魔帝⑦
今回の戦いはルガート視点でやってみようと思っています。
「よし……行くぞ」
「ああ」
ルガートの言葉にアリアスは力の籠もった言葉で返す。今日は紅神との決闘の当日である。
闘技場の控え室で時間を迎えたルガートとアリアスは互いに頷き合うと立ち上がった。ルガートとアリアスはそのまま会場に向かって歩き出した。
ルガートの服装は黒を基調とした平服である。甲冑の類は一切身につけていない。ルガートの記憶にある紅神の斬撃は自分達の世界の甲冑など紙よりもたやすく斬り裂く事をしっているために防具として用を為さないと思っての事である。もちろん、魔術による術式を施しており並の甲冑よりも遥かに防御力は高いがそれでも継走であるのは間違いない。
背負う長剣は“魔剣ダグラム”。ルガートの世界にある超金属“エリクディオ”によって打たれたルガートの愛剣である。
対してアリアスの服装は一般的な魔術師のものとは大分異なっている。アリアスが自分で術式をかけた黒の豪奢なローブである。手には一本の錫杖が握られている。
会場に入るまでの通路に入ると建物の構造上、外の光が入らないために途端に暗くなる。その先に光が見える。このトンネルを抜けた所に紅神と戦うのだ。それを思うとルガートの胸は痛いほどに音を立てていた。
ルガートとアリアスは暗いトンネルを抜けて明るい場所に出るとそこにはすでに紅神が立っていた。
「来たな」
紅神はルガートとアリアスを見ると不敵に笑う。ルガートは紅神から意識を外すことなく周囲にさりげなく意識を向けた。観客席には織音と華耶が座っているのがわかった。
「遅れて申し訳ありません」
ルガートは紅神に向けて謝罪する。
(……やはり、罠は解除されてるな)
ルガートは顔を上げると紅神を見る。ルガートが紅神に謝罪したのは極自然に地面を見るためである。
「気にしないで良いよ。確認は済んだみたいだな」
「……何の事でしょう?」
紅神は微笑みながらルガートに返答する。紅神の言葉はルガートの意図を察した事を示している。
(まさか、簡単に見破られるなんてな)
ルガートとすれば顔を引きつるのをかろうじて堪えるがわずかの動揺が返答をやや不自然なものにしていた。
「さて、ルールの確認なんだが」
「はい」
「お互いに何をしても構わない。ただし織音へ危害を加えるようなことだけは認めない」
「「もちろんです」」
ルガートとアリアスは即座に返答する。だが心の中でルガートとアリアスは『いや、絶対無理だろ』とツッコミを入れていた。
織音の側にいる華耶が織音を守る結界を三重に張っているからである。華耶が織音を守る結界を三重にしているのはルガートとアリアスの攻撃に対処したものでは無い事は二人とも気づいていた。華耶の結界は確実に紅神の攻撃に対処するためのものなのだ。
「決着は戦闘不能、降参の二種類だ。異論はないかな?」
「「はい!!」」
紅神の確認事項にルガートとアリアスはまたも即座に頷いた。その辺りの事に不満は一切無い。
「それでは始めようか。織音」
「任せて」
紅神が織音に声をかけると闘技場の真上に一つの珠が現れた。
「この珠があと九十秒で破裂するからそうしたら試合開始ね」
織音の言葉にルガートとアリアスは紅神から間合いをとるために後ろに跳び距離をとった。単なる気休めと言えるかも知れないが、紅神の間合いの中で待つほどルガートとアリアスの神経は図太いわけではない。
ルガートとアリアスはそれぞれ武器を構えて試合開始の時間を待つ。
(頼むぞ)
(まかせろ)
ルガートがさりげなくアリアスに念話をおくると即座に返答があった。ルガートとアリアスは準備として念話の術式を施した腕輪をしていたのである。
ピシ……
中央に浮かんだ珠にヒビが入る。
パァァァァァァン!!
中央の珠が破裂して破片が地面に落ちそうになった瞬間にルガートとアリアスの姿が消えた。




