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藍染四反

 ガチ庶民のアタシが通うには不釣り合いな、お嬢様学校。そこで突如盛り上がったのがオリンピック観戦行事。でも日本は恐怖のウィルス感染が拡大真っ只中。そこで動き出したのがは、あの世からいまの日本を見かねて降りてきた我が郷土の偉人、渋沢栄一。すでにその前からアタシの親友である鳴滝千栄莉の身体を借りてこの世に降り立っていたが、オリンピック観戦計画を見事転覆。おかげで日本中で猛威を奮う感染症ウィルスから、アタシ達は救われた。


 「ぶぅ」

数日ぶりに登校してきた千栄莉は案の定ご機嫌斜め。渋沢栄一さんは千栄莉の身体に憑依することによって、さまざまな力を使うことが出来る。今回のオリンピック観戦中止もその手柄。本当は千栄莉もそれを望んでいだろう。ところが、

「ち、千栄莉さん、ご、ごきげんよう」

朝のあいさつをするだけして、そそくさと歩みを速めて校門に向かう学友たちに、複雑な表情の千栄莉。千栄莉は自分の体内にいる栄一さんと口論しているところを保健委員の生徒に見られてしまった。千栄莉がそのさいに「身体を許す」なんて表現をしちゃったもんだから、ウブな本校の生徒さんたちは千栄莉との距離をどうしようかと戸惑っているらしい。アタシは、千栄莉の脇が甘いと思ってるだけだし、うわさなんてものはどうせちょっとの間に消えていくと楽観視してる。それにいつもの取り巻き連中が、千栄莉様に限ってそんなことは、とばかりに火消しに回ったこともあって、順調に治まってきてるし。


 夏が近づいている。オリンピック自体、やるかやらないかで世論も割れていたが、反対派の一部にもあきらめムードが漂くなってきた。無観客にすることを最低限の要求にする現実的対応をせざるを得ないとする現実派も増えてきたし、運営側も少しずつそちらの方向に動いてきている。

 「残念ですわ、楽しみにしておりましたのに」

なんて事を言ってるクラスメイトもまだいるけど、理事長の鶴の一声で決まった事は覆せない。てゆーか、楽しみとか言ってる子の親は大抵オリンピックに関係ある会社の人だから、自分ちの会社がどんどん儲け損ねていくのが面白くない親とかにオリンピックは正義みたいに教え込まれてるんだろうな。

 東京は真夏日の連続。去年など、ウィスルは暑さに弱いという説もあったようだが、今年は打って変わって感染者が増加している。五輪招致の時には、ただでさえこんな暑さの中でスポーツ競技をやるのが異常という意見も、オリンピックを誘致するしないの段階で出ていたらしい。でもそんな異論は退けられたどころか、それに加えて予想もしなかったパンデミック状態が世界を襲うという史上最悪ではないかという状況でも、大会は強行されようとしていた。そして案の定、オリンピック関係者が世界各国から日本にやってくるのと比例するかのように感染者は増えていった。

 「どう思いますか? 栄一さんは今回のオリンピックについて」

最近すっかり習慣になっている、千栄莉が眠ったあとに栄一さんとアタシによる世直し作戦会議。千栄莉の意識が無いときには、栄一さんはその身体を自由に操ることが出来る。その事を利用して、栄一さんはどのように今の日本を救いたいのかアタシに提案する。千栄莉が寝ている間にやるのは、世間にうといお嬢様が混じると、いちいち説明が面倒になるから。

 その場を利用して、アタシは栄一さんに尋ねてみた。でもこれはちょっと意地悪な質問。だって同じ問いを、アタシは以前すでにしているから。そして栄一さんの答えは出てるし、そこで栄一さんが予言したとおり、新型ウィルスの感染者が増えて病院がアップアップし始めていたから。もちろん栄一さんはその辺をわかっている。だから、前回とは違う答えを用意してくれた。

