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エネス④

 会場は地獄絵図と化していた。間断なく降り注ぐ雷は身分、性別関係なく降り注ぎ雷に打たれた者達は黒焦げとなり床に転がっている。床に転がっている黒焦げになった死体達はほんの数分前まで美しく着飾っていた者達であった。


「ひぃぃぃぃ!!」

「きゃああぁぁぁ!!」

「ロビン!! いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「母上ぇぇぇ!! しっかりしてください!!」


 出席者の口から苦痛の声、親しい者達を失った慟哭が発せられる。この世に地獄があるとすればまさにここである事は間違いないだろう。


「ジーク、これは……」

「わからない……だがこんな蛮行を許すわけにはいかない!!」

「ええ」

「私がやるわ!!」


 ジークの言葉にシェリーが防御陣を形成するとバルトラインの王城を覆った。すると雨霰と降り注いでいた雷を防ぎきる事に成功した。


「さすがシェリー!!」

「ありがと……でも、このままじゃジリ貧よ!! あのガハンという奴を何とか斃さないと……」


 シェリーの言葉にジーク達は頷くが肝心のガハンが姿を見せない事により流れを変えることは出来ない。


「くそ……」


 ジークが悔しそうな声を出した時、この地獄に救い主が現れた。突如会場に発した光が女性の形をとったのだ。地獄に現れたその神々しい姿に会場にいた者達はその美貌に見惚れたぐらいである。


「エネス様!!」


 ジークが叫ぶとエネスは小さく微笑むと両手を天にかざした。シェリーの展開した防御陣よりもさらに強固な防御陣が形成されるとガハンの雷はその防御陣を突き破ることが出来ない様であった。


「おのれぇぇぇ!! エネスめ!! 何故レメンス様の邪魔をするのだ!!」


 どこからともなく聞こえてくるガハンの声には隠そうともしない苛立ちが含まれていた。

 そのガハンの言葉をエネスはキッと空を睨みつけると言う。


「黙りなさい!!レメンスはなぜこのような非道い事をするのです!! この者達に一体どのような罪があるというのです!!」

「黙れ!! 人間達は神の領分を侵す人間を許せぬとレメンス様がお決めになられたのだ。矮小な人間共に神の裁きを与えるのだ」

「ガハン……そしてレメンスも勘違いしています」

「なんだと?」

「あなた達は人間を矮小と言いましたが決してそうではありません。確かに一見人間は強者には見えないかも知れません。ですが、助け合い、困難に立ち向かう勇気が人間にはあるのです。それは神の試練をも超える事の出来る人間の強さなのです!!」

「黙れ!! そこまで人間に肩入れするというのであればすれば良い。だが良いのか? レメンス様と貴様が戦えばこの世界はもはや修復不能なほどの被害を受ける事になるだろう」

「く……」

「確かに我が力ではエネス貴様には勝てない。だが、貴様もレメンス様と直接対決は出来まい。言わば我らはこの世界を人質に取っているようなものよ」


 ガハンの言葉にエネスは悔しそうな表情を浮かべた。それがガハンの言葉が真実である事を示していた。


「ならば、レメンスとやらは俺が討つ!!」


 そこにジークが叫んだ。ジークの言葉にエネスが悲しそうな表情を浮かべた。


「ジーク……いかにあなたといえどもレメンスに勝つ事は不可能」

「エネス様、私達はあなた様の加護があったとはいえエルフェルクを斃すという困難を成し遂げることが出来ました。我々におまかせください」


 ジークの言葉にエネスは悲しそうな表情を変えることはなかった。


「しかし、あなた達は十分に戦ってくれました。そのあなた達にさらなる苦しい戦いに向かわせる事は……」

「エネス様、ガハンは無差別に我々を攻撃しました。これが全世界の人間に次は降り注がれるかも知れない。そんな事を許すわけにはいかない!!」


 ジークの言葉にエネスは頷く。それがジーク達を新たな戦いの場に駆り立てる事が決定された瞬間であった。


「ガハン……聞きましたか? これが人間の力です。レメンスに伝えなさい。あなたの悪しき心はこの勇者ジークが討つと」

「巫山戯るな!! 人間如きがレメンス様を討つだと!? そのような不遜な言葉を伝えるわけにはいくわけなかろう」

「ですが、私がここにいてジーク達を守ります。それはガハン、あなたにこれ以上ここで殺戮を行う事は出来ない事はわかりますね?」

「く……」

「さぁ、理解したなら早く行きなさい」


 エメスの言葉にガハンは悔しそうな声がジークに投げ掛けられる。


「人間よ、ここは引くがレメンス様を斃すという貴様の無礼を許すわけにはいかぬ。貴様が我が前に現れた時を楽しみにしているぞ」


 ガハンがそう言うとそれを最後に息苦しいほどの圧迫感が消え去った。


「エネス様……」


 ジークがエネスに話しかけようとしたのをエネスは手で制しジーク達に告げる。


「ジーク、話は後です。まずはこの惨状を何とかしなければ」


 エネスはそう言うと巨大な魔法陣を描き出し、王城を覆った。すると斃れていた者達が立ち上がってきた。全員の姿は数分前の黒焦げになる前の優雅な姿に戻っていた。すでに死んでいた者は事情が分からないのだるキョロキョロと周囲を見ている。


