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15.仕事とは義務とは……

「見違えたな」

「お綺麗ですよ、リーシャ様」

「リーシャ様はなんでも似合うので、困ってしまいます」

「肌が白く若々しいので、あまり化粧は濃くしなくても素の美しさだけで勝負できますね」

「素敵です!」


 楽し気な旦那様と懐かしい人を見ているかのようなラグナート、それにやり切った感の侍女三人が、口々にわたしを褒めてくれた。

 果たして旦那様のそれは褒めているのか微妙なところだけど、満足そうにしているので及第点は取れているんだろう。


 リルが選んだドレスは、可愛らしいクリーム色のドレス。

 こういう色は若いうちにしか着られませんから! と力強く言われて決定した。

 確かに、可愛い色は年取ってから着ると痛い人になる。


 昼の部屋着としては妥当な色合い。しかし、さすがに生地がかなり上質だ。

 というか、ぴったりなんですけど、いつの間にわたしのサイズ測ったんでしょうか? という疑問はもう持つまい。

 優秀な方々はきっと見ただけで大体のサイズを把握できるのでしょう。

 それを旦那様に横流ししたんでしょうね。


 でも、本当にたった数時間でここまで変わるなんて思ってもいなかった。

 専門職(プロ)の手技は流石で、自分でも、“これ、わたしかな?” って疑った。

 輝く肌ってこういう事なんだね。

 今日、初めて言葉の意味を知った。


 ちなみに、この部屋にいるもう一人、完全空気になりがちな秘書官ディエゴに、微笑みかけながらどうかなと意見を聞くと、真っ赤になって「お綺麗です」と小さく呟かれた。

 その初心な反応に、なぜか加虐心をそそられた。なんだろう、彼すごくかわいくて、イジメがいがありそうなんだけど。

 わたしよりも確実に年上なのに、かわいいって思うのは間違いなんでしょうか?

 ちょっとくせになりそう。


「リーシャ様は母君によく似ておいでです」


 ラグナートは祖父の代からベルディゴ伯爵家に仕えている。

 つまり、母の事もよく知っていた。

 むしろ、母の教育にラグナートも携わっていたらしい。

 わたしの教育も行い母の教育も行い、母娘で大変お世話になっていた。

 でもラグナートはそれが至高の喜びだとでも言いたげだ。


 本当にベルディゴ伯爵家が好きだったんだなぁと思うと、不甲斐ないわたしは少し申し訳なくなる。

 伯爵家を継承するまえに出来る事は少なくて、結局わたしは伯爵家から出て行ってしまった。結果として、ラグナートの期待に応えられなかった。

 よく見捨てられなかったなぁと本当に思う。

 今も、こうして駆けつけてくれたラグナートには感謝しかない。


「エリーゼがどんな顔するか見ものだな、明後日が楽しみだ。明後日は金を使って、誰が見ても公爵夫人であると見せつけるためにも飾ろう」

 

 悪役みたいに笑う旦那様が、怖い。

 というか、飾るって……わたしは人形ですかね。

 

 旦那様が言っている明後日というのは、エリーゼがリンドベルド公爵家の名を使ってお茶会を開く日だ。

 その日にすべてのかたをつけると旦那様は言う。

 わたしも旦那様の企みのコマの一つとして働くことになっていた。

 なにせ、わたしの平穏無事な生活と、最低限生活のランクアップがかかっている。

 とにかく食事だけは何とかしてください。 


「では、明後日まではしっかりと公爵夫人として学んでいただかなければいけませんね」

「えっ……えぇ?」

「リーシャ様はすでに嫁がれた方です。婚家の事を学ぶのは当然の事。ましてや、格の違いを見せつけるためには、まずはそれらしく動かなければなりません。もともと、それは仕事ではなく義務として婚家で恥をかかないために結婚前に身につける事です。しかし、結婚が急だったので、今から付け焼刃ですが、しっかり学んでいただきましょう。生活の保障をされているのなら、それに見合う義務はこなすのが当然です」


 ラグナートが拒否する隙も与えずにきっぱりと言うと、旦那様までもが便乗してくる。


「確かに仕事はしなくていいとは言ったが、義務を放棄しても良いとは言っていないな。お前はいい事言うな、ラグナート」


 言葉遊びのような事を言わないでください、旦那様!


「さ、詐欺です! 仕事も義務も同じ様なものではないですか!」

「どう思う? ラグナート」

「私の中では仕事と義務は別物ですね、旦那様」

「奇遇だな、私の中でも別物だ。という訳で二対一で、別物という事になった」

「卑怯ですよ、二人で手を組むなんて! ここに居る全員での決を採りたいと思います!」


 このままでは義務という名の仕事が今後も大量に送り込まれてくる未来しか見えなかった。

 絶対に嫌だ。

 仕事人間たちに巻き込まれてなるものか!


「仕事と義務は同じモノだと思う人!」


 わたしはもちろん手を挙げる。

 そして、恐る恐る手を挙げるもう一人、ディエゴ。


 そうだよね! ディエゴあなたは分かってくれると思ってた。


 しかし、手を挙げたのはわたしの他はディエゴだけ。

 旦那様が勝ち誇ったかのように笑う。


「よし、これで分かったな?」

「ちょ、ちょっと待ってください! きっと後ろの三人は旦那様とラグナートに忖度したに違いありません!」

「決めつけは良くないな」

「そうですね、自由意志の決定を覆そうとする方が主人としては失格です」


 畳みかけるようにわたしの意見が却下された。


「では、奥様? ぜひ義務を遂行していただこうか」


 詐欺男、腹黒、悪魔!

 ラグナートも楽しそうに笑っていないで助けなさい!

 これでもわたしは一応前主人なんですからね!!


「では、リーシャ様。まずは少し勉強不足の家政のお勉強からしましょうか? 大丈夫です。領主の仕事に比べたら簡単ですよ。それに事前資料も読み込んでいるご様子ですしね」


 容赦のないラグナートが、なぜかいつの間に作成していたらしき勉強道具をわたしに渡してきた。


「い、いつの間に……」

「リーシャ様が嫁がれる際に、いつか必要になるかと思いまして、独自にリンドベルド公爵家の歴史や付き合いのある親族、それに連なる商家や取引先について調べておきました。その後は立ち居振る舞いについて実践でこなしましょう」


 わぁーお。

 そんな気遣いいらなかったわぁ。

 というかラグナート、老後を楽しむとか言ってませんでした? これが楽しみなんですか? なんでそんなにわたしの教育を楽しそうにしているんですか?


「なんとも主人思いの執事だな。こういうのを忠臣と呼ぶのだろう。いい臣下を持ったな、リーシャ」


 旦那様が苦笑しながら、わたしとラグナートを見ていた。


 言っておきますけど旦那様、今はあなたの臣下であり部下なんですからね?

 わたしは、いつか旦那様が同じ目に遭う日を心の底から願い呪った。




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