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宣戦布告④

「もう、わずらわしいわね」


 華耶はそう言い放つと指先を結界に当てた。


 ピシッ!! キッシィ!! ピシッ!!


 するとヒビが結界に入り始める。ヒビは止まることなく広がっていく。


 ガシャァァァァン!!


 結界が砕けると残骸が暁賢へと落ちていく。


「ほら、蓮夜。あんた先に行きなさいよ」

「はいはい」


 華耶の言葉に蓮夜は肩をすくめると暁賢へとゆっくりと降っていった。


「さ、お姉様。行きましょう♪」

「ええ」


 華耶の言葉に織音は微笑むと蓮夜の後に続いて暁賢へと降りていく。すでに蓮夜の降りていく先には衛士達が続々と集まっているのが見える。


 すでに暁賢の地面に降りたっている蓮夜の周囲に衛士達がすさまじいさっきを放ちながら武器を構えている。


「蓮夜、ありがとう」


 織音の言葉に蓮夜は僅かに顔を綻ばせる。周囲の衛士達から注意を一切外すことなく織音を迎えるのは、蓮夜にしてみれば至極当然である。


「さて、私は織音と申します。……かつてこの暁賢で理鏡(りきょう)の職にありました」


 織音の言う理鏡とは文書の清書係である。勅令を呪術的な文字で書くことで強制力をもたせるという役職だ。官位はけっして高くないが、勅令を扱うということで、それなりの影響力を持つ。


「理鏡だと? じゃあ、あの女は地津神(ちづのかみ)か?」


 織音が理鏡と名乗ったことで、衛士達から驚きの声が上がり始める。その声の中には微量ではあるが確実に、織音に対する侮蔑の感情が含まれている。


「殺す……」

「ええ、やっちゃいましょ」


 織音に対する侮蔑の感情を感じ取った蓮夜と華耶は、さっきを放ちかけるがそれは織音により止められた。


「待って二人とも、この方達も常識では仕方ないわ」


 織音の言葉は決して懐の広さを示しているものではない。もとより暁賢の者達に期待していない故である。

 まったく期待していない以上、感情が波立つこともない。怒るという行為は相手への興味と期待から来るものである以上、期待していない織音とすれば怒りの感情はわいてこないのだ。


「あなた達と話しても仕方ないから単刀直入に言うわ。神帝に会わせなさい」

「な……」


 織音の言葉に衛士達は呆けた表情を浮かべた。織音の言葉の意味するところが理解出来ないわけではもちろんない。驚きのあまりに声が出せないのだ。


「ふざけるなよ!!」


 そこに怒りと侮蔑をはらんだ声が響き渡った。衛士達は一斉に声のした方向を見ると令貴夢伊切命(れきむいきりみこと)が怒りの表情を浮かべて現れた。


「貴様ごとき地津神風情が陛下にお目通りだと? しばらく見ない間にこの暁賢のしきたりを忘れたらしいな」


 令貴夢伊切命の登場に衛士達は侮蔑の視線を織音に向けた。


「これはこれは令貴夢伊切命ではありませんか」


 織音はすました顔で言う。声の端々に賢があるのはこの場にいる誰もが分かるくらいだ。


「佐鮴居詰命が私達のところに来たわ」


 織音の言葉に令貴夢伊切命は一切表情を変えない。しかし、周囲の衛士達の動揺は大きい。佐鮴居詰命が死んでいることを衛士達は知っており、織音の言葉により、誰によって殺害されたかがつながったのだ。


「佐鮴居詰命は私に跪けと言ったらしいのよ」

「それがどうした? 貴様らのような下等生物が陛下へ跪くのは当然のことであろう」

「まぁ、天津御神としては普通の反応よね」


 織音はそこで一端口を閉ざした。


「でも、それは私の大事な者を踏みにじる行為を許すものではないわ」

「なんだと?」


 怒りをあらわにする令貴夢伊切命とは対照的に織音は涼やかな微笑を浮かべて言う。


「ふふ、天津御神は他者を踏みにじらないと自分を保てない惨めな存在だから許されることの困難を知らないわよね」

「貴様」


 織音の言葉に令貴夢伊切命は殺気を放ち始めた。


(織音のやつ……煽るな)

(さすがはお姉様です!! 優しいだけのお方ではないのよ)


 織音の啖呵に蓮夜と華耶は、うんうんと内心頷いていた。


「まぁ、神帝には会わせないというのならそれならそれでいいわ。でも……きちんと意思表示はしておくべきよね」

「意思表示?」


 令貴夢伊切命の声に明らかな困惑が含まれた。織音はニヤリと嗤って口を開く。


「ええ、あなた達を殺すことで宣戦布告の意思表示を示してやるわ」



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