけて手入れしてるし、この東屋は相当昔の公爵様が奥様のために作ったもの。歴史を感じるのは当然。
というか、良くお勉強してるなぁ。この東屋の事よく知っているような口ぶりだ。年齢的に一度も公爵邸のお茶会には来た事ないはずなのに。
あ、この間のエリーゼのお茶会は無かったという事で。
「公爵邸は何もかもが素晴らしいですね」
「ええ、わたくしもそう思います」
お互いまだまだ慎重に会話。
お友達になれたらいいなぁとは思うけど、どうかな?
ゆっくりお茶を飲みながら会話は当たり障りのないものだ。
わたしがあまり社交に積極的でないから、ミシェル嬢の話はとても貴重で新鮮だ。
お互い一杯ずつお茶を飲んで軽く甘い焼き菓子を食べる。
あーおいしい!
下品にならない程度に最近お茶の時間に食べられていない甘い物をいそいそと食べていると、カップを空にした彼女は次のお茶を注いでもらっている。
あ、なんとなく話が変わる。
そんな雰囲気を感じて、わたしは姿勢を正した。
「リンドベルド公爵夫人はわたくしの事をどこまでご存じですか?」
「どこまで……とは?」
「わたくしの社交界での立ち位置の事を伺っております」
それね。
わたしだって多少知っている程度だけど、彼女の派閥はいわゆる反皇女殿下派。
別にアンドレット侯爵家が反皇族派というわけではない。むしろ、どちらかと言えば中立派。
ではなんで皇女殿下と張り合う事になっているのかと言うと、それはお察しの通り皇女殿下の性格のせいだ。
彼女は末っ子長女として誕生した結果周囲からそれはそれは可愛がられて甘やかされて育てられた。
そんな風に育てられたら、どんな風になるか分かるでしょ?
しかも権力持ってるし、一応美人だから鼻高々になるでしょ?
そもそも、旦那様が皇女殿下との結婚回避する理由にもなった性格を考えれば、多少難ありどころの話じゃないと思う。
漏れ聞こえてくる話では、ちょっとお近づきになりたくない。さらに言えば、今はわたしが皇女殿下から最も敵視をいただいちゃっているんで、皇女殿下が参加しそうなお茶会も夜の社交も全部お断り。
まあ基本的に全部断っているけどさ。
とにかく、そんな苛烈な皇女殿下。
ミシェル嬢は、皇女殿下に不当にも目を付けられた令嬢を庇い自分の派閥の中で守っているのだ。
なんて慈善家。そのすばらしい精神は、実はミシェル嬢こそ女神なんじゃないかと思う。
でも、なんで中立派閥のミシェル嬢がそんな事してるの? って思ってもいたけど、一番の理由が中立派のご令嬢が主に狙われているというのもあった。
なぜ中立派が狙われているのかと言うと、反皇室派は基本的に新興貴族の集まりなので、規模が小さい。
しかし、とにかくお金だけは持っているので本格的に敵対すると厄介になる。
そこはきちんと皇女殿下も分かっているようで、よほどの事がないとちょっかいをかけない。
でも時々、我儘虫がうずきだして、誰かに当たり散らしたくなるようで、丁度いい相手が中立派だったという訳だ。
上位の令嬢を狙えば、中立だった者が反皇室派になる可能性があるので、狙うのはいつも立場が弱そうな令嬢ばかり。
そして、そんな令嬢を保護しているのがミシェル嬢。
そうなると、立場上はミシェル嬢が反皇女派となるわけで。
なんだか最近では新興貴族寄りの中立派とも目されている。でも、ミシェル嬢は決してそういうつもりはないそうだ。
それとなく皇女殿下にも言ったこともあるらしい。
控えてほしいって。
でも、皇女殿下は中立派も敵の一種だと考えているようで、全く取り合ってくれなかった。
「エリーゼさんに近づいたのも、皇女殿下から守る意図があったのですよね?」
「それもあります。それに、もしかしたらリンドベルド公爵の庇護が受けられるのではないかという打算も」
正直な人だなぁ。
リンドベルド公爵の庇護があれば、皇女殿下だって手出しできないもんね。
忠臣中の忠臣と言われるリンドベルド公爵家は皇室の御親族だし。
噂によれば、皇帝陛下も旦那様には頭が上がらないって聞くし。
ちなみに、リンドベルド公爵家の派閥は? と聞かれると、影響力の規模が大きすぎて、どこの派閥にも属していないというのが正解だ。
皇族にだって意見できる一族って、派閥必要ないでしょ?
「わたくしに近づいたのも、リンドベルド公爵家の庇護がほしいからですか?」
「庇護が受けられるのならと思ってはおりますが、公爵夫人はあまり社交がお好きではない様子ですので、無理にとは言いません」
つまり、自分の派閥に入って守ってほしいって事だよね。
うーん……、ちょっと罪悪感。
だって皇女殿下にとっての最も敵ともいえる相手であるわたしが社交の場に出て行かないから、今のところミシェル嬢の派閥が被害を被っているという訳だ。
荒れている原因も旦那様の結婚。
その結婚相手が皇女殿下にとってはまさに自分よりも下の人間だったからこそなんだと思う。
これで他国の王族とかだったら、我慢するだろうし……するよね? さすがに……。
あー、これは少しくらいは協力したほうがいい気がする。
全部わたしのせいではないけど、少しくらいは原因でもあるし、女の世界は怖いよね……。
わたしは少しため息を吐きながら、提案した。
「その……一度くらいは皇室主催のお茶会に参加しましょうか?」
本人登場すれば、多少は敵意が逸れるだろうし。
旦那様を引き連れていけば、盾にもできる!
たぶん。
「よろしいのですか?」
ミシェル嬢は遠慮がちにそう言った。
よろしくないけど、仕方がない。
旦那様の言っていた厄介事の一つだし、正直言えば、ミリアム夫人を何とかするよりかは、まだ自発的になんとかしようと思った。
だって、自分が多少なりとも関わっていることだし。
「確か、近々ありましたよね?」
わたしも招待状をもらっている。
適当な言い訳述べてお断りしようと思っていたけど。
ちなみに、旦那様の分もあった。
「はい、ではその時に?」
「動き出すなら早い方がいいかと思いまして」
本音は嫌なことは先に終わらせるに限るだけど。
どこかほっとしたようなミシェル嬢に、わたしは少しだけ役に立てた喜びがあった。
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