鉄騎兵団:エピローグ
「それで終わらしたというわけね」
華耶が不機嫌を前面に押し出して紅神に言うと紅神は頷く。ちなみに紅神に悪びれた様子は一切無い。
「ああ、何か面倒になってきてな」
「あんたねぇ……ひょっとしたらあんたが始末した所が全部とは限らないでしょう」
「まぁその可能性は十分に理解してけどな」
「けど何よ?」
紅神に向かって華耶は厳しい視線を投げ掛ける。
「本体が残っている可能性を完全に払拭するには星自体を破壊するしか無い。それは面倒なんてレベルじゃ無いだろ」
「それは……確かにそうだけど」
紅神の返答に華耶は口ごもる。紅神の言葉に一理あることは認めざるを得ない。
「もし、奴等がまた来るようなら始末するさ。その時は俺だけでなく華耶も手伝ってもらうよ」
紅神はニヤリと嗤って言う。華耶はその表情から紅神が二度目のチャンスを与えるつもりは一切無い事を悟った。もし、あの機械連中がやってくればその時こそ彼らの星は消滅することになるだろう。
「まぁ良いわ。とりあえず、お姉様の所に行きましょう。あの約束を守ってもらうわよ」
「ああ、任せろ」
「よし、これでお姉様に褒めてもらえるわ」
華耶は嬉しそうに微笑む。織音に褒めてもらえることを至上の喜びである華耶にとって何物にも代えがたい報酬であった。
「ああ、任せろ」
紅神は苦笑を堪えつつ華耶に返答する。
(織音は華耶を溺愛してるからな。少し言うだけで褒めるんだよな)
紅神は心の中でそう思う。実際の所、華耶を褒めるように仕向けることなど簡単すぎるのである。
紅神と華耶は織音の私室の前辿り着くと外にいる女官に来室を告げると厳かに一礼すると扉を開ける。紅神と華耶相手には織音はいつ来ても良いとしているため女官は織音に尋ねるような事はしない。
「ありがとう」
「ありがとう」
紅神と華耶は扉を開けた女官に礼を言う。この辺り完全上位者の紅神と華耶は妙に小市民的と言うところである。
「いらっしゃい♪」
織音がにこやかに微笑みながら紅神と華耶を迎え入れる。すでにテーブルの上にはお茶と茶菓子の用意がしている。
緑茶と最中という組み合わせである。織音が創造した世界とは別の世界にある何とかという星の何とかという国のお菓子である。織音のお気に入りであるのだ。
「ああ、お邪魔するよ」
「お姉様、こんにちは~♪」
紅神と華耶は織音ににこやかに声をかけつつ着席する。織音の隣には華耶が座り、紅神は織音の前である。お茶と最中の配置は初めからそうなっておりいつもの席の配置であった。
「二人とも今回もありがとう」
織音が二人に微笑みつつ礼を言う。もちろん紅神と華耶は織音が何について礼を言っているのかを察している。間違いなく機械の兵士達を蹴散らした件だろう。
「ああ、一体一体は正直大した事の無い連中だったが、複数の拠点に転移した来た事ははっきり言って厄介だったが華耶が頑張ってくれたようだ」
紅神の言葉に織音は嬉しそうに目を細めつつ微笑んだ。その微笑みを見て華耶が嬉しそうな表情を浮かべる。
「お姉様、私がんばりました!!」
華耶の直接的な言葉に織音は頷くと手を伸ばし、華耶の頭を撫でる。すると華耶は撫でられた猫のような仕草をする。
「ぐへへ~お姉様、お願いがあるんです」
「あら? ひょっとしていつもの?」
「はい!!」
華耶は即答する。華耶の返答に織音は苦笑しつつ楊枝で最中を一口大に切ると楊枝に刺して華耶に差し出す。
「はい、華耶……あ~ん」
「ぐへへ~あ~ん」
華耶は嬉しそうに……というよりも残念な笑い声を上げながら差し出された最中を啄んだ。容姿の優れている織音と華耶の触れ合いは見る者を悶えさせるようなものなのだが、華耶の“ぐへへ”という残念な笑い声が全てを台無しにしている。
「ぐへへ、幸せだわ~♪」
華耶は崇拝する織音からのご褒美にすっかりご満悦であった。
「蓮夜もありがとう。はい……あ~ん♪」
織音は紅神にも華耶同様に最中を差し出した。
「いや、俺はいいよ」
紅神は苦笑しながら織音に断りの言葉を発すると織音は不満気な表情を浮かべる。織音の不満気な表情を見た華耶が紅神に抗議の声を上げる。
「ちょっと蓮夜、あんたお姉様のご褒美を断るなんて何を考えてるの!?」
「いや、流石に恥ずかしいぞ」
「恥ずかしい? あんた何言ってるのよ!!」
紅神は決して織音の提案を嫌だと言うわけではないのだがやはり照れというものがあるのだ。
「いいのよ……華耶、蓮夜にとって私の提案は迷惑でしかなかったのよ」
「お姉様……可哀想……」
「華耶~ふぇ~ん!!」
織音は華耶を抱きつくと明らかに嘘泣きとわかるわざとらしすぎる泣き声をあげた。
「ぐへへ~幸せ~♪」
織音の嘘泣きに華耶の残念な笑い声という些かカオスな空間になってしまっていた。紅神はため息を一つ吐き出すと二人に言う。
「分かったよ。俺が悪かった。織音食べさせてくれ」
紅神がそう言うと織音は、にぱっと笑うと楊枝に刺した最中をとると紅神に差し出した。
「はい、あ~ん♪」
織音はそう言うと紅神は差し出された最中を口にする。織音は顔を赤くしながらニッコリと微笑んだ。
「うへへ~♪」
織音は顔を綻ばせて言う。少々残念な笑い声が発せられているが紅神は触れないことにする。
(まぁ……楽しそうで何よりだな)
紅神は二人の美少女を見ながらそう結論づける。
(機械か……あいつらは自分達が何なのかもう分からなくなっていたんだろうな)
紅神は心の中で機械となった連中を思い出している。体を離れ、生物としての死から解き放たれた時に彼らは生物として死んだのだろう。あの場にいたのはグロテスクな残滓に過ぎないのだ。
(俺も織音、華耶がいなければどうなっているのかな)
紅神は二人に視線を向けてそう思う。織音から永遠の寿命をもらったとき、紅神も華耶も生物の理から外れてしまった。それでも自分を失わないのは織音と華耶がいるからであろう。
「もう、蓮夜ったらそんな熱い視線を向けるなんて♪」
「ちょっと、あんたお姉様に何て目を向けるのよ」
織音と華耶の言葉に紅神は我に返った。どうやら相当、二人を凝視していたらしい。
「織音と華耶がいてくれて良かったと思ってさ」
紅神の言葉に織音と華耶はポンと顔を赤くした。