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呪神③

 凄まじい威圧感を放ちつつ華耶は一歩進み出た。華耶と天使の距離は一歩分縮まったに過ぎないだが、天使達の受けた威圧感はとてもそんなものではなかった。


(な……なんだ……こいつは)


 天使達は華耶に対して得体の知れぬ恐怖を感じていた。自分達の創造主であるレムンゼルからでさえこれほどの威圧感を受けた事はない。


「あら? 少し威圧しただけで怖じ気づいたのかしら、あんた達の尊大さなんて所詮はその程度よね。強い者にはどこまでも弱く、弱い者に対してはどこまでも強く……強者から最もかけ離れた存在ね」


 華耶の言葉は辛辣さを増していく。だが、天使達にはその言葉に抗うどころか怒りの感情すら発する事が出来ない。それほどまでに華耶が放つ威圧感が凄まじいものであるのだ。


「言っておくけどあんた達を生かして返すつもりはないから命乞いなんて無駄な行為は止めなさい」


 華耶はそう言うと右手を天使達に向けた。その瞬間に天使達はゾワリとした戦慄を感じると散開した。


「ギィィイヤァァァァァ!!」


 しかし一体の天使が絶叫を放った。絶叫を放った天使の右半身が消滅(・・)していたのだ。天使の傷口から血が噴き出し、それが他の天使達に現実を突きつける形となったのだ。


「うるさいわね」


 華耶は右手をかざすと右半身を消しとばされた天使の体がねじ曲がり始める。


「ヒィィィィ!!」


 天使の口から恐怖の叫びが発せられ始めた自分の身に起こっていることは現実であり、そしてそこから逃れることは出来ないという確かな確信が天使にはあったのだ。


 ギョギィィィ!!


 ついに天使の体から異音が発せられ始める。骨が砕ける音を聞いたことは天使達も何度もあるだろうがねじ切られる音というのを聞いたのは初めての経験であった。他の天使達は呆然と仲間が苦しんでいく姿を眺めている。


「た、たしゅ……」


 天使の言葉はもはや先程までの傲岸不遜なものではない。ただ絶対的な強者に惨めに命乞いをする弱者でしかない。

 しかし、華耶は天使の命乞いに一切関心を示すことなくかざし右手を握りしめた。すると天使は踏みつぶされた虫のようにぐしゃりと潰れてしまう。 


「ふん……」


 華耶は冷たく吐き捨てると左指から小さな火球を放った。それは小さな火球であったが潰され肉塊となった天使に触れた瞬間に凄まじい炎を上げると天使の肉塊はほぼ一瞬で消し炭と化しボロボロと塵となった。


 周囲にいた天使達のうち肉塊となった天使の近くにいた者の翼は焼け焦げ、皮膚は酷い火傷を負っている。

 もちろん天使達ともなれば常に防御結界を張り巡らせているため生半可な術では傷一つ追わせることは出来ない。しかし、華耶の放った火球はその余波で天使達の翼、皮膚を灼いたのだ。


「ひ……」


 余波でダメージを与えられた天使は明らかに恐慌をきたしている。目の前の美しい少女が自分達など遥かに及ばない強者である事を実感したのだ。


 天使達は歯が鳴るのを抑えることは出来ない。今まで神の使徒として強大な悪魔達とも戦ってきた。それどころか魔王と呼ばれる者達とすら戦った事があるが、ここまでの力の差を感じた事はない。


 翼を灼かれた天使の背後の空間が割れるとそこから巨大な手が現れ天使をむんずと掴んだ。


「ひ……」


 天使は自分が捕まった事を悟ると短く恐怖の叫びを発した。自分が何をされているのか、何に捕まっているのかは天使は理解していないだろう。だが、自分がこれから嬲り殺される事だけは理解していた。


「アルジェル……たしゅけ」


 捕まった天使は救いの手を仲間の天使に伸ばすが天使には動きがない。あまりにも恐ろしい光景に体が動かないのだ。助けが来ないことに対して捕まった天使は絶望の表情を浮かべながら空間に引き釣り込まれていった。

 天使が引きずり込まれていった後に空間はすぐに修復されてしまい。もはや捕まった天使を助ける事は出来ないのは事実であった。いや、たとえ空間の修復が終わっていなくても助ける事は出来ないのは確実であった。


