佐鮴居詰命⑥
紅神は一言佐鮴居詰命に告げると斬鬼紅神の鋒を佐鮴居詰命へと向けた。
斬鬼紅神の鋒から文字が螺旋に回りながら現れると紅神の周囲を包み込んだ。
(なんだあれは?)
佐鮴居詰命は紅神を包む文字を見て目を細めた。魔方陣を描くという術式は佐鮴居詰命も見覚えがあるのだが、文字だけを描き出しそれを纏うというのは佐鮴居詰命の見たことのない術式であった。
紅神を包んでいた文字が少しずつ薄くなっていき十秒ほどですべての文字が消え去った。
「そんなに怯えるなよ。別のこの術でお前の命が消える訳じゃないんだからさ」
「なんだと?」
紅神の言葉に佐鮴居詰命は苛立たしげに返答する。紅神の声に含まれている絶対的な強者の雰囲気を佐鮴居詰命は察し不快感を刺激されたのだ。
「一応聞いておくが、いまさら織音に執着する理由はなんだ? もう俺たちとお前たちとの因果は断ち切れているはずだ」
「ふざけるな!! そのような事認められるはずはなかろう!!」
「ほう……つまり神帝はせっかく許してもらった事を感謝してないというわけか……」
紅神の言葉に佐鮴居詰命の眉が急角度で跳ね上がった。
「貴様らごとき賤しき者が神帝陛下を許すだと!! つけあがるな!!」
佐鮴居詰命は叫ぶと同時に紅神に向かって右掌を向けて一気に握りしめた。
(右腕から握りつぶしてくれる!!)
佐鮴居詰命は紅神の右腕を握りつぶそうという意図をもって右掌を握り混んだのだ。この絶神陣の中ではすべてが自分の意のままである。紅神の力は兄弟であることはわかっているが、それでもこの絶神陣が破れるとはどうしても佐鮴居詰命には思えない。
しかし……
「ぎゃああああああああああああああ!!」
叫び声をあげたのは佐鮴居詰命であった。自分の右腕があり得ない力でグシャグシャに潰れていたのだ。
(な、なぜ!? 俺の腕が潰れている!? 何がお子あったのだ!?)
佐鮴居詰命の内部では右腕が潰れた苦痛よりも混乱の極致にあった。しかし、紅神がなにかをしたのかは理解していた。先程の文字が関係しているのは明らかであったからだ。
「鈍いやつだな……」
紅神の呆れた声が佐鮴居詰命の耳に入る。佐鮴居詰命の視線を受けて紅神は涼しげな顔をして言う。
「お前の絶神陣だがな、さっき書き換えておいたぞ」




