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魔帝③

「う~ん、朗らかな日だな。といっても天気は変わらないんだがな」


 天瑞宮の外縁のリングをテクテクと歩きながら紅神は伸びをする。織音の力によって天瑞宮の存在する世界は完璧な気候により限りなく過ごしやすい気候が保たれているのだ。


「蓮夜~」


 そこに紅神の本名である蓮夜の名を呼び声に紅神が振り返ると織音が走ってくるのが見えた。ちなみに華耶も織音の二、三歩後ろを走っている。織音が走ってくる以上、紅神とすれば待つのは当然である。

 織音と華耶はそれから十を数えるまでもなく紅神の前に到着する。その息は一切乱れていない。

 織音の見かけはお淑やかなお嬢様そのものであるのだが、実は活発な少女であるのだ。


「どうしたんだ?」


 紅神の問いかけに織音はぷ~と頬を膨らませて言う。


「何って蓮夜と見回りをしたいと思って追ってきたんじゃない」

「いや、普通に考えてお前が見回りなんておかしいだろ。華耶も止めろよ」


 紅神の言葉に華耶はいけしゃあしゃあと称するに相応しい口調で返答する。


「何言ってるのよ。私はお姉様の側にいるだけで幸せなんだから止める理由なんてないわよ。走るお姉様を間近で見られてとっても幸せだったわ。じゅるり」

「お前……道を踏み外すなよ?」

「ふ、甘いわね。お姉様の行くところ、呪神である華耶が必ずいるのよ。道を踏み外すなんてあり得ないわ」


 華耶の言葉に紅神は小さくため息を吐いた。織音大好きな華耶の言動がこの頃少々おかしな事になりつつあるように紅神には思えてならないのだ。


「あのさ、お前の言動は最近なんか変態親父みたいになってるぞ」


 紅神のあまりと言えばあまりの評価に華耶はヒクリと頬をひくつかせた。


「ほう……良い度胸ね? この可憐な美少女である私をつかまえて変態親父とは中々挑発的な評価を下してくれるじゃない」

「いや、当たり前だろ。お前、織音を見て涎を垂らすなんてどう考えても変態以外の何者でもないじゃないか」

「どうやらあんたとは一度きちんと話し合う必要があるみたいね」

「おいおい、話し合いと言っておきながらなんでそんな凄まじい魔力を放ちだしたんだ?」


 紅神が呆れた声で華耶に告げると華耶はニヤリと嗤った。殺気が込められていない以上華耶に紅神を殺すつもりは皆無なのは理解しているのだが、それでも油断するような相手ではない。


「もう二人とも私を無視しないでよ」


 そこに織音が拗ねた様な声を出すと紅神と華耶の間にあった僅かの緊張感はあっさりと霧散する。


「すまん、すまん。そんなつもりはないんだ」

「お姉様ごめんなさい。蓮夜が私の事を変態親父なんていうからつい……」

「あ、お前汚いぞ。織音を味方につけるためにそんな表現を使うなんて!!」

「ふふふ。お姉様の合力があればおそれるものなんてないのよ」


 華耶の言い訳に紅神がぐぬぬという表情を浮かべた。


「確かに蓮夜の言葉に言い過ぎのところがあったのは確かね」

「うっ」

「やっぱりちゃんと謝らないとね♪」


 織音の言葉に紅神はがっくりと項垂れた。なんだかんだ言っても紅神は織音と華耶に弱いのは事実であったのだ。


「……すまんな。華耶、言い過ぎた」


 紅神の言葉に華耶はニンマリと笑った。


「謝罪を受け入れるわ。さぁて、蓮夜はお詫びとしてお姉様と腕を組みなさい」


 華耶の言葉に紅神は明らかに狼狽した。話の流れが明らかに可笑しいという思わざるを得ないのだ。


「どうしてそうなる?」

「決まってるじゃない。あんたが過ちに気付けたのはお姉様のおかげよ。そのお姉様の何の恩恵もないのではあんまりじゃない」

「いや、その理屈はおかしいだろ」

「おかしくないわ。私へのわびとしてお姉様とあんたが腕を組めばお姉様は私を褒めてくださるのよ。そうですよねお姉様?」


 華耶がややオーバーな身振りで織音に向かって言うと織音は親指を立ててものすごい良い笑顔で頷いた。


「あんた、お姉様のこの笑顔を曇らせるつもり?」

「わかったよ……織音」


 紅神がやや恥ずかしそうに腕を突き出すと織音は嬉しそうに紅神の腕にしがみついた。その表情はもうニッコニコという表現そのものである。


「華耶、ありがとう!! こっち来て♪」


 織音が華耶を呼ぶと華耶はニコニコとしながら織音に近付いていく。その様子は子犬がじゃれついてくる様子そのものである。


「えい♪」


 織音は華耶の腕に自分の腕を絡めると輝くような笑顔を華耶に向ける。


「お姉様~ぐへへ♪」


 華耶は嬉しそうに織音に抱きつくと幸せそうなと言うよりも残念な声を上げながら幸せそうな表情を浮かべている。


「はぁ……それじゃあいくぞ二人とも」

「は~い♪」

「ぐへへ~♪」


 紅神の呆れたような声かけであったが幸せの中にどっぷりとつかっている織音と華耶には、紅神の呆れの感情など大した事ではないのだろう。


 三人はそのまま外縁のリングの見回りを続けていき、半周を回った所で紅神、華耶が立ち止まった。


「どうしたの? ……って誰かしら?」


 一拍後れて織音も二人が立ち止まった理由を察したようである。これは織音よりも紅神、華耶の方が単純に実力が上というわけではなく、守る側と守られる側の意識の差である。


「織音、後ろに……華耶は織音を」

「わかったわ。蓮夜気を付けてね」

「任せなさい」


 紅神の指示に織音と華耶が素直に従い散歩ほど後ろに下がった。それと同時に華耶が織音の周囲に結界を張り巡らせる。

 華耶の張った結界は次元の壁を寸断したものであり、たとえ核爆発であっても破る事は出来ない。

 やや過保護的な処置と言えるだろうがどのような相手が現れるか分からない以上、華耶としては当然の処置である。


 ガシャアアアアアアアン!!


 天瑞宮の遥か下で結界の砕ける音が鳴り響いた。



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