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閑話1.秘書官の災難

 みなさん、こんにちは。

 僕はクロード・リンドベルド公爵閣下にお仕えする秘書官のディエゴです。

 最高学府を主席で卒業し、クロード様に引き抜かれた超優秀な人材です。


 実は卒業するまで鼻高々だった僕ですが、その高く伸びきった鼻をクロード様にぽっきり折られました。

 上には上がいる、本当にそうですね。


 どっかの国の言葉に井の中の蛙って言葉がありますけど、まさにその通り。

 狭い世界で思いあがりまくりだったのは否定できない。

 でも今は、そんなこんなでクロード様に少しは認められてがんばっている。たまに死ね、このクソ上司! って思わなくもないですが、本心ではありませんよ?


 さて、実は最近リンドベルド公爵家では色々と人事が変更された。

 その為に大量解雇が発生し、少し前までてんやわんやの大騒ぎ。

 もちろん僕も駆り出されましたとも。


 その筆頭人事変更は当然総括執事。

 まあ、話題にならないわけがない。

 実は、僕はあまり詳しく知らなかったんですが、このラグナートさんは超すごい人だったみたいで、正直びっくり。でも分かる気がする。だって仕事が尋常でないほどできるし、旦那様以上だって本気で思う。

 執事界隈では伝説とまで謳われた人で、そんな人を雇い入れるなんてさすがリンドベルド公爵家と言われていた。

 逆に、ラグナートさんを解雇したベルディゴ伯爵家の評判が落ちる落ちる。

 いいのかなぁ、一応あそこリーシャ様のご実家なんだけど。

 一つ言える事は、リンドベルド公爵家の力というより奥様であるリーシャ様のおかげですけど、それはきっと方々に伝わっているはず。


 そして、家政を取り仕切っていたミリアム夫人は娘のエリーゼ嬢と北へ向かう事になり、その一切合切をリーシャ様が引き継ぐことになった。

 でもこのお方、外では無能と侮蔑されていたのに、実際はとんでもない切れ者で。

 一緒に仕事をしていると良く分かる。

 それに、物事を見ている目線がまさに旦那様と同じ。

 旦那様は基本的に当主目線で物事を判断する。そして、僕はそれが時々理解できない時がある。なにせ、僕は当主でも領主でもないから、その目線に立って話を聞いても分からないことが多々あるけれど、リーシャ様は、即座に旦那様の言いたいことが分かる様子で、それが旦那様的に会話していて楽しいみたい。

 

