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1.必要なのは、甘いもの

 目の前におわすは、リンドベルド公爵家の現当主で在らせられる、クロード・リンドベルド公爵閣下その人。

 深紅の髪と同色の瞳は極上のルビーのようで、一見情熱的な色合いでも、性格はとっても冷淡な人。

 いや違かった。

 その本性は詐欺師で腹黒で、悪魔で、性格が極限まで捻じ曲がった最悪な男と言ってもいい。

 誰もが認める美しく整ったご尊顔を持ち、その体躯も鍛え上げられていて、見栄えがいいせいで、世のお嬢様方キャーキャー騒いでおりますが、わたしは全く同意できなくなりました。

 そんなとんでも美形は、つい二か月程前に結婚した。


 その結婚相手は、何を隠そう、このわたし。


 うんうん、あの日のことは今でも覚えている。

 そしてそのせいで被った被害もね。

 ちなみに、現在わたしの仮想敵筆頭。

 とにかく、腹黒鬼畜悪魔男だった。


 言葉尻を曲解しまくって、わたしに義務と称する仕事を押し付け、今なお便利に動かそうとしていた。

 うん、でももうわたしの生活を脅かすものはない!

 つまり、この男のいう事を聞く必要はない!


 と、思っていたのは少し前。

 今のわたしは陥落寸前。


 事の起こりは、つい今しがたの出来事。

 


「ねえ、リル」

「なんでしょう、リーシャ様」

「今、なんの時間?」

「お茶の時間ですね」

「お茶の時間よねぇ……で、これは何?」


 そう、一般的貴族女性の生活には基本的に二度のお茶時間がある。

 優雅にお茶を飲みつつ、怠惰な時間を過ごす。


 朝食を取ってから、昼に入る間に一度、そして昼食を取ってから夕食に入るまでに一回の計二回。

 時には昼食代わりに社交のお茶会に呼ばれることもあるけど、そこで昼兼お茶をいただくこともある。

 つまり、お茶は貴婦人の嗜みなのだ

 そして、お茶のお供には必ず御茶うけなるものがある。


 そう、お茶請け! 甘いもの!


「それは書類でしょうか?」

「そう! なんでお茶請けのかわりにこれが持ってこられるのか、すごーく不思議なんだけど? どうしてないの? 甘いもの!」

「実はリーシャ様、お菓子の類は出さないようにとラグナート様から厳命がありまして」


 困ったようにリルが言う。


「なんで?」

「それはわたくしには分かりかねます」


 ですよね。

 絶対ラグナートが何か握っている。

 面倒な義務(しごと)は放置して、リルにラグナートを呼ぶように頼む。


 まったく、わたしの望みは三食昼寝付き――それはつまり堕落生活ってことでしょ! 旦那様にもそう言ったはずなのに、どうしてみんなわたしを働かせたいの!

 やめてほしい、本当に。

 

 不機嫌顔でお茶を飲んでいると、やってきたのはラグナートとなぜか旦那様。

 いやー、この時点で嫌な予感はひしひしですよ。

 非情な腹黒男は、人の言葉を自分の都合のいいように解釈する性格ねじ曲がった男なんですから。


「良い風だな、リーシャ」

「今無風ですけど?」


 トゲトゲしく返してやった瞬間、ざぁっと涼し気な風が吹く。

 ちょっと、そこの風! 空気読んで空気! なんで自然まで旦那様の味方なの!?


 旦那様はテーブルに肘をつき、こちらに向かって微笑む。

 優し気な慈愛ある笑みではない。真っ黒黒な企み顔。


「私にも茶をくれないか、ラグナート」

「かしこまりました旦那様」


 わたしのために準備されていたティーポットからラグナートが美しい動きでお茶を注ぐ。

 それをわたしの侍女たちがじっと見ている。

 同じ茶葉、同じティーポットなのに、淹れ方ひとつで味が変わって来るから不思議だ。


 ちなみに、今のところラグナートが最もお茶を淹れるのが上手い。次点でリル。実技一位で学院卒業のライラは流石に経験的にまだリルには及ばない。

 ちなみに、リーナはまだまだだ。

 ラグナートの味に慣れてしまっているわたしはちょっと辛口かもしれない。

 普通だったら十分及第点ではある。


「一体何の用ですか?」


 別にあなたに用事は全くないんですけど、旦那様。

 長い脚を見せびらかす様に組んで、お茶を飲んでいる暇があるのなら、書類にでも埋もれていてください。


「――美味いな、でもこういう上手い茶を飲んでいると何か食べたくなるな」


 わたしの耳がピクリと動く。


「何かご準備させましょうか?」

「そうだな……でも食べられないリーシャが可哀そうだからな。ここは自重しておこう」


 はいぃぃぃ!?

 何それ!?

 

 ピクピクとこめかみが動く。

 なんだかすっかり旦那様に対して我慢の沸点が低くなっている気がする。


「どういう事ですか?」


 怒りを抑えてわたしが口を開くと、旦那様はふっと笑う。

 もちろん、好意的笑みではない。


「それはもちろん、リーシャとの結婚前に交わした契約では甘い物は条件に入っていなかった――という事だ」

 

 おほほほ、そう言うと思っておりましたよ!

 でも甘かったですね?

 わたしだって色々対策練っているんです!


「そうですか、それなら仕方ないですね」


 顔には出さずに、静かに納得。

 ふん、いつもいつもいい様にされませんとも。

 とっくの昔に気づいておりました。残念でしたね、旦那様!


「ああ、ちなみに……ディエゴに頼んでも無駄だぞ。もう一つ、君の部屋に隠してある菓子類はすでに回収済みだ」

「……旦那様、妻の部屋とはいえ勝手に入るのは礼儀に反しますけど?」

「私は入っていない。ラグナートを通じて侍女に命じただけだ」


 はい、ちょっとそこの裏切者達! どういう事かな?

 侍女三人を見れば、三人ともニコニコ顔。

 なにそれ!

 あなた達はわたしの味方ではないんですか?

 一体わたしの味方はどこにいるんですかぁ!?

 

 そして、ごめんねディエゴ。あなたの休暇がなかったのはどうやらわたしのせいみたいだわ。 

 唯一の味方すらも守れない不甲斐ない女で申し訳ない。 


「さて、奥様? 何か言いたいことは?」

「……旦那様、わたし達はそろそろ契約事項についてもう少し話し合う必要性があるのでないでしょうか?」

「それもそうだな。私もそう思う」


 もう、嫌だ。

 なんでわたしはこんな男と結婚したんだろうか。


 あの時はこれが一番だと思っていたけど、実は一番最悪な男と縁を結んでしまったとしか思えなかった。


「ラグナート、契約書の準備は?」

「すでに」


 すっと正式契約の契約書を出してくるラグナート。

 何度も言ってるけど、ラグナート! わたしはあなたの前の主人ですよ!


「では、リーシャ。お互いの条件を擦り合わせていこうか?」


 これは気合を入れなければならない。

 というか、ちょっと待って! ラグナートと旦那様が組んでいる時点で圧倒的不利なんだけど! ちょっとは手加減してくださいよ、旦那様!


 くぅぅ!

 結婚したときはこんなはずじゃなかったのにぃ!!




お時間ありましたら、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いします。




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