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epilogue
こうして、僕は宿無しの猫となった。野良猫としての暮らしは上々だ。今日も公園のベンチで日向ぼっこをしていたら、年配の女性からちくわを貰った。
あの少女も時々、学校を抜け出し僕に鰹節をくれた。懲りていないなという僕の声は相変わらず届きはしない。
彼女の部屋の窓は閉じられてしまった。私物の少ない部屋は、すぐに空っぽになっていた。まだ人は入っていないが、いつか誰かが住むだろう。
彼女が轢かれたらしい道路の端には、花を挿した花瓶が置かれている。彼女にも友人はいたらしい。僕はそこに、そっと彼女の桜の髪飾りを置いた。
すると、艶やかな黒い毛のメス猫が僕の前に立ち止まった。足を引きずっている。見るからに鈍くさい女は僕に話しかける。
「髪飾り、見つけてくれたのね」
僕は彼女の黄色い瞳をじっと見つめ、声をかけた。
「おかえり」
「ただいま」
今度の彼女は目を丸くしなかった。
この物語は2019年の文学フリマ大阪にて頒布した『雨の日』に掲載したものです。