「あんた達って想像以上にクズね。我が身可愛さに仲間が助けを求めているにもかかわらず見捨てるなんてね」


 華耶の言葉に天使達は沈黙する。実際の所は恐怖のために動けなかったのだ、神の使徒である自分達が恐怖に動けずに仲間を見捨てたなど口が裂けても言えるわけはない。


「黙れ!!」


 最初に華耶達を侮辱した天使が叫ぶ。天使から発せられた威圧感は並のものであればそれだけで威に打たれるというべきものであろうが華耶はまったく気にしない。華耶よりも遥かに実力の劣る者が凄んだところで恐怖など感じるはずはない。


「一斉にやるぞ!!」

「「「ああ!!」」」


 天使の命令に他の天使達は同調する。凄まじいエネルギーが天使達に集まっていく。集まったエネルギーは華耶に放たれようとしているのは明らかであるが華耶はまったく動じていない。


(あの程度……避けるまでもないけど位置的にお姉様に向けて放つ事になるわね……どこまでも巫山戯た連中ね……)


 華耶は自分の中の怒りが増していくのを感じている。


「うるさいわね……」


 華耶はもはや容赦をするつもりは微塵もない。右手を天使達にかざした瞬間に華耶の右手から数条の光が放たれそれぞれ天使達を貫いた。


「が……はぁ……」

「ぐ……」


 胸、腹をそれぞれ貫かれた天使達の口から苦痛の声と血が溢れ出した。華耶はさらに数条の光を放つ。またもその数条の光は天使達を貫いた。


「が……」


 華耶はそのまま連続して光を放ち続けるその度に天使達を光が刺し貫いていく。凄まじい苦痛が間断なく発し、天使達は少しずつ削れれていく。


(は、反撃できない……防げない……け、削られていく……たしゅ、たしゅけ……)


 天使は少しずつ自らの体が削られていく状況に恐怖が一瞬毎に増していく。しかし、もはやどうすることも出来ない事を察していた。


(レ、レムン……ゼル……さ…ま……何故……お救いにな……ってくれないのです)


 華耶の光に削られていった天使の脳裏に最後にあったのは神への怨み節であった。それすらも削られていき天使達の思考も消えていった。。

 一分後に光を放つのを止めた華耶の眼前にはすでに天使達の姿はない。


「お姉様に跪け? この程度の攻撃で消える程度の雑魚が何を言ってるのかしらね」


 華耶の心からの侮蔑の言葉が発せられた時に何者かが転移してきた。しかし華耶はそれが何者か理解しているので別に警戒もしない。


「あれ? もう終わってたのか」


 転移してきたのはもちろん紅神である。紅神の手には一つの首が握られている。三十代半ばの威風堂々とした男性の首であるが既に絶命しており目から光が失われている。見るも無惨な姿であった。


「遅かったわね。そいつがあの無礼者共の飼い主?」


 華耶が尋ねると紅神は頷く。


「ああ、偉そうにしてたやつだったけど大した事なかったな。というよりも弱かったぞ」

「えらく時間かかったわね」

「まぁな前口上が長くてな。自分がどれだけ偉大かを語り出したんで面倒くさくなったから斬り殺した」

「はぁ……結局揃いも揃って口だけね」

「とりあえずこの首どうする?」


 紅神は華耶にレムンゼルの首を見せるが華耶は別段動じた様子はない。


「う~ん……利用価値が思いつかないから捨てちゃいなさいよ」


 華耶はまったく興味がない声で言うと紅神もそうだなと呟くとポイとレムンゼルの首を放り投げると首を黒い炎が覆った。黒い炎に灼かれた首はそのまま消し炭となり塵となって消えてしまう。


「もう少し早く首を持って帰ればあの無礼者共を絶望に叩き落としてあげたのに」


 華耶は残念そうな声でそういうと紅神は苦笑する。どう考えても天使達はとっくに絶望に叩き落とされていたことだろう。


「何よ?」


 紅神の苦笑に対して華耶は口を尖らせる。この辺りの仕草は容姿に応じたものである。


「いや、別に何でもないよ」

「ふん」


 紅神はまたも苦笑しながら華耶と共に天瑞宮へと戻っていった。

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