宣戦布告③
「令貴夢伊切命様!!」
駆け込んできた衛士に令貴夢伊切命はジロリと睨みつけた。
令貴夢伊切命の冷たい視線を受けた衛士は、自分が上位者である令貴夢伊切命に対しとんでもない無礼を働いた事に思い至ると恐怖に顔を引きつらせた。
「騒々しいな……どうした?」
令貴夢伊切命の言葉に衛士は胸をなで下ろした。令貴夢伊切命の期限が悪ければ衛士はこの時点で衛士の命はないことを知っていたのである。
この暁賢において上下関係は絶対的なものであり、上の身分のいかような言葉にも従わなければならないのである。
かつてその上下関係を否定する者達がいたという話であるが、その者達がどのような最後を迎えたかは知らされていない。
「はっ!! 佐鮴居詰命様が何者かに殺害されました」
「ほう……」
「そのため令貴夢伊切命様にご指示を仰ぎたく……」
衛士の言葉は尻すぼみに小さくなっていく。令貴夢伊切命の反応があまりにも静かであったからである。
「ふん……佐鮴居詰命め。あの程度の下級神ごときにやられるとはな……天津御神の面汚しが」
「……」
令貴夢伊切命の言葉に衛士は、無意識に喉を鳴らした。自分に向けられたものではないことは理解しているが、その余波で自分が八つ裂きにされるのではないかという恐怖を抱いたのである。
「佐鮴居詰命の死体はどこだ?」
「はっ!! 祇高殿の横でござます」
「そうか……」
令貴夢伊切命は静かに言うと立ち上がった。衛士は立ち上がった令貴夢伊切命に腰が砕けそうになるがぐっとこらえる。明らかに令貴夢伊切命は気分を害しているのが分かったからである。
「私は陛下にこのことを伝えてくる。ご苦労だった」
「はっ!!」
令貴夢伊切命の言葉に衛士はすぐに横に避けると一礼する。
令貴夢伊切命は衛士へ一瞥もくれることなく神帝の元に向かおうと歩き出したところでピタリと止まる。
(え?)
衛士は頭を下げたまま令貴夢伊切命が止まったことに戸惑う。
「これは……」
令貴夢伊切命の言葉に訝しがった衛士は、次の瞬間に令貴夢伊切命の言葉の意味を察したのだ。
(これは先ほどと……同じ)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
それは何者かが転移してくる予兆であった。