エネス②
「エネス様!!」
跪く四人に対して光から人の形へと姿を変えた存在は美の化身ともいうべき容姿を見せている。
金色の豪奢な髪に整った容姿、美の極致とも言うべきボディラインと全てにおいて完璧な美しさである。これほどの美貌を持っているエネスに対して欲望を持つ事すら恐れ多いという感想をもってしまうぐらいである。
「面を上げなさい。勇者ジーク、そして仲間達よ」
エネスの言葉に全員は顔を上げる。画家がこの場に居合わせたのならば宗教画の一枚として形に残そうと試みる事であろう。
「よくぞ、エルフェルクを斃してくれました。これでこの世界は闇に覆われることはないでしょう」
「はい、エネス様のご加護があったからこそ私達は成し遂げることが出来ました」
ジークの言葉にエネスは小さく首を横に振る。
「そうではありません。私は確かにあなた達に加護を与えましたがあなた達の平和を求める心が困難を成し遂げさせたのです」
「ありがとうございます」
「さぁ、私の力であなた達を送りましょう。すでにバルトライン王国にはあなた達の事を伝えてあります」
エネスの言葉にジーク達は頭を下げ礼を言う。
「「「「ありがとうございます」」」」
ジーク達の礼に対してエネスは顔を綻ばせて言う。
「いいのです。あなた達の苦労に少しでも報いさせてください。それからジーク、アルマ」
エネスはジークとアルマに声をかける。
「は、はい」
「ふぁい!!」
突然声をかけられた二人は戸惑いの声を上げる。
「結婚おめでとう。式では私自ら祝福に行きますよ」
エネスはこれ以上ない優しい笑顔を二人に向ける。親が子に向ける以上の優しさがその視線には含まれているようであった。
「え、はい!!」
「ふぇ!!」
エネスの言葉に二人は驚きの声を上げる。まさかエネスからそのような言葉が発せられるとは思ってもみなかったのである。その事を見たアーノスとシェリーは苦笑を浮かべる。
「ふふふ、アーノスとシェリーもです」
次いでエネスの発した言葉にアーノスとシェリーの動きが止まった。そして、ジークとアルマも驚いた表情で二人を見ると、アーノスとシェリーはすこし照れながら頷いた。
「二人ともそうだったのか!?」
「まぁね。この旅を初めてしばらくしてね」
「マジか……全然気付かなかった」
「まぁ、お前らは自分達の事に精一杯だったからな。あえて伝えるような事でも無いしな」
アーノスとシェリーはいけしゃあしゃあという感じで言うとジークとアルマはため息をついた。まったく気付かなかった自分の迂闊さを恥じているようであった。
「じゃあ、二人とも結婚するの?」
アルマの言葉にシェリーは嬉しそうに頷いた。
「うん、そのつもり。実はエルフェルクとの戦いの前にプロポーズを受けてたのよ」
「「ええ~~!!」」
シェリーの言葉にアーノスは余裕の表情をジーク達に向ける。
「俺はお前と違って機会を逃すような事はしないんでな」
「とほほ……」
アーノスの言葉にジークは肩を落とした。
「ふふふ、まだまだ修行が足りませんね」
エネスの言葉にジーク達四人は恐縮する。いかに魔王エルフェルクが斃れた気の緩みがあったとはいえエネスの前でするようなやり取りではない事に思い至ったのだ。
「も、申し訳ありません。エネス様の前でこのようなやりとりを……」
「ふふふ、大丈夫ですよ。微笑ましいものです。さて、これ以上待たせるのもバルトライン王国の皆に申し訳ないので送るとしますね」
「はい!!」
エネスはそう言うと魔法陣を展開した。
「さぁ行きなさい」
エネスは優しく言うとそのままジーク達四人は姿を消した。四人の姿が消えた後にエネスは先程までの優しげな雰囲気は完全に消え去り、逆に絶対零度を思わせるような冷たい雰囲気を発している。
「ふ……お前達はこれからも我が駒として働いてもらうぞ。そのためにエルフェルクと競わせたのだからな」
エネスは小さく嗤う。
「エネス様……」
そこに一人の男がエネスに声をかける。その姿は人間でも神のものではなく魔族のそれである。
「ガハン、次の一手任せるぞ」
「は……お任せ下さい」
ガハンと呼ばれた魔族はそのまま転移魔術を起動すると姿を消した。
「もう少しだ……貴様の力を必ず奪ってくれるぞ」
エネスは醜く顔を歪ませて天を睨みつけた。