エネス③
エネスの力でバルトライン王国に転移させてもらったジーク達一行は早速、国王のクリュード2世の元に行き、魔王エルフェルクの討伐を成し遂げた事を報告すると国中が歓喜の声に包まれた。
バルトライン王国では長い間エルフェルクの脅威にさらされており、その恐怖から解放された事も歓喜の声に包まれた理由であった。
クリュード2世はジーク達を労うと大規模な祝宴をとりおこなう事になったのだ。クリュード2世は各国へ招待状を送り文字通り世界中の要人がバルトライン王国に集まる事になったのだった。
祝宴は三ヶ月後であり、ジーク達はその間休養をとることになったのであった。そして三ヶ月が経ち祝宴の日がやってきた。
「ふぇ~すごい!!」
アルマは驚きの表情を浮かべながら街の様子を見ている。各国の要人達がきらびやかに飾り立てバルトライン王国の王都である“バルトガル”の大通りをパレードしており各国の要人達の贅をこらしたパレードは王都の住民達を大いに楽しませていた。
「お、あれはクルムス王国の国王、王妃だな」
アーノスが指差した先には豪奢な意匠に身を包んだ美しい男女がにこやかに王都の住民の歓声に応えて手を振っている姿が見える。
「すごいな。どの国もも国王、王妃が来てるじゃないか」
「それだけエルフェルクの討伐は目出度いという事なのさ」
「あはは、そうだな」
アーノスの言葉にジークは嬉しそうに返答する。自分達のやってきた事がここまで人に幸せを与える事が出来た事に対して嬉しく思ったのだ。
「この祝宴が終わったら次はジークとアルマの結婚式ね」
「うん」
「豪華な結婚式になりそうね。いえ、しましょうね♪」
アルマの返答にシェリーも嬉しそうに答える。
「皆様、そろそろ城にお戻り下さい」
そこに一人の文官がジーク達に小声で言う。
「あ、はい」
文官の言葉にジークが恐縮したように謝罪すると文官はその素直な態度に顔を綻ばせた。
ジーク達は文官に連れられて城に戻り今夜の祝宴の準備に取りかかることになったのであった。
* * *
祝宴の会場に着いたジーク達一行は早速出席者達の注目を浴びることになった。ジーク達はやや居心地の悪い思いをしながらも祝宴の始まりを待つことにした。
バルトライン王国国王クリュード2世が壇上に上がると出席者達の視線はジーク達から壇上のクリュード2世へと移った。
「お集まりの皆様方、長年我々を苦しめてきた魔王エルフェルクは、勇者ジーク、賢者アルマ、聖女シェリー、戦士アーノスの四名によって斃されました。我らは救われたのです!!」
クリュードがそう言うと出席者の中から割れんばかりの拍手が送られる。クリュードは手をかざして拍手を沈めると再び演説を始める。
「もちろん、この場にはいないが勇気ある者達がエルフェルクに挑んでいった事も忘れてはならない。皆さんの父、兄、師、友……かけがえの無い者達を失った悲しみを背負っている方も多いでしょう。その方達もいたからこそ我らはエルフェルク率いる強大な魔族の軍団を退けることが出来たのです」
クリュードの言葉に出席者の中には目をぬぐう者もいた。
「皆様……エルフェルクの脅威は去りましたが、我々は次に荒れ果てたこの世界を立て直さねばなりません。我々は今までとは違う戦いの舞台に立ったのです。しかし、我々はあの強大な魔王エルフェルクとの戦いに勝利を収める事が出来ました。次の戦いも手を取り合って勝利を掴もうではありませんか!!」
クリュードが力強く宣言すると会場をまたしても熱気が覆う。先程の拍手よりもはるかに強大な熱気が会場を包んだ。
その時である……。
突如、会場に異様な気配が発生した。会場にいる要人達もその雰囲気を感じたのだろう会場の熱気が一気に冷めると代わりに警戒の気配が会場を包んだ。
「ふはははははは!! エルフェルクを斃したぐらいで救われた気になるとはな。人間とは何と愚かな存在よ!!」
それはあらゆる不吉を含んだ声であり出席者達の中に動揺が走った。
「何者だ!!」
クリュードが叫ぶとその不吉な声は面白そうに返答する。
「我は冥界の神レメンス様に仕えるガハン!! エルフェルクなどレメンス様に仕える神の一柱にすぎぬ」
「なんだと……」
「ふ、レメンス様はお前達人間を皆殺しにせよと命令された。まずはこの会場にいる者達からだ!!」
ガハンはそう言った瞬間にバルトラインの王城に雷の雨が降り注いだ。降り注いだ雷の雨は王城に施された結界を紙のように突き破るとそのまま天井を貫き会場に降り注いだ。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
直撃を受けた出席者は黒焦げになりそのまま床に転がった。肉の焦げた不快な臭いが発生するが会場は混乱に包まれておりその事を気にする者達など誰もいない。
「人間ごときが思い知るが良い!!」
ガハンの楽しそうな言葉が発せられる。世界は喜びから一転再び地獄が訪れたのだ。