5.情報収集は洗濯場で2
なんだかんだで、この三人衆のおかげで、わたしはこの邸宅の下女だと認識され、下級使用人が使う食堂で一日三食食べられるようになった。
しかも、下級使用人専用の食堂のくせに、めっちゃ豪華。
基本的に自分で好きなだけとりわけて食べるのだけど、種類も豊富で、味もいい。
下手な貴族よりよっぽど贅沢してんじゃないのかと思う。
そのせいで、面倒な対立で戦わなくても、放置万歳! って感じになってしまった。
まあ、望んだ堕落生活とはちょっと違ってきているけど、問題なし。
だって、誰も気づかないし。
ちょっと洗濯手伝って、暇すぎるのでたまに掃除も手伝って、ある意味楽しく暮らしておりますよ。
押し寄せる義務の仕事は嫌だけど、こうして気分転換的に行う仕事は最高だねぇ。
知らなかったよ。
仕事って、意外と楽しいものなんだなぁって。
まあ、多少不真面目なのは勘弁してください。
給金出てないしね。
「ちなみに、三人は奥様派なの?」
「奥様派ってわけじゃないけど、ミリアム夫人の事は嫌いだからねぇ」
「そうね。頑張ってほしいとは思っているわ! その為にここに居座っているんだから!」
「リルさん、結婚しようと思えばできるのにね。ちなみに、わたしは奥様派だよ! だって年近いし、もしかしたら奥様付きの侍女になれるかもしれないし!」
侍女長であるミリアム夫人の事がお嫌いなこの三人。
ミリアム夫人が嫌いと言うより、その娘のエリーゼの方が嫌いなのだが、巡り巡ってミリアム夫人も嫌いになった。
訳を聞くと、納得理由。
この三人は高度教育を受けてきたそれなりの家のお嬢様方で、みんなきちんとした養成学校を優秀な成績で卒業し、侍女としてこの邸宅に就職した。
しかし、就職したのはいいのだけど、見た目がすごく優れていたせいで、子爵令嬢のエリーゼに目を付けられた。
まだ会ったことのないエリーゼは、すごく傲慢で自尊心の高いお方らしく、使用人が自分よりも何か一つでも優れていると、すぐに怒りを爆発させるらしい。
そのため、彼女らは身に覚えのない事を断罪されて、下女として働かされているのだ。
確かに、彼女たちは下女というには身なりが整いすぎているし、話をしていても知的さを感じる。
それに、なにより文字が読み書きできる。
普通の下女は読み書き出来ない。
だから、この三人が出来ると知った時、さすがは公爵家。下女でさえもそれなりの教育を受けているとは、と感心した。
実際は違ったけど。
そんな高度教育を受けていた方々にとってみれば、下女の仕事は完全に嫌がらせ。もちろん、いやなら辞めればいいのだけど、そうなると一生この仕事に就くことは出来ない。
基本的に貴族の邸宅で務める際には紹介状が必要になる。
初めての就職の時には、親族または学院などから、そして再就職の場合は、前に勤めていた場所からだ。
そして、その紹介状を書くのは家政を取り仕切っている人間の仕事。
もちろん、リンドベルド公爵家ほどの大きさになると、家政を取り仕切る正妻が直接書くことは少ないけど、この家の事を支配したいミリアム夫人は自分で書いているらしい。
卒業した養成学校に訴えることも出来るけど、幸か不幸かこのリンドベルド公爵家はそういう養成校に多額の資金援助していたりする。
下手に怒りは買いたくはない。
つまり、訴えたところで黙殺されるだけ、という事だ。
でも、下女に落とされたけどこの三人はそう悲観していない。
そこはきちんと契約があるからだ。
雇用人事権は家政を取り仕切っているミリアム夫人にあるけど、実際に雇っているのは公爵家で、契約するのは公爵家とだ。
そして、その賃金内訳に関しては旦那様の仕事。しかし、大体は総括執事あたりに割り振られる。
その契約書には、最低賃金が書かれている。
仮に、どんな仕事をしようとも、その最低賃金は保障されているのだ。
そして、彼女たちは侍女として契約しているので下級使用人の下女の給金よりはるかに高い。
さらに、彼女たちが言うには、下女の仕事だけど、みんな同情的だから結構楽しいらしい。
侍女連合は気に入られればおいしい思いもできるけど、そうでないならかなりひどい扱いを受けるとの事だ。
気に入られるために、お互い常に緊張して、欺きあって、告げ口の連鎖が止まらないんだとか。
それ聞いたとき、こわー! ってなった。
女って時にとても残酷だけど、まじで泥沼化した戦場じゃんって!
むしろ、よくそれでこの家回ってるよなーって思ったけど、性格悪い人間でも、一応はエリート校を卒業したり、経験積んだ侍女なので、殺伐としていても仕事はきちんとしているようだった。
むしろ、サボっているほうが告げ口の対象になるらしく、ある意味お互いの存在を見張り合っているのが仕事的にはいい方に回っているようだ。
ちなみに、給金に関しては毎年更新だけど、何も言われないので、そのまま更新され続けているらしい。
年長者のリルは下女に落とされてから五年になるらしいけど、他の家の侍女給金よりも高いので、居座っているそうだ。
なかなか肝が据わっているので、気が合って楽しい。
いつか、ざまぁしてやるリストが着々と出来ているらしく、それはそれでたくましい。
ぜひ今度見せてほしいものだ。
できれば、わたしも一緒にざまぁしてやりたいです。
特にこの現況に放り込んだ旦那様に。
今度相談しますので、いい案下さいお姉様。
そんなわけで、ちょっと理想とは違っているけど、とりあえずは今のところ平和? に過ごせている。
そして、堕落生活ってもしかしたらわたしには性に合わないんじゃないかなぁと最近思い始めていた。
なんだかんだ言いながらも、身体を動かしているのは好きだ。
ただし、何事も適度が一番。
「あ、そうだ! これあげる」
そう言ってリーナがポケットから取り出してきたのは可愛い包装のされた焼き菓子だ。
これは結構高いのでは? と考えてしまった。
「いいの?」
「いいの、いいの。だって、貰ったものだし。わたし結構食べちゃったから。それに、二人にもあげたしね。遠慮なく貰って、友達でしょ!」
元気いっぱいに笑うリーナにわたしは感動した。
そう、ここで出会ったリーナはわたしの一番初めのお友達。
伯爵令嬢時代は友人もいなかったので、今人生で一番楽しくて輝いている。
もちろん、わたしの人生が。
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