「おおおおお!!」


 人々が甦った事で会場に歓喜の声が発せられ、みながエネスに向かってその偉大さを称える視線を向けると全員がエメスに向かって跪いた。エネスの神々しさに完全に信服しているのだ。


「人の子らよ……今回の暴挙を引き起こしたのは冥界の神レメンスの部下が行った事……レメンスは人間への攻撃を開始いたしました。ですが私自らレメンスを討つことはできません。もし私自ら動けばそれはこの世界の終焉を意味してしまいます」


 エネスの言葉に出席者達の表情から不安の感情を読み取る事が出来た。神が手出しできないと言うことは自分達はどうなるのかという不安が生じたのだ。その不安を和らげるようにエネスは微笑むと優しく、そして力強く告げた。


「心配はいりません。私が勇者ジークと仲間達に新たな加護を与える事でレメンスを上回る事が出来るようになるはずです。いくら加護を与えても強大なレメンスを討つ事は出来ないでしょう。しかし、ジークや仲間達が力を会わせればレメンスを打ち破る事ができるやもしれません」


 エネスの言葉に跪く者達の表情に希望の火がともる。


「ジーク、そして仲間達よ立ちなさい」


 エネスの言葉にジーク、アルマ、シェリー、アーノスは立ち上がる。会場の全員の視線がエネス達を中心に一点に注がれた。

 エネスは天上に両手をかざすと一振りの剣が現れるとそのままジークのもとにゆっくりと降りていく。ジークはその剣を迷わず手にするとエネスはゆっくりと頷いた。

 エネスが頷いたのを見てジークもまた頷くと与えられた剣を抜き放った。


「うわ……」

「美しい……」

「なんだ、あの剣は……」


 抜き放ったジークの剣は強烈な光を放っていた。相当な光量であるにもかかわらず不思議とそれを見た者が目を逸らすことはなかった。


「エネス様……これは?」


 ジークがやや興奮したように尋ねる。


「その剣は闇を裂く剣(エメルギルス)……今のあなたならば使いこなすことが出来るでしょう。その剣ならばレメンスですら死を与える事が出来るでしょう」


 エネスはそう四人に向けて言う。


「あなた達にも加護を授けましょう」


 エネスはそこで手から四つの宝珠を生み出すとそれぞれを四人に向けて渡した。四人はそれぞれその宝珠を手に取ると宝珠は体の中に吸い込まれていく。


「あ……」

「何……これ?」

「力が……力が湧いてくる……」

「これは一体……」


 四人は驚いた表情をエネスに向ける。それを見てエネスは優しく微笑むと言う。


「私の力をあなた達に分け与えました。これでレメンスとも互角に戦えるでしょう」

「ありがとうございます」

「ただし、その力には制限時間があります。使い所を間違えないようにして下さい」

「その時間は……どれくらいですか?」

「エネルギーの消費量にもよりますが、十分……です」


 エネスの言葉にジーク達は頷いた。十分でレメンスを斃さなくてはならないという事であるが、今のジーク達にはそれで十分であった。


「エネス様、俺達をすぐにレメンスのもとに送って下さい」

「しかし、準備を整えねば……あなた達といえども……」

「お願いします。俺は一刻も早く平和を取り戻したいのです!!」

「……わかりました」


 ジークの言葉にエネスは頷くとまたも光をジーク達に与えるとジーク達の姿が変わる。ドレスや礼服などのきらびやかなものではなく、光り輝く鎧、盾などの武具を身につけた姿、神々しい光を放つローブなどを身につけていた姿に変わった。


「こ、これは……?」


 アーノスの言葉にエネスはニッコリと微笑んで言う。


「私からの贈り物です。これならば私の加護をさらに高めてくれるはずです」

「あ、ありがとうございます!! 必ずレメンスを討ち果たして御覧に入れます!!」

「頼みましたよ」


 エネスはそう言うと巨大な魔法陣を展開させた。


「ジーク、みなさん、頼みましたよ」

「「「「はい!!」」」」


 エネスの言葉にジーク達は即座に返答するとそのままぐにゃりと視界が歪んだ。そして視界が元に戻った時、ジーク達の視線の先には宙に浮かぶ巨大な建造物があった。


 ようやく次回に主人公達が出てきます。長々としてしまいました。

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