「まあ私が予想していたとおりになっているようですね。ですが、それとは別に、一つのことを思い知らされました。この国がある程度そうなっていることは、あの世から見て気付いていました。ですが、まさかここまでなっているとは思いもよりませんでした」

栄一さんの言葉には、落胆しているようなニュアンスが感じられた。それはそうだと思う。だから栄一さんはこの世に降りてきたわけだし。でも、そう思う栄一さんの理由はアタシを驚かせるには十分なほどに予想外だった。

「私は生前から、官から民へ、という言葉を使って来ましたし、事実日本国はその方向に進んできたと思います。ですが今思えば、私の訴えてきたことは間違っていたのかもしれません」

 これを驚かずにいられるわけがない!

「どどど、どういうことですか? 栄一さん、官僚でいるのが嫌で大蔵省やめて、沢山の会社作ってきたじゃないですか。それを否定しちゃうんですか?」

慌ててアタシは聞き返した。栄一さんが生前行って来た事業は今でも、素晴らしい業績として伝えられている。でも栄一さんはそれら自分のしてきたことを否定するかもしれないということだ。だって、官から民という言葉が間違いだと認めることなのだから。

 でも当の栄一さんは落ち着きはらっていた。そして、自分を戒めるようにこう言った。

「確かに、官が行っていた事業が続々と民間へと引き継がれていったのは事実ですし、それが私の理想どおりだと思ったこともありました。しかし」

栄一さんは、ため息をひとつ挟んでから、こう言った。

「今の日本では、民から官への先祖返りが起きているように感じるのです」


 「かつて国や都道府県、区市町村で行われてきた事業は次々と民間の手に委ねられ、今もそれは進んでいます。しかしその中身を見ると、官が丸投げした事業を、民の側がそのままやっている。私には担い手が変わっただけにしか見えないのです」

「でも、民営化で良いこともあったんじゃないですか? よく分かんないですけど、ゴウリカ、なんてよく言うじゃないですか」

アタシの疑問に対して、栄一さんはハッキリ横に首を振った。眠っているはずの千栄莉の首がつるんじゃないかと心配になるほどの勢いで。そして。

「合理化などと言っていますが、それは結局のところ経費を削減したに過ぎません。それも、単に人を削ったり給与を下げたりという、何の知恵もないやり方で。仕事の中身は変わっていないのですから、労働者はたまったものではありません。昔は威張ってるだけでその実、何の役にも立たない役人というのがゴマンといて、私もそれに嫌気がさしたこともあって政府と距離をおき続けたのです。ところが今の時代、威張ってるだけで仕事をしない者がいなくなったかといえばそんな事は無い、民間企業のお偉方が取って代わっただけです」

そういえば、アタシのお母さんは派遣の仕事をしてるけど、役所とかに派遣される同僚の人も多いらしい。それまで公務員がやってた仕事を民間に任せるのだから官から民と言っていいと思う。だけどお母さん言ってたことがある。

「職員さんと同じ仕事してるのに、給料が全然違うんだって。仕方ないのかなあ」

派遣会社で出来た友達に、ずいぶん愚痴られたらしい。

「会社通したら会社に何割か持ってかれちゃうんだから、よく考えたら派遣の取り分は減るわよね。雇われの身じゃ仕方ないんだけど」

って。その話を栄一さんにしてみると、

「まさにそれです。仕事の中身が変わらないのに経費を削るためには、人件費を削るのが最も手っ取り早い。ですが実際は、派遣会社が中に入る事で、働く人の貰う賃金は下がったのに会社の取り分を含めれば大してcostは減っていない、なんてことになるのは自然です。私のいう官から民へというのは、そういうことではありませんでした。それなのに、民の側から官の土俵に上がってしまっては、民ならではの良いところは失われ、民が官へと逆戻りしてしまいます」


