引きこもり
「引きこもる?」
ウォルツから入れてもらった紅茶にお砂糖とミルクを入れて一口飲む。
「はい。『家に来る縁談や誘いが凄いから学園でも凄いだろう。お前は学園で受ける教科は全て独学で勉強し終わっているからゼインと同じように卒業しても構わん。ほとぼりが覚めるまで昔あげた領地でスキルを磨いてみたらどうだ』と、昨日言われましたの。あ、領地と言っても誰も住んでなただの土地なんです。森があって草原がって湖があって、自然が良いので幼い頃に父から頂いてお家を一軒建ててからよく遊びに行ってるんです。」
「……小さな子供に領地を上げるって流石公爵家だな。まぁ、ほとぼりが覚めるまで引きこもるには最適だな。」
「他の生徒の方や先生方がウォルツ先生みたいに気にしないで接して頂ければそんな事しなくて良いんですが……あ、ウォルツ先生!その頂いた領地、先生のご出身国と隣接しているんです!」
ネビル・ウォルツは隣国、ターコル国出身の教師だ。赴任してきたのは4年前からで身長も高く体格も良いので赴任してきた当初から女生徒から人気の先生だ。
「ん?ダインベル家所有の領地でうちの国と隣接してるとこってあそこか?でっかい森があって湖がある」
「はい、そこです。そこだったら私の持つ『生産スキル』を磨けれるかなと……」
ガリオン学園の入学試験では筆記、面談、実技以外に手のひらほどの大きさの水晶使って魔力とスキル調査をする。魔力やスキルを持っている平民でもこの調査で判明したら入学出来るので、入学試験では筆記、面談、実技はあまり対策しないで良いと言われるほどこの調査が重要視されていた。
そこで判明されたサラレイリーンのスキルだ。『生産スキル』がどんなスキルなのか独学で調べると前世でよくやっていた牧場系ゲームになんとなく似ていた。木材を数個集めてスキルを使うと木のオノや木のスコップが出来たり、石材と木材を数個集めると石のオノ、石のスコップが出来上がる。他にも果物にスキルを使うと果物の種が出来たりスキルを使うことでレベルが上がると作れるものの幅が広がる。
前世では牧場系ゲームが好きでよくやり込んでいた。あそこの領地だと自然がいっぱいなので素材も手に入りやすいだろう。それに、
「でも森って、魔物は出ないのか?」
「はい、もちろん出ますわ。」
そう、異世界転生の醍醐味である魔物がこの世界には存在する。学園で学ぶよりも実際に魔物を倒した方が自分自身のレベルアップにも繋がるだろうし、だからこそゼインお兄様はさっさと学園を卒業して修行の旅に出たのだ。
「あそこに建てた屋敷の周りには神官長様が貼って下さった結界がありますし、調べたところ森には高ランクの魔物はいませんでした……ほんとは私もゼインお兄様と同じようように修行の旅に出ようとしたんですが家族や、陛下が許してくださらなかったので……。」
「……あぁ、お前さんに対しての可愛がりようは有名だからな。」
そう、自分自身かなり愛されている自覚はある。屋敷戻っていた数日間はある意味大変だった。陛下が屋敷に来て土下座(この世界に土下座はないが)する勢いで謝罪してきたし、謝罪品として宝石やらドレスやらを沢山頂いた。
父は王宮で仕事せずにずっと屋敷で仕事をしていたし、空いた時間には幼い頃のように父の膝に乗せられて本を読んでくれた。
兄に至っては付きっきりで魔法を教えくれたのは良いが、お風呂も一緒に入ろうとするし夜も一緒に寝ようとして父や母にかなり叱られていた。ワイルドでダンディな父に、前世の記憶がある分精神年齢は高い自覚があるが18 歳とは感じさせない兄にこの数日間は本当にドキドキさせられぱっなしで、ある意味精神的に大変だった。
一番安心して横にいれたのは母だ。勿論母からもしっかり愛されているが精神的に危ないと思ったらすぐ母の横に避難して庇ってもらった。
「私は魔物を退治して、自分自身のレベルアップもしたいですがその前に昔から農業に憧れていましたの。父に話してみたら好きにしていい、今は村人もおらず何もないところだから自分で好きに発展させてみなさいと言ってくださったので今日の学園の様子を見て決めようと思ってました。先生から農業を教わることが出来ないのはかなり残念ですが、このままだと授業もまともに出来そうにないので今日家に帰ったら卒業する事を話してみようと思います。」
「農業っていうのは平民からしても、将来領主となって自分の領地を発展させていくためには大事な部分になってくる。公爵令嬢って立場関係なしに真面目に授業を聴いてくれた教え子がいなくなるのは残念だが、自分の将来を決めていくのは自分だ。俺は応援してるぞ。」
「ありがとうございます。多分家に帰ればすぐ卒業の手続きをしてくれると思うので学園に来るのも今日が最後だと思いますが、最後にこうやって先生の紅茶が飲めて良かったですわ。先生、今はまだ何もないですが落ち着いたらぜひ遊びに来てください」
憧れていた生活に飛び込む前に、授業以外でも農業について教えてくださったウォルツ先生にはどうしても最後に挨拶したかった。
「あぁ、是非遊びに行かせてくれ。その時は手紙をだすよ」
「はい、お待ちしてます。紅茶ご馳走様でした美味しかったですわ」
挨拶を済ませ、教室に向かう。またお誘いがあると思うと憂鬱だがこれからの自分を想像するとワクワクが止まらない。