佐鮴居詰命⑤
「絶神陣!!」
佐鮴居詰命が叫んだ瞬間に禍摘が粉々に砕け散ると欠片が光を放ちながら消えていく。
(ん?)
紅神が訝しんだ瞬間にぐにゃりと空間が歪んだ。歪みが戻った瞬間に紅神は先程までとは別の場所にいた。
「これは……異空間か」
紅神が小さく呟くと佐鮴居詰命はニヤリと嗤うと紅神に向けて言う。
「別に空間を操る事が出来るのは織音だけではないぞ」
「そりゃそうだろ」
佐鮴居詰命の言葉に紅神は当然とばかりに返答した。コレハ別に佐鮴居詰命を揶揄するためのものではなく本心からのものである。
「別に自分で異空間をつくるなんて大した事じゃないだろ。何を威張ってるんだ?」
紅神の言葉に佐鮴居詰命は不快気に顔を歪めた。
「そんな余裕はいつまでもつかな?」
佐鮴居詰命はそういうと不敵に笑った。すると紅神が斬り落とした右腕が再生すると紅神に得意気に手を開け閉めする様を見せつけた。それを見た紅神は驚きの表情を浮かべた。
「流石に驚いたようだな。この絶神陣は俺の作り出した異空間……言い換えれば俺の世界だ」
「つまり、この空間の中ならば何でも出来るという訳か?」
紅神の声に警戒が含まれた。その警戒を感じた佐鮴居詰命はさらに得意気になり顔を歪めて嗤う。
「そういう事だ。例えばこんな風にな!!」
ドゴォォォォォォォォ!!
佐鮴居詰命はニヤリと嗤った瞬間に紅神の周囲が突如大爆発した。
「なるほど……思い通りに攻撃が出来るということか」
紅神は周囲に防御陣を張り巡らせ爆発を防ぎきったのである。紅神が無傷である事に佐鮴居詰命はさほど落胆した様子はない。
「くくく、見直したぞ。小僧」
佐鮴居詰命の余裕の言葉であるが、紅神もまた怒りをまったく見せるような事はしない。
(何というか得意になれば口が軽くなると思ったが想像以上だな。まぁこの空間限定で無敵になれるという能力なら対処できないと思うのも仕方ないか)
紅神が驚いた表情や警戒したように見せたのはそのようにすれば調子に乗って自分の能力を話すと考えたからなのだが、予想以上に上手くいったのである。
「そりゃ……どうも!!」
紅神は斬鬼紅神を構えると同時に佐鮴居詰命に向かって斬りかかった。
キィィィィン!!
放たれた斬撃は佐鮴居詰命の前に突如現れた剣により受け止められた。
「残念だなぁ~」
佐鮴居詰命は嫌味な表情で嗤う。紅神はその表情を見た瞬間に佐鮴居詰命から距離をとった。一瞬前まで紅神の居た場所に剣が発生し斬撃が空を切っていた。
「ほう、よく躱したな~」
「まぁな。厄介な能力だとは思うが対処できないほどじゃない」
「確かにな。じゃあこれならどうだ?」
佐鮴居詰命の言葉と同時に紅神の周囲に数十本の剣が現れるとあらゆる角度、方向から斬撃が放たれる。
紅神は放たれた斬撃を最小の動きで躱しつつ、斬鬼紅神で斬撃を打ち払った。
ヒュン!!
斬撃を躱し続ける紅神の背後に回り込んだ佐鮴居詰命が手にした剣で紅神の背中を斬りつけた。この斬撃を躱しきれなかった紅神の背中から鮮血が舞った。
「よく躱したな!!」
佐鮴居詰命は嗤いながらさらなる斬撃を見舞ってきた。紅神はその斬撃を躱しつつ佐鮴居詰命へと斬撃を放ったが佐鮴居詰命の薄皮一枚を裂いたほどでしかなかった。
(ち……仕方ないな)
紅神は斬撃が躱されたのを見て、覚悟を決める事にした。その覚悟とは最小限度で躱していたのをやめ、致命傷を避ける程度に躱すことである。そうすればより早く斬撃が繰り出すことが出来ると考えたのである。
放たれた斬撃が紅神を斬ると鮮血が舞う。致命傷を避けるだけの最小限度の回避が身を結んだ。
ザクッ!!
紅神の斬撃が佐鮴居詰命の頬を斬り裂いたのだ。
「ほう……」
佐鮴居詰命は頬を斬り裂かれたが怒りを見せる事なく一旦間合いをとった。
「まさか斬撃の中に身を置くとはな」
「ま、これくらいは当然だろ」
佐鮴居詰命の言葉に紅神は何でもないような表情で返した。紅神の体についた傷口から血が流れていたが紅神の余裕は失われていない。
「この絶神陣というのは中々の術だな。異空間を作りその中で万能となれる……か。着眼点としては悪くない」
「何を言っている?」
紅神の論評に佐鮴居詰命は表情を歪めた。この空間にいる限り勝利は動かないはずなのに紅神の余裕が気になってしまう。
「やはり油断はいかんよな」
紅神はうんうんと頷くと佐鮴居詰命に視線を向けると余裕の表情で言う。
「それじゃあ、こちらも面白い術をみせてやろう」
紅神はニヤリと嗤って佐鮴居詰命へ言い放った。




