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18.美の女神は追い出し作戦に取り掛かる1

 事前に調べておいてもらったので、今日来る人は全員把握済み。

 まあ、何とかなるでしょ。確かに上位の方々もいるけど、わたしと比べれば身分は下。なんと言ってもわたしは公爵夫人。

 わたしと張り合える身分の人間は両手で数えられるほどだ。


 つまり、わたしはその場に堂々と乗り込んだ。


 手で扇を持ち、口元を隠す。その目はにこやかでありながらも、威嚇も忘れない。

 散々ラグナートに練習させられた笑みだ。

 口元引きつりそうになるのを扇で隠しているので、全員気づかないでくださいね。

 

 関係ないけどこの日のために特別製ともいえる、たっかい踵のヒールが地味に足にくる。

 一体誰を攻撃するためのものでしょうね……って!

 今気づいたけど、さっきこれで旦那様の足を思い切り踏めばよかったんだぁぁ!

 わたしが言うのもなんだけど、絶対痛いはず。


 ふふふ、次があったら是非やりましょう!


 そんなことを思い描いて笑っていると、気の利くいい子が席を譲ってくれました。

 なるほど、ミシェル嬢ね。

 なかなかいい子じゃないですか。


 知っていますよ、あなたの事は。

 社交界で笑いものにされていたわたしだけど、あなたは少し不機嫌そうにわたしを見ているだけでしたね。

 助けることはしなくても、馬鹿にもしていなかった。

 社交は嫌いだけど、人間観察は大好きなんです。


「それで? 一体誰の許可を以てしてこのような事を? エリーゼさん、わたくしは許可した覚えはありませんよ?」


 裾さばきは優雅で鮮やかに。そして胸を張って堂々と。家政のことはわたしに権利があるのだと示す。

 ただの居候が、何勝手やってんの? と睨むように微笑むと、エリーゼはわたしの正体が先日の下女だと気づいたようだ。

 あの時よりも髪が数倍綺麗に輝いているので、気付くか分からなかったけど、気付いたようだ。


 彼女の口元が少し歪む。


「あら、まさか奥様の名を騙るとは! 奥様気取りの下女の分際で、わたくしにそのような事を言うなど……身を弁えなさい! 貴族ですらないのに、旦那様が少しかわいがっているだけで貴族になったおつもりなのかしら? はしたなくてよ」


 ほほほ、余裕があるような感じで笑いながらも、目が笑っていない。


「エリーゼ様、でもこちらの方は今――」

「このリンドベルド公爵家の下女です。なにか思いあがっているようで、申し訳ありません。野蛮な下級市民のせいで、場の雰囲気を悪くしてしまってリンドベルド公爵家の家政を取り仕切る者として謝罪いたしますわ。教育がなっていなくて、本当にお恥ずかしい」


 えー、面倒だなぁ。

 この辺で旦那様が颯爽と助けに来てくれないかな。

 今ならすごく感謝しますよ、旦那様。


 話の合わない人間にいくら説明したって理解してもらえないんだけど。

 でも、やると言ったからにはしっかりやるか。

 それにちょっと楽しくなってきた。悪女に成るのもまた楽しい事なのね。徹底的に懲らしめましょう。


 わたしは気持ちを切り替えて、周りの貴族連中を見回した。

 興味深々でこちらを見ている面々にも思い知らせなくてはいけない。

 本当に、ここで舐められるとのちのちに響く。ミリアム夫人の比ではない。

 ああ、全員がミシェルの様に察しのいい子ばかりだと非常に助かるんだけど。まあ、別に取るに足らない人間なんてどうでもいいか。どうせ、二度と関わらないだろうし。


 わたしは扇をパンっと小気味の良い音を立てながら閉じると、それを手で弄ぶ。


「エリーゼさん、あなたが多少頭の弱い方でも、言っていい事と悪い事がありましてよ。わたくしは旦那様と正式に婚姻を交わしたベルディゴ伯爵家の次女、リーシャ・リンドベルドです。たかが居候如きがわたくしに対して今、なんと言ったの? 皆様も聞いていらっしゃったでしょう? このような方とお付き合いするとは……どうやらここにいる方々は、同類でいらっしゃると、そういうことですわね?」


 ざわりと周囲がざわめく。

 まあ、分かりますとも。

 わたしがもともとどんな姿だったのか知っている人たちばかりなのだから。

 こうして神の手を持つ侍女に綺麗にしてもらって、すばらしくお金をかけたドレスを纏えば、多少あれな人間でも女神になれるんですよ。


 おほほほほ。


「な、何を言って――……」

「まさか、慈悲に縋って居座っている存在にここまで言われるとは、さすがにわたくしも少し考えてしまいますわ。でも、ちょうどいいのかしら? ここには独身の男性がいらっしゃいますし、わたくしが縁談をまとめてあげましょう。公爵家の正妻がわざわざ縁談を見繕うのだから、もちろんお断りにはならないでしょう? きっと旦那様も喜んでくださいます」

「ふざけないで頂戴! ただの下女がわたくしに歯向かうつもりなの!? しかも付け焼刃のその見るに堪えない作法……本当にいやになるわ。みなさまのお目汚しです。さっさと出て行きなさい!」


 えー、本当に?

 ここまで言っても信じてもらえないって、どんなんだろう。

 どうしたらいいのかなぁ。彼女の頭の中、ちょっと覗いてみたいけど、きっとお花畑の様に夢見がち脳をしているんだろうな。

 困る、こういうの。

 旦那様もひどい。ここまでひどいってどうして教えてくれなかったの。


 しかも付け焼刃って。

 確かにそうだけど、少なくともラグナートに合格出してもらうくらいには非常に努力はしたんですよ?

 すっごく大変だったんですよ?

 だからなんだか少しイラっと来るのは仕方ないですよ。


「エリーゼさん、わたくしの所作作法が見るに堪えないのなら、あなたは存在自体が見るに堪えない存在ですよ。わたくしよりも数段劣る作法ごときで、わたくしに意見するとは、見る目もない。それに、その服装。まるで娼婦が着るような下品さに、あなたのセンスを疑いますわ、どう思います? ミシェルさん」


 後ろに立ったままのミシェル嬢に問いかける。

 貴族であるから影響力のある人物とお近づきになるっていうのは分かるけど、実際ミシェル嬢はそんな事する必要がない。

 すでに彼女は一大派閥を率いている。

 今さら、こんな小物と手を組む必要はないので、きっとはっきりと言ってくれる事だろう。

 お茶会のホストに気を使うのはもちろんの事だけど、それ以上に上位者に気を使うのは当然の事。


「そうですね、わたくしもそう思いますわ。リンドベルド公爵夫人、エリーゼさんは少し思いあがったところがありますが、子爵令嬢ですもの。夢を見てしまうのは致し方ありませんわ。そういう人を正しい道に導くのもまた、上位者の務めと言うものです」


 なるほどー。

 つまり自分はエリーゼと仲良くする気はない、きちんと自分の身分を分からせるためにここに来たと、そういう事ですか。

 そういう事にしておきましょう。

 

「ミシェル、あなた!」

「エリーゼさん、たかが子爵令嬢で資産も後ろ盾もないようなあなたが侯爵令嬢のミシェルさんを呼び捨てにするなんて、どういった了見なのかしら? 身分差というものを理解できていないようですわね。リンドベルド公爵家で過ごしたから、まさかご自分が公爵令嬢にでもなったおつもりなのかしら?」


 全く思いあがったお馬鹿さんは困るね。

 ミシェル嬢も呆れているじゃない。

 ごめんねー、なんか巻き込んで。




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