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エネス⑤

 紅神は侵入者の気配を感じると転移魔術を展開すると数秒後には天瑞宮の外縁のリングに立っていた。


「あいつらか? ほう……数は四人か全員が呪い(・・)を受けているな。哀れな事だな」


 紅神は侵入者を見ると同情したような表情を浮かべて言う。


「となると今回の侵入者は神に誑かされた連中という事か……あいつら自分の神の言葉しか信じないから面倒なんだよな」


 紅神の言葉に苦々しいものが含まれている。今までの経験上、神の使徒を自称する連中ほど説得に骨が折れるという経験があるのだ。しかも大した実力もないくせに神に選ばれたなどという無意味な根拠を振りかざして紅神に臣従を強いるのだから呆れてしまうことが多々あった。


「といっても欺されている可能性が大きいからな……一応、話だけは聞いてやるべきだよな」


 紅神は小さく呟く、神の使徒とは別の言い方をすれば神に欺された被害者であるとも言えるので紅神は極力改心を促すことにしているのだ。


 紅神がそのような事を考えているとも知らずに四人の男女は一直線に天瑞宮に向かってきていた。

 四人の男女は身につけた武具の力によって浮かんでいるのだろう。飛行に対してまったく不安は無いようであった。


「お前がガハンか?」


 十代後半の男性が紅神に向かって言い放った。その声にはそもそも隠すつもりもないのだろう十分すぎる程の敵意が含まれていた。当然ながら紅神はガハンでもないし、彼らの事も知らない。そこで紅神はまずは誤解を解くことを第一に考える事にした。


「いや、俺は“紅神”だ。そのガハンという者じゃないよ。それより君達は何者だ?」


 紅神の言葉は穏やかであり十分な礼儀作法に則って行ったつもりのものであった。ただ異世界の者である以上、自分達と礼儀作法が同じとは限らない。


「俺は勇者ジークだ!!」


 勇者と名乗ったジークという青年は敵意をこめつつ紅神に名乗る。紅神はそれからジークの仲間達に視線を移すと意図を察したのだろう仲間達もそれぞれ名乗る。


「アルマよ!!」

「私はシェリー!!」

「アーノスだ」


 それぞれ名乗ったジーク一向に対して紅神は承知したとばかりに頷く。


「それで君達は何しにここに来た? 最初、俺の事をガハンと名乗った所からそのガハンとやらを探しているのだろうが、ここにガハンという名の者はいないぞ」


 紅神の言葉にジークは即座に返答する。


「ならばレメンスを出せ!! 俺達はレメンスを斃しにここまで来たんだ」


 ジークはなおも敵意を込めた声で紅神に告げる。


「そのレメンスという者もここにはいないぞ。というよりも誰だそれは?」


 紅神の言葉にジークは怒りを露わにする。紅神の余裕の言葉はジーク達にとってあしらわれている感じがしたのだろう。


「巫山戯るな!! 貴様はレメンスの部下なのだろう!!」


 ジークの言葉に紅神は困った様な表情を浮かべる。ジークの言ってる言葉は論理の飛躍も甚だしいものであった。


「あのな、俺の主は創世神様であり、そのレメンスという者じゃないぞ。ついでに言えば創世神様の本名はレメンスではない」

「嘘をつくな!!」

「そうよ。あんたの主がレメンスでないというのならその証拠を見せなさいよ」

「あなたのいう事なんて信じられないわ」

「その創世神とやらに会わせてもらおうじゃないか!!」


 紅神の言葉に一斉にジーク達は声を上げる。その様子は猿がキーキーと喚く姿にも似て見苦しいことこの上ないと言えば猿が気を悪くするであろう。


(やれやれ……話が通じんな。これはやはり呪い(・・)故にアホになっていると考えるべきか。それともこれがこいつらの通常な状況なのか気になるな)


 紅神は心の中でため息をつきつつも話を続ける事にした。


「嘘などついていない」


 紅神は指を指差すとただ一言告げる。次いでアルマを指差して口を開いた。


「俺の主は創世神様だ。レメンスとやらを知らない。知らないことを証明しろと言われても不可能だ。だから出来ない」

「な……」


 紅神の言葉に意味が分からないという表情をアルマは浮かべる。紅神はそれを無視して次はシェリーを指差した。


「俺を言っている事を信じられないのはお前の意見であり俺の責任ではない」


 最後にアーノスを指差した紅神は告げる。


「創世神様はお休みになられている。それを呼ばれもしてないお前達に会わせるために起こすつもりは一切無い」


 紅神は冷たく言い放つとそのまま続ける。


「お前達の様子を見ると創世神様に何らかの危害を加えようとしているのはありありとわかる。そんなお前達を創世神様に会わせるつもりは一切無い。お前達はさっさと自分の世界に帰り、その事を送り込んだ奴に伝えろ」


 紅神の言葉は限りなく冷たい。その声にジーク達は即座に反発した。


「巫山戯るな!! レメンスの手下の分際で!!」


 ジークはついに抜剣する。抜剣された闇を裂く剣(エメルギルス)は強烈な光を周囲に放った。


「その剣は……」


 紅神が訝しむ声を発したことでジークはニヤリと嗤う。闇を裂く剣(エメルギルス)の神々しい光にどこでそれを手に入れたのか尋ねるはずと言うつもりだとジークは考えたのだった。

 

「なるほど……それが貴様にかけられた呪い(・・)か……」

「呪い?」


 紅神の言葉にジークは呆けた様な表情を浮かべながらポツリと言うと紅神の言った言葉の意味を理解したのか憤怒の形相を浮かべた。


「これはエネス様にいただいた闇を裂く剣(エメルギルス)だ!! レメンスを斃すための神剣だ!! これが呪いのはずはないだろう!!」

「そうよ!! エネス様のご加護が恐ろしいからと言って呪いだなんて、エネス様への最大級の侮辱だわ!!」

「許せんな……」

「ええ、こうなったら力尽くで推し通りましょう!!」


 ジーク達は怒りの声を上げるとそれぞれの武器を構えた。ジークはもちろん闇を裂く剣(エメルギルス)、アーノスは背負った大剣、アルマは懐から取り出した一冊の魔導書、シェリーは銀色に輝く錫杖だ。凄まじい敵意が四人から放たれるが紅神はまったく意に介した様子も無く言う。


「なるほど……エネスというのか。今回の騒動の仕掛け人は……」


 紅神はそう言うと右手を掲げて衝撃波を放った。


「ぐ……」

「きゃあ!!」

「くぅ!!」

「うおぉぉぉ!!」


 紅神の放った衝撃波により四人は吹き飛ばされた。


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