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おとな

作者: ゐゐこ

「もうすぐ卒業か…」


学校の帰り道。隣を歩く、美希がぼそりとそう呟いた。


「なーんかさ、卒業って感じ、しないよね。」

「そう?」

「うん。なんか理由はわかんないんだけどさ。」


そう言って、美希はふふっと笑った。

2月。高校3年生の私達。私たちはもうすぐ、高校を卒業する。


「ねーね、杏はさ、早く大人に、なりたい?」


突然そんな質問をされた。


「えー、なになに、突然。」

「いや、ちょっと気になっただけ。まあ別にそんな深く考えて言ったわけじゃないから、教えてよ。」

「なにそれ。へんなの。んー、まあ私は、早く大人になりたいかなぁ。」

「そっかー。えー、なんで?」

「んー、なんかさ、子供って、出来ること少ないじゃん?例えば…18歳以上にならないと免許取れませーんとか、20歳超えないと、お酒もタバコもだめでーす、とか、まあ別に制限があることに対しては文句ないけど、なーんか、子供って窮屈じゃない?」

「…そっかー。」


そう。私は、早く大人になりたい。美希にはお酒とか免許とかそう言う普通のことを言ったけど、実際私が早く大人になりたいって言うのは、そう言うことじゃない。


ーーー私の家は、ちょっと変わってる。小さい頃に母が父と離婚して、私は幼少期、祖父母と父に育てられた。祖父母は私に対して優しかったけど、夫婦仲はあまりよくないみたいで、毎晩喧嘩をしてた。小さい頃は、その喧嘩が怖くて怖くて、毎晩泣きながら眠っていた。父は仕事で遅くまで帰ってこないし、兄弟もいない。私は常に、早く大人になって、1人で暮らしたい。そう考えていた。

まあ流石に18になった今は、祖父母の喧嘩で泣くことも無くなったけど、でもやっぱり、早く大人になりたいと言う気持ちは変わっていない。


「そう言う美希は、どうなのよー?」

「えー、んー、なーんか言うの恥ずかしいなぁ。」

「えー!私も言ったんだから美希も教えてよー!!」

「えへへ、そうだよね。ま、杏になら、いっか。」


そう言って美希は、目の前の石を軽く蹴飛ばした。


「私は、このままずーっと、大人になんかならなければ良いのにって、思ってるんだ。」

「えー!なんでなんでー?」

「私ね。大人が、嫌いなの。」

「へ?」


「嫌い」と言う突然の強い言葉に、一瞬脳が固まる。


「へへ。ごめん、驚かせちゃった?」


こちらを向いて笑った美希の目には、涙が溜まっていた…ような気がした。


「なんで…?」

「実はね、私のお母さんとお父さん、お互いに浮気してるの。」

「…え?」


突然の告白に、またもや思考が固まる。


「いやー、突然ごめんね。ずーっと、杏に言おうか迷ってたんだ。」

「…そう、なんだ。」

「私のお母さんとお父さん、何年か前から仲悪くなってて、お互いに浮気してて、それをお互いにわかってるのに、離婚しないの。理由は…なんでだと思う?」

「…わかんない。」

「私が、子供だから。」

「子供だから…?」

「そう。なんかね、2人で、美希が高校を卒業するまでは、離婚しない、って決めたみたいなの。だから、まだ離婚はしてないみたい。」

「…」

「私ね、お父さんもお母さんも大嫌い。お互いに好き合って、永遠を誓って結婚したはずなのに、結局は浮気して、子供悲しませて…、大人って、醜い。だけどね、それとおんなじくらい、お父さんとお母さんが大好き。離れてほしくない。」


そう言った美希の声は震えていた。横を向いているから見えないけれど、多分泣いてると思う。


「…だから私は、大人になりたくない。子供のままでいたいんだ。」

「…そっ、か。」


少しの沈黙が流れた後、美希がぐしぐしと自分の目を擦り、こちらを向いた。


「ごめん杏!突然こんなに重い話して、びっくりしたよね!なんか、もうすぐ卒業だから、ちょっと感傷にひたっちゃった…。えへへ。」


そう言って笑う美希は、少しだけスッキリとした顔をしていた。



高校3年生。私達はもうすぐ、大人になる。


読んでくださってありがとうございました!

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