鉄騎兵団④
転移を終えた紅神の前には先程紅神が蹴散らした男達と同様の格好をした者達がいた。紅神が転移してきた事に対して男達は驚いた様な表情を見せるような事はしない。まったく感情というものが存在しないようである。
男達は腰のホルスターにかけている銃をとるために動こうとした。しかし、それよりも早く紅神が動く。瞬間に三体の男が宙に舞い、その半瞬後にまた三体が宙に舞う。それは非現実的な光景であったが、まぎれもなく現実である。
部屋にいた男達は五秒後には全員が倒れ伏しており、倒れてから五秒後には全員が頭部を砕かれて再び立ち上がる事は無かったのである。
ヴィィィィィィ!! ヴィィィィィィ!!
紅神が男達のトドメを刺し終えた時に一斉に警報器が鳴り響いた。
「向こうから来てくれるのは正直助かるな……」
紅神は余裕の表情で呟く。紅神にしてみれば自分から移動する必要がないだけ気楽というものである。
「そして、ここは天瑞宮への転移を行う施設というわけだな」
紅神は足元に広がる魔法陣を見て即座にここが転移装置であることを看破する。というよりも分からない方がどうかしてるというレベルの事であった。
「しかし、次元の壁を越えるだけの魔力をどこから持ってきてるのかね?」
紅神が首を傾げながら言う。普通の転移であれば大した魔力の消費はないのだが、流石に次元の壁を越えるとなるとその魔力の消費は膨大なものになる。
タタタタタタタタッ!!
「ん?来たか……」
紅神の耳に足音が聞こえると紅神はそちらの方向を見やった。すると新たな男達が姿を見せるが装備には今までと大きな差異は見られない。
「てい……」
紅神は頭部を砕かれ転がっている男を蹴りつけると男の体は高速で飛び現れた男達に直撃した。
ゴシャァァァァ!!
直撃した男の数体の頭部が砕け散り、機械の破片が周囲に飛び散った。紅神は腰に差した斬鬼紅神を抜き放つとそのまま横薙ぎに振るうと放たれた斬撃が男達の首をまとめて刎ね飛ばした。紅神の斬撃が薙いだのは踏み込んできた男達の首だけでなく、部屋の外にも斬撃が及び次に踏み込む者達もそのまま首を刎ね飛ばされる結果になったのであった。
「さて、これで攻撃方法を変えてくるはずだ」
紅神はそう独りごちる。紅神が放った斬撃は普通に考えればあり得ないレベルの斬撃であり、紅神の規格外の戦闘力を示している。にも関わらず先程と同様に何のひねりもなく突っ込んでくるのはお粗末すぎるというものである。
紅神は斬鬼紅神を一振りすると相手の次の一手を待つことにした。
* * *
「なんという……」
エゲルの声は戸惑いを僅かばかり含んでいる。エゲルは視覚を突入した部下とリンクさせ、視界を共有していたのだ。突入した部下達は剣を持った男の横薙ぎの一振りに首を刎ね飛ばされたのだ。
突入させた部下達は機械兵士と呼ばれる戦闘タイプであり、並の兵士ではまず相手にならないレベルの戦闘力を有している。だが、その機械兵士が只の一振りで全滅してしまったのだ。
「司令……ご命令を」
幕僚の一機が戸惑った声でエゲルに命令を求める。幕僚達も突入させた部下達の一機と視界を共有しており紅神の規格外の実力を目の当たりにしていたのだ。
「あいつは一体……」
「あの部屋に現れたと言う事は創世神なのか?」
「とんでもない強さだ」
幕僚達の中から囁くような会話が発せられている。生物でない彼らにとって死の恐怖など無いはずなのにそれでも恐ろしさが自分の中から沸き上がってくるのだ。そしてそれを押しとどめることがどうしても彼らには出来なかったのだ。
「慌てるな。いかに強いとは言え。手段が無いわけではない」
エゲルの言葉に幕僚達は視線を交わす。エゲルが言う手段には心当たりがあったのだ。
「鉄騎兵団を至急呼べ!!」
「了解しました!!」
エゲルの命令に幕僚の一機が淀みなく返答する。エゲルの命令は即座に遂行され、わずか五分でエゲル達の前に全長四メートル程の騎士の全身鎧のようなスーツを身につけた者達が現れる。エゲル達の前に現れた者達は所謂ワープ装置によって現れたのだ。
全身鎧の両肩にミサイルポッドを身につけている者、機関銃をつけている者もいる。紅神が斃した男達とは明らかに戦闘力が異なるのが窺えると言うものである。
「エゲル司令、鉄騎兵団揃いました」
一体の全身鎧の騎士がエゲルにそう言うと全員が直立不動の体勢になる。合計五十体程の全身鎧を身につけた騎士達が直立不動の体勢になるのは中々見栄えの良い光景であった。
「君達、鉄騎兵団の相手は規格外の怪物だ。先に全滅させられた突入部隊の映像を確認してみてくれ」
「はっ!!」
エゲルの言葉に鉄騎兵団の指揮官と思われる騎士は即座に返答する。
「……なるほど」
指揮官はしばらくすると小さく呟く。
「強敵ですね……。ですが我々、鉄騎兵団ならば勝利は疑いありません」
「そうか、それではあの男の死体をここに持ってきてもらおう」
「はっ!! 行くぞ!!」
エゲルの言葉に指揮官は力強く答えると五十体の鉄騎兵団達は紅神を斃すために進撃を開始した。