鉄騎兵団②
「ふむ……」
紅神は首を傾げながら天瑞宮の外縁のリングをいつものように見回っていた。紅神が首を傾げたのは何者かが天瑞宮のある世界へ足を踏み入れたのを察知したのである。
ここまでであればそれほど奇異があるわけではない。何度もくり返された事であり特筆するようなことではないのだ。問題は足を踏み入れた者達の気配であった。今までに感じた事のないような気配なのだ。
「誰かは知らんがとりあえず話をしてみるか……無駄かな……」
紅神は無駄な事かなと思いつつ、いつものスタンスを崩すつもりはない。侵入者に目的を尋ね、織音への敵対行為、侮辱行為を取らなければ穏便に帰ってもらう。だが、そのような事はほとんどない。
この天瑞宮に来る者の目的は織音を利用するか殺す事である。しかも、それぞれの世界で最強であり、自分の思い通りに事を進ませてきた連中である以上、受け入れる事はないと断言できる。
下の方から妙な気配を放つ者達が猛スピードで向かってきているのを紅神は黙って外縁で待つことにする。自分の立っている場所に来るとは限らないためにいつでも行けるように待っているのだ。
「分散しないのは助かるな。あっちこっち行くのは面倒だ」
紅神はそう呟くと転移魔術を起動すると侵入者が降り立った外縁の場所へと転移する。
* * *
紅神が転移した先には、五人の人影があった。年齢は全員が二十代前半と言ったところだ。全員が黒衣のロングコートを身につけており、同組織に所属しているのは間違いないようである。
(やはり……生物が放つ生命の輝きというものを感じない)
紅神は侵入者達から発せられる生物特有が放つ“気”をまったく感じる事が出来ないために紅神は首を傾げる。
突如現れた紅神に侵入者達は一切の動揺を示すことなく紅神を見やる。そこに紅神は出来るだけ穏やかな口調で男達に語りかけた。
「こんにちは、俺の名は紅神、創世神様の守護者だ」
紅神の言葉に侵入者達は反応を示すことなくじっと紅神を見ていた。
「……?」
何の反応もない男達に対して紅神は流石に首を傾げる。
そして突然、男達は懐から銃を取り出すと紅神に向けて一斉に放った。銃からビームが放たれるが放たれたビームは紅神の一メートル程手前で壁に防がれ消滅していく。それは水鉄砲の水を壁に向かって放ったような現象であった。
「おいおい……えらく調子に乗ってるな」
紅神は呆れた様に言うと動く。
男達の間合いに人智を越えた速度で踏み込むと一体の男の顔面を鷲づかみにするとそのままねじ切った。ねじ切られた首からは鮮血が舞うこともなく男はそのまま倒れ込んだ。
「ほう……生物ではないのか」
紅神はねじ切った首を見ると傷口から妙な機械の配線が覗いている。加えて生物の骨に当たる部分は何らかの金属であるようであった。興味深げに首を見るとギロリと生首の目の部分が動いて紅神と視線が交叉する。
「まだ生きてるのか? いや……そもそも生きてると言えるのかな?」
紅神はねじ切った頭部を凄まじい速度で投擲する。投擲された首は凄まじい速度で別方向へと飛んでいった。その速度は凄まじく大気との摩擦により高温を持ってしまい、すぐに燃え尽きることになったのだが紅神の視界には入っていない。
男達は紅神に銃での攻撃は無意味と察したのだろう。男達は紅神に殴りかかってきた。
紅神は四人の男達の拳を絶妙の間合いをとって、襲いかかる男達を迎え撃つ。放たれた男の拳を紅神はすっと躱すと顎を下からかちあげた。顎を打ち上げられた男は宙に舞い、そのまま紅神は男の足首を掴むとそのまま男を振り回した。
グシャァァァァァァ!!
高速で振り回した男の体と殴りかかってきた男の体が衝突するとお互いに粉々に砕け散った。砕け散った破片は肉片ではなく機械の部品そのものである。
(大して強くないな……)
紅神は手元に残った足を襲いかかる男に無造作に投げつけると、男は躱しきる事は出来ずにまともに直撃する。直撃した男は数メートルの距離を飛び地面を転がった。その数メートルの距離が空いた事で残りの一体に向かう。
紅神は男の右腕を掴むとその瞬間に男は自ら飛んだように宙を舞うとそのまま頭部から落ちる。
男は頭から落ちた瞬間に、紅神は足を振り上げると男の喉を踏み抜いた。
ゴシャ!!
踏み抜かれた男の首はゴトリと落ちる。当然ながら、落ちた首の傷口から配線が望んであり、男が生物ではなく機械であることを物語っている。
ここでようやく吹き飛ばされた男が立ち上がった所を紅神は間合いを詰めて顔面を鷲づかみにするとそのままねじ切った。
ねじ切られた体はそのまま崩れ落ちる。紅神はねじ切った頭部に高電圧の電流を流した。
「とりあえず頭部を破壊すれば死ぬわけだな」
紅神は光を失った頭部をその場に放り投げるとジロリと虚空に視線を送る。
そこには新手が転移してきたのが見えた。