 夫婦仲が良くてよろしい事だとは思うけど、独り身恋人なしの僕の目の前ではいちゃつかないでいただきたい。


 でも本当にびっくりなんだよなぁ。

 クロード様が結婚すること自体驚きでしたけど、さらにその相手にも驚きで。

 そして今の状況にも驚きが増して、日々驚きの連続だ。


 まさか、クロード様が正妻とはいえ女性であるリーシャ様にあそこまで入れ込むようになるとは。

 まあ、分からなくはない。

 話が合うという点で、旦那様の評価は上々で、びっくりする事に容姿が僕が知っているご令嬢ではなくなってました。

 まさに、女神。


 社交界で囁かれていた母君とそっくりらしい。

 そんな彼女に色々お願いされたら、断れない。僕だけじゃなくて、他の人もついついその頼みを聞いてしまいたくなる。

 頼み事も可愛い事ばかりだから、微笑ましい。

 ラグナートさんが厳しいから、たまには甘やかしてあげる人がいてもいいかなって感じで、少しリーシャ様には甘い自覚がある。

 でもその些細な頼みごとを聞くたびに思うのは、リーシャ様はまだ十七なんだよなぁって事。


 そして明日は久しぶりの一日休暇。

 リーシャ様のお願いを叶えるべく、明日は街に行く予定。


「ディエゴ、明日のお前の休暇はなくなった」

「はいぃ?」


 突然の上司のお言葉に、僕は抗議の悲鳴を上げた。

 あまりにも酷い決定です。

 そもそも、僕にだって予定というものがあるんですよ、予定というものが。


「お前、リーシャに何か頼まれ事してるだろう? 非常に困るんだ、お前のやっていることは」

「えぇ? そんなに重要なことでは……」

「ふん、いい様に使われていることに気づいていないとは、嘆かわしい事だ」


 馬鹿にするように見下げた視線に、僕もさすがにムッとしたけど、上司に盾突くと倍以上になって返ってくるので、何も言わずに我慢する。


「一体何が問題なんですか?」

「馬鹿秘書に、一ついい事を教えておいてやる。どうもハニートラップに引っかかりそうなお前に忠告とも言う。相手の外見にだまされるなよ、馬鹿者」


 それだけ言うと手を振り払って執務室から追い出された。

 ちなみに、現在は以前に使っていた別邸から本邸に戻ってきている。

 まあ、敵がいなくなって居心地よくなったと言うのもあるんだろうけど、一番はきっと――。


「あら、ディエゴ……、どうしたの?」

「リーシャ様!」


 後ろから声をかけられて、僕は振り返る。

 そこにはリーシャ様と侍女の二人。

 相変わらずお綺麗な方だ。

 これが以前はアレだったと思うと、人の可能性を考えてしまう。

 とはいっても、本当のお姿はこっちなんだけどさ。


「そうだ、少し話があったの! 聞いてもらえる?」

「いいですが、実は僕明日の休暇は仕事になってしまいまして、頼みごとを聞くのは大分後になると思います」


 正直に言えばリーシャ様はいつも笑って許してくれる。

 使用人の失敗には寛大で優しい女主人。

 本当に女神の様な方、チッと短い舌打ちが聞こえてきたのはきっと幻聴です……ですよね!?


「ふふふ、まあそれは旦那様のひどい横暴。わたしから言っておきましょうか?」

「本当ですか!?」


 リーシャ様がふわふわと近づいてきて僕の腕に自分の腕を絡める。

 そしてひっそりと内緒話でもするかのように、耳元で囁く。


 うぅ、これ本当に緊張する。

 リーシャ様の匂いが側にあって、なんだかイケない事をしているみたいだ。

 しかも、密着する身体はとっても柔らかくて――いやいや、紳士として想像してはいけない!

 もちろん侍女たちが見ているので、浮気とかではない。

 というか、そんな事したらクロード様に殺される未来しか見えない。いや、殺されるなんて生易しいものではないなと思いなおす。

 

「この後少し旦那様にお話があったのでついでに聞いておいてあげますね。その代わり、外出許可が出たらよろしくね?」

「もちろんです! ありがとうございます、リーシャ様!」


 ニコリと微笑む姿はやはり輝かしい。

 こんな人が奥様とか、全てを持っている旦那様なんか地獄へ落ちればいいのに。

 やっぱり男は、顔か金か……。


 僕だって高給取りなんだけど、忙しいからなぁ。

 彼女ができても仕事に理解がないから、わたしと仕事とどっちが大事なの!? っていつもふられてしまう。

 リーシャ様にそんな愚痴を話していたら、すごく同情してくれて、慰めてくれた。

 その時優しい人だなぁって心が温かくなったんだよね。

 僕の周りの人間って、我が強すぎていつも僕が振り回されているからさ。


「じゃあ、ディエゴまたね」


 リーシャ様はさっと僕から離れて旦那様の執務室に入って行く。お一人で。

 

 その時、追い出されたのはリーシャ様が来る予定だったからだと理解した。

 はっきりとクロード様の意思を確認したことはないけど、僕から言わせれば隠していないと思う。

 でもリーシャ様はクロード様に気は無いご様子。

 

 クロード様がリーシャ様にちょっかいをかけようとすると、死ね最低腹黒クソやろう! って態度だし。

 本格的に嫌ってはいなくても、全く信用はない。

 でも、最終的に旦那様にいい様にされているから、リーシャ様はまだまだ子供なんだなぁとも思ってしまう。

 百戦錬磨なクロード様にはリーシャ様も敵わないご様子。


 ちなみに、ラグナートさんが来てからさらに旦那様は生き生きしております。

 リーシャ様の事はラグナートさんに聞けばなんでも分かるから、ある意味ずるいよなぁって思わなくもない。


 でもまあ、とにかく。

 リーシャ様、どうか僕の休暇をあの悪魔からもぎ取ってきてください!


 祈るように僕は執務室の中にいるリーシャ様を拝んだ。



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