おさかなさん
ぼくのところにおさかなさんが来ました。ちょっとぶさいくで丸っこいおさかなさんです。おさかなさんはつぶらな瞳でぼくのことを見ています。たぶん、ぼくとおさかなさんは仲良しになれたのだと思います。
おさかなさんはいつもぼくの近くにいます。ぼくが寝ていると、時々ペタペタとぼくの上を歩いたり、ぼくの腕や足に寄りかかったりします。ひんやりとしていて、ちょっと生臭いです。
通りがかりのおじさんが「その魚、旨いんだけど食わねえのか? 勿体ねえなあ」と言いました。
「たべるの?」
おさかなさんがちょっと怯えたように聞いてきました。すこし声が震えてます。
「食べないよ」
ぼくはそう答えました。ちょっと安心したようにつぶらな瞳でぼくのことを見ます。でも、おさかなさんはまだちょっと不安そうです。
「ほんとうに?」
「うん」
「でも、おいしいんでしょ」
「そうらしいね。でも、別に食べたくないし。友達でいたいし」
「ともだち?」
うん。たぶん、友達になれたのだから。でも、おさかなさんは、通りがかりのおじさんの言葉がまだ心に引っかかっているみたい。
「でもね。どうしてもたべたいのなら……いいよ?」
こんなに丸っこくて、ひんやり気持ちよくて、ちょっとぶさいくでかわいいおさかなさんを、そんな風にできるわけ無いじゃないか。ぼくはその代わり、おさかなさんを手の上にのせて、その丸っこいからだに頬ずりしました。やっぱりひんやりしていて、ちょっと生臭かったけれど。
おさかなさんは、ようやく安心したみたいで、ぼくのてのひらの上でまどろみ始めました。ぼくはそんなおさかなさんを、そっとベッドのわきに寝かせます。寝ている姿もかわいいけれど、やっぱりちょっと、おさかなさんはぶさいくです。