鉄騎兵団⑥
紅神が遺跡の外に出たとき、そこにはズラリと黒いコートを着込んだ男達が銃を構え手いる姿があった。
軽く見積もって男達の数は三千を越えているのは間違いない。黒いコートだけでなく先程、紅神が蹴散らした鉄騎兵団もいる。
(増援か……俺がさっきの連中を蹴散らしてからわずか五分程……普通に考えれば転移してきたというわけだな)
紅神は心の中でそう推測する。紅神の推測を裏付けるように次々と増援が何もない空間から現れた。
「そこで止まれ!!」
相手側から一人の立派な服装の男が現れ紅神に言い放った。
「私は第二機甲軍司令官であるエゲル!! お前は完全に包囲されている!!」
エゲルの宣言に紅神は呆けた表情を浮かべた。紅神がこのような態度は敵を前にしてするのは前代未聞である。それだけエゲルの言った言葉は衝撃だったのだ。
紅神にしてみれば黒いコートを着込んだ男達も鉄騎兵団も例外なく弱者である。
実際に相手の武器は紅神の防御陣に傷をつけることすら出来ない。それに対して紅神は斬鬼紅神であっても、素手であっても男達をあっさりと斃している。
戦闘力のひらきはもはや数を揃えれば覆せるというレベルではない。それにもかかわらずエゲルは紅神に対し優位に立っているかのような物言いをしてきたのだから紅神が呆気にとられるというのも不思議ではない。
(ここまで来れば病気だな……)
紅神はエゲルの言葉をもはや聞くつもりは一切無い。要するにこの段階で紅神は取り囲む男達と鉄騎兵団を始末する事にしたのだ。
紅神は斬鬼紅神を抜き放つと同時に斬撃を放った。放たれた斬撃に男達の首はまとめて刎ね飛ばされた。。
「な……抵抗するか!!」
エゲルはやや上ずった声をあげるが紅神は当然のごとくそれを無視すると再び斬撃を放った。またも男達の首が飛び地面に落ちる。
「止めてみろよ……」
紅神はそう言い放つと一気に男達の中に斬り込んだ。その間に男達、鉄騎兵団から発砲は一切無かった。その理由は紅神の動きが速すぎて紅神の動きを捉える事の出来たものが誰もいなかったのだ。
紅神がどこにいるのかその動きを捕捉しているものは皆無であるが、紅神が一瞬前にいた場所はわかる。男達、鉄騎兵団達が宙に舞い、空中で散華する光景があるところが紅神のいた場所なのだ。
「な……」
エゲルの口から呆然とした言葉が紡ぎ出される。機械である彼であっても動揺せざるを得ない。紅神の戦闘力は次元が違うと言うべきものであったのだ。
男達や鉄騎兵団に痛覚が無いのは幸いであっただろう。紅神は死の暴風となって男達や鉄騎兵団を蹴散らしているが、痛覚がないために地面に落ちた後も苦痛の声を上げずに済んだからだ。
エゲルは紅神の戦闘力がいかに規格外とはいっても所詮は生物である以上、かならず疲労すると思っていたのだが完全に当てが外れた形であった。
紅神の蹂躙は凄まじく一瞬ごとに男達と鉄騎兵団は数を減らしていく。それは増援が送り込まれるよりも早く紅神が蹂躙する時間の方が早いために数は確実に減っていっている。
紅神の放たれる斬撃の数はどんどん増してゆき、それに応じて散っていく敵の数は跳ね上がった。
(……とりあえずはこの辺で良いか)
紅神は斬鬼紅神を鞘に納刀すると、エゲルの左腕を掴み上げた。エゲルがその事に気づいたのは紅神がエゲルの左腕を掴んでから二秒後の事である。紅神がその気であればエゲルは首が刎ね飛ばされていたのは間違いないだろう。
「とりあえず質問だ。お前達はそもそもなぜ天瑞宮にやってきた?」
紅神の言葉にエゲルはやや動揺した表情を浮かべるが沈黙する。
ギョギィィィィ!!
エゲルが沈黙した瞬間に紅神は掴み上げていた左腕を瞬間的に捻るとエゲルの左腕はあっさりとねじ切られた。
「答える気がないか……それなら」
紅神は足元に巨大な魔法陣を発生させる。その魔法陣から巨大な竜巻がほぼ同時に数十本巻き起こった。発生した竜巻は次に炎を纏うと炎の竜巻と姿を変える。
「……」
エゲルはその非現実的な光景を黙って見ている。発生した炎の竜巻は一気に放たれランダムに動き周囲の男、鉄騎兵団を巻き込み蹂躙を始める。紅神と言う死の暴風による蹂躙が止んだと思ったらすぐに炎の竜巻の蹂躙が始まったのだ。
炎の竜巻に巻き込まれた者達は一切の慈悲もなく竜巻に巻き上げられていく。そして纏った炎に灼かれ、あまりの高温に金属の骨格も耐えきれずに融解していった。
「止めて欲しければ俺の質問に答えるんだな」
紅神はエゲルに冷たく言い放った。
「な……なんて化け者だ」
エゲルの言葉を紅神は当然の如く無視した。エゲルが紅神の質問に答えない限り犠牲者は増えていくだけである。
「お前達は何のために天瑞宮へやってきた?」
紅神は再びエゲルに尋ねる。紅神の質問にエゲルは重い口を開く。
「……わかった。質問に答えるから竜巻をなんとかしてくれ」
「立場がわかってないようだな」
紅神はそう言うと再び魔法陣を展開させ、再び炎の竜巻を展開させた。炎の竜巻は倍に数を増やし蹂躙していく。
その光景を見たエゲルは慌てて紅神に言う。
「なぜ!?」
「立場が分かってないと言ったろう?」
「竜巻をなんとかしてください!!」
エゲルは紅神の返答に懇願すると炎の竜巻は即座におさまった。ほんの数分前まで威容を誇っていた軍団が見るも無惨な姿をさらしていた。
「やっと話ができる体勢が整ったようだな。それでは質問だ天瑞宮に何のために来た?」
「我々はこの遺跡の施設を使って創世神に会いにいくつもりだったのです。創世神に会うよう命令を受けてました」
「そうか、それで会ってどうするつもりだ?」
「そこまでは……知りません」
「そうか……では知っている者は誰だ?」
紅神のこの質問にはエゲルは言葉に詰まった。それを見て紅神は僅かばかり目を細めた。紅神は会話の相手の少しの仕草から情報を得ようと心がけている。紅神はエゲルが言葉を詰まらせた事でエゲルに命令を下した者との力関係を見た気がしたのだ。
「そうか……残念だ」
「え?」
「創世神様に危害を加えようとするお前達を許すわけにはいかんな」
紅神はそう言うとそのままエゲルの首をねじ切った。あまりにも一瞬の事でありエゲルは何の反応もする事が出来ない。
エゲルの体はそのまま地面にひれ伏すのをエゲルは呆然としたまま見送った。そして次の瞬間にバチリとした衝撃を感じるとエゲルの意識はそこで途切れた。
紅神が超高電圧の電撃を発生させエゲルの中枢機器を破壊したのだ。
「それじゃあ黒幕が出てくるまで暴れるか」
紅神は淡々とした言葉で告げた。