 「そうねえ、うちの旦那も入札で仕事取ってくるけど、よく言ってるわよ、お役所の仕事ばっかり受けてると、管理職が公務員みたくなるって。事なかれで言われた以外の仕事はしなくなって、公務員より公務員らしいなんつって。ま、それもそうよね、今どきの公務員って人数減らされて仕事はきつくて上からは叱られて市民からはクレーム受けて、よっぽど民間企業より忙しくしてるんだから。で、請け負った会社も派遣とか契約とかで雇った人を使って、本社から来たお偉いさんはなーんにもしない。だって契約がいつまでって決まってるんだもの。それはで余計な仕事せずに事なかれで済めば万々歳よ。それにしても、急に渋沢栄一の話するなんて、おうちが恋しくなってのかしら?」

アタシは家が深谷なので、今の学園に通える場所にある叔母の家に下宿してる。といっても、叔母はアパートを経営していて、そこの空き部屋に住ませてもらって、食事は叔母のお世話になっている。

「いや、別に恋しくはないけど。でもお母さん、一人で寂しくないかなー、とかは思うよ」

アタシの両親は離婚している。アタシとお兄ちゃんが叔母さんのところに移ってしまったので、お母さんは一人で暮らしている。

「大丈夫でしょ。姉さんは一人が平気な人だから。それにおばあちゃんがしょっちゅう来てるみたいだし、逆に来すぎだって思ってるんじゃない?」

叔母さんはそう言ってくすくす笑った。お母さんの妹である叔母さんは、お母さんのハートは強いとよく言っている。

「それに」

叔母さんは、人をからかうような事を時々言う。

「あなたのお父さんと離れられて、せいせいしてるんじゃない?」


 お母さんが離婚したのは、お父さんがお金にだらしなかったのが理由のひとつ。家の財布からお金を盗んだりはしないけど、じぶんで稼いだお金を家にを入れるってことは無かった。お酒とギャンブルが好きだったから、だいたいそっちにお金を使ってた。

 叔母さんはアタシのお父さんに対してはとても厳しかった。よく小言を言っていたけど、お父さんは表面上反省しているように見せるのが得意だし、なんでかんだでお母さんもお父さんを許してた。お父さんは歳下で、甘えるのが得意だった。

 かと言って夫婦の仲が良いかといえばそうでもない。ケンカをしたのを見たことは無いけど、お父さんは基本家にいない事が多くて、お母さんとお兄ちゃんとアタシでご飯を食べることが多かった。あまり家に寄り付くとケンカになることが分かってたからかもしれない。

 アタシのお父さんとお母さんは、二度目の結婚だった。お兄ちゃんが産まれて間もなく、最初のお父さんは死んじゃって、そのあとに結婚したのがアタシの実のお父さん。それもあってか、お父さんとお兄ちゃんは距離を置いてるカンジがあったけど、アタシとお父さんとはそうでもなくて、たまにお菓子とかをくれたりしてた。たぶんパチンコでもらってきたんだと思うけど。

 あんまり立派なお父さんじゃなかった。でも、ひとつ覚えてることがある。


 長雨が続くと、お母さんは仕事しながら家事をするから天気のいい日に合わせて洗濯出来ないし、アタシだって部活とかあるから家事を全部出来るわけじゃない。

 体育の授業がある日にはブラは白でないといけない、それは分かっていた.決まりだから。でもこの天気では仕方ない。アタシは色付きのブラを付けて登校した。

 事情を話せば先生だって分かってくれる、というアタシの予測は甘かった。男の体育教師は近所の中学でも有名なくらい規則に厳しく、アタシのネイビーのブラが体操着の、それもジャージの下のシャツから透けて見えることにすぐ気づいた。

 言い訳は聞いてもらえなかった。色付きの下着がいけない理由も何もなく・とにかく規則は規則だといって、アタシにブラを外してくるよう命じた。

 でもアタシだって、恥じらいくらいある。着替えてる振りをして更衣室に隠れて体育の時間をやりすごした。そのことはアタシが体育の授業が嫌でサボったというニュアンスが強まった形で担任に伝わり、保護者の呼び出しとなった。

