魔帝①
久しぶりの投稿となります。
豪奢な室内に設置されている長大なテーブルに十人の男達が会議を行っていた。出席者達は室内同様に豪奢な衣服を身に纏っておりこれだけで出席者達の身分の高さというものがわかるというものだ。
そして最も上座に座る若い男が口を開く。
「つまらぬな……」
男の声は小さかったが優位に与えた影響は凄まじいものがあった。意見を交わし合っていた者達は全員が背中に氷水を流し込まれたかのように身を震わせ沈黙する。
声の主は“ルガート=フォルトス=バーレンガム”……。
百の国を滅ぼし、千を超える種族を蹂躙し、億を超える命を奪ってきた恐るべき男である。
ルガートの年齢はゆうに千を超える。褐色の肌、流れるような銀髪、そして尖った耳という身体的特徴が彼を長命種族であるエルフ、いやダークエルフである事を示していた。
ルガードは美しい容姿をしていた。切れ長の目、高い鼻、美しい形の唇が絶妙の配置を持って怜悧な輪郭の上に乗っているのだ。放たれる威圧感がいかに凄まじくともその美しさは見る者の心を掴んで離さないのだ。
「どこかに反乱の芽でも芽吹かぬものかな」
ルガートの言葉には感情の起伏というものは感じられない。だがそれ故にその言葉を聞く廷臣達は体の震えを留めることが出来ない。
絶対的な支配者であるルガートの機嫌一つ、いや気まぐれで一族どころか種族ごと絶滅させることも大過なくやってのけるのだ。それも権力を使う事無く個人的な武勇によってである。
「陛下、ご冗談を……」
ルガートの言葉にかろうじて返答するのは、竜人の将軍であるレギス=ドゥール=バイファムである。
勇猛果敢な将軍であり彼の配下にある竜人で構成された覇竜騎士団は桁違いの戦力を誇っている。
「ふ、レギスよ。お主が反乱でも起こしてくれれば余はこの退屈な時間を少しは忘れることが出来るのだがな」
ルガートの言葉にレギスの前身から粘度の高い汗が噴き出してきた。もちろんレギスにルガートへの叛意など微塵もない。いかに覇竜騎士団を持ってルガートに戦いを挑んでも1時間も経たずに壊滅することは理解していたのだ。
いや、覇竜騎士団どころかこの世界のありとあらゆる戦力を結集したところでルガートに勝つ事など到底不可能である。
「お許しください。陛下への叛意など微塵もございませんし、そもそも戦いにすらなりませぬ」
レギスはその場に跪きルガートに慈悲を求める。その姿は限りなく卑屈に見えるが周囲の廷臣達は誰も笑わない。むしろ全員が自分に飛び火するのを恐れているようであった。
「ふ、冗談だ。本気にするな」
ルガートは小さく笑う。その声を聞いた時にレギスは再び汗を噴き出した。今度の汗は安堵の為のものである。
コンコン……
そこに扉を叩く音が響いた。すると出席者達は全員が戦慄する。現在はルガートが臨席するいわゆる御前会議の真っ最中であり中断を促すような事が起きるとすればそれだけの重大時を意味しているからだ。
「入れ」
ルガートは静かに告げるとすぐさま衛兵が扉を開けた。扉を開けた先には文官服に身を包んだ男が緊張の面持ちで立っておりすぐさま頭を下げた。
「失礼いたします」
頭を上げた男は緊張を多分に含んだ声でそう告げると会議室に歩を進める。そして長大なテーブルの端に立つと再び一礼して言った。
「会議中に申し訳ございません。フィルガウト卿が陛下にお目通りを願っております。御前会議である事をお伝えしたのですが火急であるとの事でしたので……」
文官が言葉を途中で止めたのはルガートが片手を掲げたためである。ルガートの制止を振りきって話をすれば自分や家族だけでなく人間という種族が滅ぼされかねない。
「アリアスならば仕方ないな。良い皆の者、会議はここまでだ。今回の議題についてはそれぞれの裁量において好きにせよ」
「ははぁ」
ルガートの言葉に全員が一礼する。反対意見は只の一つも無い。ルガートに反対意見を言おうものならばどのような制裁を受けるかわからないという思いからである。
「それではアリアスを通せ、他の者は退出せよ」
「はっ!!」
命令を受けた文官はすぐに一礼して会議室を出て行く。
「やっとか……」
誰もいない会議室でルガートは独りごちた。




