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6.離れでの遭遇事件

「そういえば、聞いた?」

「聞いた聞いた! お嬢様がお茶会開くって話でしょう?」

「そうそう! 今まで全くお誘いなかったのに、公爵様が結婚してからお誘い来るようになったんでしょう? みんな興味津々だって事よね?」

「なんでも、皇女殿下のお茶会にも呼ばれたって! 帰ってきた時、相当荒れてたらしいわよ」


 下級使用人の使う食堂で、仲良く三人で食事を取っていると、そんな話声が聞こえてくる。

 でも、その話題はとっくに知っている。


 わたしが旦那様と結婚したことによって、エリーゼは皇女殿下からのお怒りが解けたようで、方々(ほうぼう)からお誘いがかかっていた。

 その理由は聞かれるまでもなく、わたしの事を聞きたいから。

 

 どんな理由で選ばれたのか、どうしてわたしだったのか、そんなところだ。

 でも大した情報はないうえに、会ったこともないと来れば、あとは嘲笑の的だろう。

 誰よりも近くにいて、皇女殿下を差し置いて旦那様の正妻の座を狙っておきながら、どこの誰とも知れない馬の骨にその座を奪われたのだから。

 しかも、その相手が社交界では悪評のあるわたし。


 散々馬鹿にされて終わったと推測できる皇女殿下主催のお茶会後、大人しくしていればいいのに、焦っているのか、色々な夜会にも参加している。

 まだ旦那様の正妻の座を諦めていないようで、今度は彼女主催でこの公爵邸でお茶会を主催するそうだ。


 正式な夜会の主催は男の仕事だけど、昼間のお茶会は女性の仕事だ。

 このお茶会で、リンドベルド公爵家での影響力を示したいらしい。


 わたしからしたら、がんばって下さいねとしか言いようがない。


 招待される客も結構な上位貴族が多いらしく、正直居候なんだからもう少し空気読めよとは思わなくない。

 まあ、身の丈以上の事をして恥をかくのはわたしじゃないから別にいいんだけど。

 でも、一応この家の女主人の許可くらいとりに来るかなぁって思っていたのに、全く姿を見せることもないのはどうなんだろう。

 まだ見ぬ子爵令嬢エリーゼ、ぜひ見て見たい気持ちが最近はうずうずしている。

 ここに来た当初は疲れ切っていたせいで全く興味が無かったけど、元気になると色々気になるものだ。


「ほら、話に夢中になっていないでさっさと食べましょう。そのお茶会のせいで、余計な仕事が舞い込んでいるんだから」


 手を止めずに食べているリルは、迷惑そうに言った。

 なんでも、離れのエリーゼのいるところを徹底的に掃除しなければならないらしい。

 しかも庭園まで造るとか。


 そんなお金どこにあるのかと思っても、きっとミリアム夫人がどこから横流しした公爵邸の予算なのは丸わかり。

 もちろん、エリーゼの社交に関わるすべての費用は公爵家。

 いいのかなぁ。


 旦那様もきっと知ってるだろうに放置しているのは、関わるほうが面倒だと思っているからだ。

 自分の家のことくらい、なんとかしておいてほしかった。

 というか、身辺整理は普通結婚前にしておくべきだろうよ。

 結婚相手に丸投げとか、どんだけ非道なんだろう。


「今日の配置は、あたしやライラはこの後別邸の掃除だけど、確かリーナは食堂での皮むきだった? リィは、どこに配属されてるの?」

「えーと……わたしは二人と同じだったかなぁ」


 嘘だけど。

 もちろん、三人にもわたしの事は話していない。

 初めて会った時、言い訳考えていたけど、あまりのみすぼらしさに何も聞かれず同情されてそのままだ。


「そうなのねぇ、一緒にがんばりましょうね。でも、リーナはいいわねぇ、あの我儘傲慢お嬢様に鉢合わせでもしたら面倒そうだから、わたしもそっちが良かったなぁ」


 うらやまし気にライラが声を上げた。

 その後、食事を食べ終わり、わたしたちは掃除道具をもって離れに向かう。

 

「そういえば、二人はエリーゼお嬢様に遭遇しても大丈夫なの?」


 容姿のせいで難癖付けられたのだ。

 遭遇したときの事が心配になる。


「大丈夫、大丈夫! 下女はお偉いさんが通るときは頭を深く下げるから、顔が見えないから」


 そういえばそうだったなと思い出す。

 掃除しながらどこかでちらりとエリーゼを見られればいいなぁと期待を込めて、わたしは離れにリルとライラや他の掃除要員の下女と足を踏み入れた。


 そしてわたしは、昔の偉人の言葉を思い出す羽目になる。


“好奇心は猫をも殺す”


 離れに入ると侍女たちがバタバタと動いていて何事かと思ったら、まさか、一か月も邸宅を空けていた旦那様が、エリーゼに会いに来る予定だったなんて想像もしなかった。


「これから公爵様がくるんだって」

「なんでもお茶会の事だとか。さすがにお止めに来たのかしら?」


 誰の噂にもならなかったという事は、突然の予定だ。

 それは、慌ただしいこの現状でも分かる。

 目的なんてどうでもいい。


 一つ分かるのは、すぐに逃げ出した方が、いいという事だけ。

 なぜだか、会ってはいけないと生存本能が囁いた。


「あの、わたし忘れ物したから、取りに戻ります!」

「すぐ戻ってこないと、公爵様見逃すわよ」


 ウインク飛ばしてくるリルには悪いけど、見逃し結構。

 出来れば、会いたくないので別にいいです。


 でも、急いで逃げ出したのがいけなかった。

 むしろ、離れで大人しく掃除していた方が遭遇確率はかなり下がったような気がした。

 大体、この城の様な邸宅で約束もしていないのに、会う可能性を考えると奇跡に近い。そして、会いたくない人物に会うなど、よっぽど運が悪い。


 そして、わたしは運が悪かったらしい。

 どうしてこのタイミングだと呪いたくなるようなタイミングだった。

 

 離れから、本邸までは一つの廊下で繋がっているので、そこを通らないと本邸には行けない。

 しかし、まさかの事態。

 赤い髪と堂々とした体躯は身間違えもない相手。

 正面から歩いてくる人物は相変わらず隙のない恰好をしていて、わたしはとにかく気配を消す様にただの下女ですよと偽って、即座に廊下の端により頭を下げる。

 

 心から、さっさと歩き去ってくれと願いながらじっと待つ。

 こつこつと靴の響く音が大きくなってきて――。

 わたしの目の前でピタリと足音が止まる。


 なぜ立ち止まる!


 視線を感じて手に汗がにじむ。

 ゆっくりと近づいてくるのが気配で分かる。そして、視界に相手の靴先が入り込んだ。

 きっと、下女がこんなところにいるのが珍しいだけだ、そう思い込みたかった。


「おもしろい恰好をしているな」

「……」

「なんだだんまりか? ぜひこの一か月の間どう過ごしていたのか聞きたいところなんだがな。堕落生活は満喫していたのか気になるな、奥様?」


 その言葉で、わたしは観念するしかなかった。




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