 慌てて仕事を早退した母が、学校の相談室に座らされたアタシに電話を掛けてきた。アタシが保護者呼び出しの理由を説明すると、

「ごめんなさい、本当にごめんなさい。私が行って謝るから。お母さんが話をすれば先生も許してくれるはずだから。ちょっと待っててね。本当にごめんなさいね、すぐ行く、すぐ……」

平謝りのお母さん。何もお母さんが悪いわけじゃないのに、と思いながら聞いていたけど、急に会話は途切れた。

 しばらくして、

「持田さんの親御さんが、いらっしゃいまし……」

事務さんが、職員室にお母さんの到着を知らせに来たみたい。でも、なんか慌てたような話し方だった。

 嫌な予感がした。そして予感は現実になった。

「あんだよ、呼んだのはお前らだろ。どけや」

聞き慣れた声が近づいてきた。そして相談室の扉が開くと、

「おい、サナ公。助けに来たぞ」

 お父さんが学校に来るのを見るのは初めて。お父さんも同じ中学校に通ってたけど、ヤンチャで悪さばっかりしてたから毎日のように先生に怒られて、学校は大嫌いだって言ってたし。

 そのお父さんがお母さんを差し置いてやってきた。当然のように先生たちも慌てる。

「も、持田さん、落ち着いて……」

と、数人がかりで止めようとしているけど、お父さんはそんな静止は無視して、ここまでやってきた。上履きにも履き替えず、現場からそのまま帰ってきた安全靴で。

 オロオロしていた先生たちだったが、

「どうしましたか?」

そんな野太い声が響き、いかつい大男が現ると先生たちの顔が安心したように和らいだ。問題の体育教師の登場だ。

「持田の保護者の方ですか?」

生徒全員から恐れられているこの先生、声を聞くだけで震え上がる生徒も多い。でもお父さんは動ぜず、

「はい、持田の父です」

と言うと、唇ピアスのリングを舌先でひとなめすると、

「今日は、うちの娘を恥ずかしい目に合わせたド腐れロリコン糞野郎を二度と教壇に立たせなくするために参りました」


 アタシのひとまわり上くらいの学校は、ゆとり教育なんてことが言われてたらしいけど、本当かなって思う。少なくともアタシの通った小中学校は児童生徒への締め付けが厳しくて、理不尽なこともよくあった。それはお父さんがこの学校に通ってた頃も同じだったらしい。だから小学校のとき、次の日に県の偉い人が体育の授業を見に来るからというんで、県のキャラクターをかたどったワッペンを体操着に縫い付けるよう全学年児童が言われたときも、仕事終わりで眠い目をこすりながらお裁縫をするお母さんに、やらねーでいいってそんなもん、そんな無茶言う学校なんか休ませちまいな、とお父さんは言っていた。お母さんは責任感でもってワッペンを縫い付けたけど、色んな事情があって出来なかった子たちは、体育の授業に出してもらえず、教室で正座をさせられていた。

 お父さんが、そんなことを未だに続けてる学校の姿勢を気に入らなかったことは気づいていた。でも内心苦虫を噛みつぶすような気持ちでいても、子供の問題に親が文句を付けるのは違うと思って黙っていたのだろう。

 お父さんがアタシのことをサナ公と呼ぶのは、

「マユ? お前はには勿体ない名前だな。中に住んでるサナギで十分だ」

なんて、軽口でもって付けられた呼び名が変化したから。そこに悪意は無かったと思う。でも、アタシのことを娘と呼んだのはあの時が最初で最後だと思う。それだけあの時のお父さんは本気だった。アタシが下着の色を男の先生、いやお父さんからすれば赤の他人のおっさんに見られたというのがよっぽど我慢ならなかったのだ。

 学校に乗り込んだお父さんは、体育教師に食ってかかるがそう簡単に折れてはくれない。お父さんが何か言えば言うほど先生たちの飲食も悪くなる。長い金髪にいくつものピアスをした保護者なんていったら、学校の先生的には最悪のレッテルを貼りたくなるはず。でもお父さんだって、教師が話の内容より話し手の外見を気にする人達だと思ってるはず。だからこれはもう手に負えないと悟ったのか、

