佐鮴居詰命③
一瞬で佐鮴居詰命は紅神の間合いに入り込むと禍摘を上段から一気に振り下ろした。
キィィィィィン!!
紅神の愛刀である斬鬼紅神が禍摘を受け止めると金属を打ち合わせた残響が周囲に長く響く。
「ほう……貴様如き下級神が我が剣を受け止めるとはな」
「そう驚くことじゃないさ」
紅神は力を一瞬で溜めると佐鮴居詰命の剣を弾き飛ばした。
佐鮴居詰命は一旦間合いをとると目を細め紅神を見やった。
「なるほど少しは出来るようになったと言う事か――」
佐鮴居詰命は言葉を言い終わる前に再び紅神の間合いに飛び込むと縦横無尽に斬撃を繰り出していく。
キキキキキキキキキッィン!!
紅神もまた斬鬼紅神を振るって禍摘の斬撃を受けると無数の火花が紅神と佐鮴居詰命の周囲に咲き誇った。
(斬撃の速度、鋭さ、力のどれをとっても一級品だな)
紅神は佐鮴居詰命と剣を交わしながら敵の力量を測っていた。今まで襲ってきた者達とは比べもにならないほどの実力を有して居るんは間違い。
(外の連中はやはり強いということか……)
キィィィィン!!
両者は数十合の剣戟を交わすと一旦距離をとった。
「少し認識を改める必要があるな」
「認識?」
「貴様の実力の事だ」
「それであんたの見立ては?」
「そうだな。赫佐官程度は務まる強さであろうな」
佐鮴居詰命の言葉に紅神は失望を隠しきれない表情を浮かべた。
佐鮴居詰命の述べた赫佐官というのは、将軍の補佐官のことである。無論、佐鮴居詰命の世界では高官であり、一般の兵士から見れば雲の上の存在である。だが、佐鮴居詰命は紅神がいかに実力をつけようがそれは自分をそして神帝を超えるものではないと言うことを言っているのだ。
「これだから耄碌したジジイは困る」
紅神の毒の籠もった言葉に佐鮴居詰命はヒクリと片頬を上げた。
「あんな小手調べで俺の実力を見抜いたつもりか? 悪いが俺はまだまだ様子見をしている段階だぞ――」
今度は紅神が動く。紅神は佐鮴居詰命の背後をとるとそのまま斬鬼紅神を一気に振り下ろした。
キィィィィン!!
「甘いな!!」
紅神の斬撃を受け止めた佐鮴居詰命は犬歯をむき出しにして叫んだ。偉そうな事を言っておいても実際に紅神の実力は自分を上回るものでは無い事に嗤ったのである。
しかし――
「な、なんだと!?」
佐鮴居詰命は紅神の斬撃の重さに耐えかねたように下方に向かって弾き飛ばされてしまった。十メートルほど下に弾き飛ばされた所で止まると驚きの表情を佐鮴居詰命は浮かべた。
「自分の立ち位置を理解したか?」
紅神の冷たい言葉が佐鮴居詰命の耳に響いた。