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エネス①

「これでとどめだぁぁぁぁぁ!!」


 十代後半と思われる少年が構えた剣に魔力を込めて巨大な怪物に振り下ろした。少年の斬撃は怪物の防御陣を斬り裂き怪物の心臓を貫いた。


「ぐ……はぁ……」


 心臓を貫かれた怪物は蹌踉(よろ)けると壁に手をつき憎々しげに少年を睨みつける。


「おのれ……エネスの駒如きが……よくも……」


 怪物の言葉に少年は不快気な表情を浮かべる。


「エネス様への侮辱は許さんぞ」

「ふ……哀れな駒よ……予言しよう。我が死んだところで平和が訪れることなど決して無い」


 怪物の言葉に少年は何をバカなという表情を浮かべる。


「納得はしておらぬようだの……だが……事実だ。貴様らは我さえ死ねば平和が来ると言われているのだろうが、何の根拠もない世迷い言よ」

「魔王であるお前が死ねば平和が来るとエネス様が仰られたのだ!!」

「ふははは!! そのような世迷い言を頭から信じるなど……哀れよな」

「なにぃ!!」

「我らは所詮……エネスの駒に過ぎぬ……」

「我ら?」

「ふ……今に分かる。お前は……ぐ……ふ」


 魔王と呼ばれた怪物はついに力尽きその場に倒れ込んだ。


「我ら……どういうことだ?」


 少年は魔王が我らという言葉が妙に気にかかっていた。


「ジーク!!」


 ジークと呼ばれた少年は振り返るとそこには金髪の見目麗しい少女が駆けてくるのが見えた。少女の耳は尖っておりエルフの肉体的特徴が現れている。


「アルマ……」

「ついにエルフェルクを斃したのね!!」

「あ、ああ……」


 アルマの言葉にジークの声は沈んだものである。その事にアルマは気付くと訝しげな視線をジークへと向ける。


「どうしたの?」

「エルフェルクが最後に“我らはエネス様の駒に過ぎない”と言っていたんだ」

「我ら?」

「ああ、俺達とエルフェルクが立場的に同じような言い方だった」

「どういうこと?」

「わからない……今際の際の俺への意趣返しかも知れない……だが妙に気にかかるんだ」


 ジークの言葉にアルマは少し考え込むがニコリとジークに笑いかける。


「考えてもわからないわ。でもあなたはエルフェルクを斃した英雄なんだからその事を誇ってちょうだい」


 アルマの言葉にジークは顔を綻ばせる。アルマの言葉は単純であるし解決に至るものではないのだが、それがアルマなりの優しさである事にジークは気付いておりその心遣いにジークは嬉しくなったのだ。


(アルマはいつも俺を癒やしてくれる……ありがとう)


 ジークは心の中でアルマに礼を言う。


「さ、行きましょう♪ シェリーとアーノスもあなたを待っているわよ」

「ああそうだな」


 アルマに手を引かれジークは顔を綻ばせながら一歩進みでようとした所で立ち止まった。すっかり歩き出すと思っていたアルマは後ろに手を引かれる事でこけそうになる。いきなり立ち止まったジークに対してアルマが抗議を行う。


「もう!! どうしたのよジーク」


 アルマの抗議しつつジークの顔を見ると妙に緊張している表情を浮かべているのがわかった。


「アルマ……エルフェルクを斃したら言うつもりだったんだ。聞いて欲しいことがある」

「え……?」


 真剣なジークの表情にアルマはゴクリと喉をならした。


「好きだ……アルマ、俺と結婚して欲しい」


 ジークの言葉を聞いたアルマはジークの言葉の意味を瞬時に理解できなかった。いや、理解した故に思考が完全に停止してしまったのだ。

 やがて、思考停止の状態から回復してからアルマは顔を真っ赤に染めてうつむいてしまう。


「アルマ……あの……その……」


 顔を赤くしてうつむくアルマにジークは狼狽えるとしどろもどろになった。


「……遅い」

「え?」

「遅いわよ。どうしてもっと早く言ってくれないの?」


 顔を赤くしながらアルマは拗ねた様にジークに言う。


「だって、こんどの戦いで生きて帰れるかどうか分からなかったし……」

「私ずっと待ってたんだからね」

「ごめん……」


 ジークが謝ったところでアルマがニッコリと笑う。ジークにはアルマの笑顔がこれ以上なく輝いて見える。


「ジーク、私もあなたが好き」

「そ、それじゃあ」

「察してよ、……バカ」


 アルマは再び顔を赤くしてふいと横を向いた。ジークは心の中に安堵とそして何よりも幸せの感情が沸き上がってくると気付くとアルマを抱きしめていた。


「アルマ……」

「ジーク……」


 二人は視線を絡め自然と互いの名を呼びながら自然と両者の距離が近付いていく。お互いの唇が触れそうになった時、コツンという音が響き、二人は慌てて音のした方向を見るとそこには二人の仲間がいた。仲間の姿を見たジークとアルマは硬直してしまう。


「え~と……そのすまん」


 二十代後半の男が気まずそうに頭をかきながら二人に謝ると隣の二十代半ばの女性が責めるような目を男にむけつつ言う。


「アーノスなにやってるのよ。これからが良いところだったのに」

「いや……本当にすまん」


 二人の言葉にジークとアルマは凍ったまま顔を引きつらせている。


「あ……アーノス、シェリー……いつから?」


 ジークはようやくこの言葉を絞り出した。


「ああ、アルマが俺達の元に向かおうとした時にジークが手を引いて止めた辺りからかな」「私も大体そんなところね」

「「ほぼ最初からじゃない(か)!!」」


 アーノスとシェリーの言葉にジークとアルマはほぼ同時に叫んだ。


「もうやだ~~~」


 アルマはそう言うと顔を両手で覆って蹲ってしまった。それを見てアーノスとシェリーは苦笑する。


「ま、これも若さってやつだからあんまり気にするな」


 アーノスの言葉にアルマはさらに顔を赤くする。


「それにしてもようやくあんた達くっついたわね♪」


 シェリーが嬉しそうに言うとアーノスもまた嬉しそうに頷く。年長者である二人は若い二人がいつくっつくかと気にしていたのだ。楽しんでいたと言っても過言ではないのだがその事は触れないでおいておく。


「あ、まぁ……そういう事になった」

「おめでとう♪」

「あ、ありがとう」


 シェリーの言葉にジークは素直に返答する。


「ジーク、あんたなんでそんなに冷静なのよ。アーノスとシェリーに見られたちゃったのよ!!」


 ショックから立ち直ったアルマがジークに抗議を行うがジークは少々困った表情を浮かべる。


「まぁそれは……いつか分かることだし」

「う……それはそうだけど」

「そうそう、そんなに神経質にならなくても大丈夫よ」

「もう……知らない」


 アルマはぷいとそっぽを向くと仲間達は顔を綻ばせた。その時である空から光が差し込めてきた。差し込めた光はやがて人の形へとなっていく


「エネス様!!」


 ジークがそう言うと四人は一斉に跪いた。

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