「おい、マユ。帰るぞ」

と、アタシの手を引っ張ってその体育教師を肩でどかしてさっさと歩き出してしまった。先生たちの静止を振り切って、お父さんとアタシは学校をあとにしてしまった。

 お父さんは行きつけの小料理屋さんがあって、アタシはそこに連れられた。好きなもの頼めと言われてもこういうところでなにを頼めばいいのか、ピンと来ない。お父さんは、

「遠慮するなよ、いいや、俺が頼むからな」

色々なおかずとご飯にお味噌汁。並んだ品々はどれもアタシの口に合うものだったので、最初は学校を強行突破で飛び出したお父さんについて行ってしまったことが気にかかっていたけど、少しずつ落ち着いていった。そして、

「明日学校で何か言われたらすぐ俺に知らせろ。スマホ持ってんだろ? 学校でいじってると怒られる? 隠れてやる方法だったら教えてやるよ、俺は授業中にエロ本読むのが学年一上手かったんだぜ」

お父さんの隠れスマホ講座はお断りしたけど、なぜかアタシは随分気が楽になった。お父さんはアタシを家に送り届けると、また夜の街に遊びに行った。

 次の日、登校しても不思議と前日の大騒動は無かったかのようだった。もちろんアタシは昨日のことについて何も言われない。

 その理由はやがて分かった。隣のクラスは午後体育の授業で、うちのクラスの前の廊下を通って校庭に向かう。そのクラスの女子たちが、一番廊下寄りに席のあったアタシに対して、チラッ、チラッと体操着の首元をちょっと伸ばして見せてくる。

 その後、事情が分かった。お父さんの騒動は他の生徒たちの知るところとなる。あれだけ騒げば当然だ。それに一連の事情を知ったみんなにも思うところはあったみたいで、結構な数の子たちが家でその話をしたらしい。アタシたちの学区は東京の郊外で、お父さんの両親あたりからここに住み始めた人が多い。だからアタシも含めて親も同じ中学校の卒業生なんてことはよくある。当然、お父さんのヤンチャ仲間の子どももいる。

「うちのママさー、元ヤンだからマユの話したら超激怒! さっそくマユのパパに電話してさー」

「そうそう、うちもうちも。んで早速SNSでグループ作って相談したわけ。そんなん許してたまるか、ってんでさ」

お父さんは朝方家に帰ってきてすぐ寝てしまったので、アタシはそんな事知る由もなかった。なんでもお父さんの同級生や先輩後輩巻き込んで抗議行動を起こそうということになって、その体育教師やアタシの担任、果ては校長先生に至るまで抗議電話を掛けまくり。やがてそれが深夜に及ぶにあたってたまりかねた校長先生が、こんな迷惑行為をするなら然るべき処置をとります、と宣言したんだけど、それこそ保護者軍団の思う壺。当時、不良が不良だけと仲良しなわけではなかったらしく、今は弁護士やら警察官やら新聞記者やらになっている親たちだって今回の抗議行動に参加している。のちに社会問題となり、文部科学省が学校に指導する羽目になったこの問題。騒ぎ立てればどうなるか分かってるんだろな、世間も法もこっちの味方に付くけれど、それでもいいんだな? と。

 そして女子たちはみんな、色とりどりの下着を着て体育の授業に臨んだ。もちろんそれを見せつけるわけにはいかないが、体操着の下ニ派手なTシャツを着ている子が何人もいた。体育教師はそれらに注意出来ず、怒りをこらえている姿が笑えて仕方なかったらしい。

「なんでそんなシャツを着てるんだって注意されたら、下着を見られないようにです、って答えりゃいいって親に教えてもらってさ。その通りにしたら、ヤロウ何にも言い返せないでやんの。ザマァみろだよ」

アタシたちの大勝利。以後、おかしな校則がどんどん変わっていき、学校生活が楽しくなった。

 アタシは早速家に帰って、お父さんに報告しようと思った。突破口を開いてくれたのはお父さん。それにみんな感謝てたよ、と。

「ただいまー」

アタシがそう叫んでも、返事は無かった。またどっかに遊びに行ったかと思ってたけど、次の日もお父さんは帰って来なかった。お父さんに会えないまま一週間ほど経ってから、お母さんと離婚したことを知らされた。親戚から早く別れろと言われてたのには薄々気付いていたけど、お母さんは違うと思ってた。お父さんに対して愚痴ることもあったけど、いつも最後に言うことは決まっていた。

「しょうがないなあ」


 「マユさん、マユさーん」

千栄莉の声で目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだ。

「あ、千栄莉、おはよう」

アタシは眠い目をこすりながら返事した。千栄莉はちょっと不機嫌そうに、

「ごきげんよう。わたくしは、ご機嫌あまりよろしくないですけど?」

「ん? どしたの?」

「どうしたも何も、人の身体を勝手に使っておいて、自分は寝ちゃうとかどういうことですの?」

……あれ? 気づかれちゃった?

「最近、眠っても疲れが取れにくいから、おかしいとは思ってましたの。それで寝たふりをしていたら、案の定ですわ。雑談で、わたくしの身体を使うのはおやめになってくださる?」

千栄莉はお嬢様英才教育のひとつとして、禅などの精神修養も積んでいる。高貴な者はいたずらに心を乱してはならないというのが鳴滝家の教えだとか。それで気配を消して、栄一さんが出てくるのを待っていたらしい。

「あー、わりいわりい、それで、栄一さんは?」

「マユさんがお休みになったあと、散々お説教をしておきましたわ。謹慎ということで、しばらくわたくしの身体は使わせません。それはそうと、マユさん、さっきのは謝罪ですの?」

「うん。ダメ?」

「当たり前です。謝罪の気持ちが全く伝わってきませんわ」

千栄莉さん、かなりお怒りのご様子。とは言っても、ね。

「伝わるはず無いよ。悪いと思ってないし」

しれっと言っちゃった。

「だって寝てる間に少し身体を借りるくらい、いいでしょ? だいたい千栄莉は早く寝過ぎなんだってば」

「開き直りますの? そういう不誠実な態度は無いんじゃありませんこと? 親しき中にも礼儀ありと言うではありませんか」

 アタシたちの口論は延々と続いた。でも最終的に千栄莉の怒りは、さっきから千栄莉の中でクスクス笑いをこらえているあの人に向けられた。

「笑ってる場合じゃございませんのよ、この」

千栄莉はひと拍子置くと、

「迷惑ジジイ、渋沢栄一!」

うわー言っちゃった。ついにジジイ呼ばわり、きちゃった。でも、

「はっはっは、千栄莉さんもようやく今どきの女学生らしくなりましたね。良きことです。なあに、そうやってもっと活発に自分を出して行く方が人生楽しくなりますよ。保証します、この、ジジイ、が」

「ぐっ……」

散々な挑発と、クスクス笑いによって頂点に達した千栄莉の口から出た本音。でもそれもアタシと栄一さんのあうんの呼吸というか空気読んだというか。千栄莉は思わず言ったこともないような乱暴な言葉を使ってしまい、ただただ顔を赤らめるばかり。

 これからも、色々ありそうだ。お嬢様とガチ庶民のJKコンビと郷土の偉人改め、ドスケベジジイの三人世直し漫才。

「ドスケベは余計です」

あ、聞こえちゃった。とにかく栄一さん、これからもよろしく。千栄莉、まだまだこれからたくましくなんなよ。

とりあえず「まだ続きます」にしてありますが、今書きたいことは一通り書いたので、このまま閉じてもいいような文末にしておきます。

また何か世の中に対し沸々と怒りが沸いてきたら、続き書きます。

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