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狂信者⑦

 本日二話目となります。前日からの続きは前話からとなります。

「まだ続いているな」

「それはそうでしょ」


 紅神の言葉に華耶はあっさりと返答する。正直な所、華耶の返答を待つまでもなく紅神自身がそう簡単にこの凶宴(きょうえん)が終わる事はあり得ないと思っていたのだ。

 家族や親しい者を黒装束の者達は残酷に殺したのだから被害者が激しい憎悪を燃やすのは至極当然の事である。

 紅神も彼らの立場ならば加害者をけっしてやるような事はしないだろう。紅神は加害者が被害者面するのはどうしても許すことは出来ないのであった。


「仕方ないわよ。じゃないと彼らは永遠にあの世界を漂うことになるわ。それこそひどい話よ」


 織音が紅神と華耶に言うと二人は同意とばかりに頷いた。二人は織音がどうしてここまで復讐を後押ししたのかその理由が分かっていたのである。

 それは、瘴気にとらわれていた魂達の浄化のためであった。エルグードに捕らわれていた魂達は瘴気を生み出すために必要以上に苦痛を与えられ上で殺されたのだ。その記憶がある方が瘴気を発しやすいのだ。

 そしてそのために彼らの魂は想像以上に悪意に染まってしまったのだ。“穢れ”ともいうべきその悪意を落とさない限りは死後の世界に行くことも出来ない。


 魂を浄化させる一つの方法は強制的に浄化する事である。浄化という方法は織音も紅神も華耶もする事が出来るのだが、強制的に浄化すれば魂が傷付く事もある。

 特に今回の魂達は無理矢理、瘴気によって魂を穢されたのだから浄化すれば大きく魂が傷付くのは確実であった。


 そしてもう一つの方法は魂達に悪意を吐き出させることである。すなわち復讐させ納得させ今生を終わらせる事である。

 復讐が完遂した時に“虚しい”という感情が出ようが、“満足した”という感情が沸き上がろうが一区切り付くのは間違いない。


「そうだな。結局の所は彼ら次第だ。こちらとすれば一区切りするための場を用意する事だけだな」

「ええ、私達はそこまで介入すべきじゃないわね」


 織音は小さく微笑んだ。織音は生み出した世界に必要以上に干渉するのは好きではないのだ。


「でもさすがに長くなりそうだから……これぐらいの干渉はするわね」


 織音がそう言うと二人は小さく頷いた。




 *  *  *


「がぁぁぁぁぁあ!!」

「も、もう止めてくれ……」

「許してくれ……」


 黒装束達は何度も何度も魂達の憎悪をぶつけられ、すっかり心が折れている。今更ながら自分達の罪の大きさを自覚しているところである。

 神の名を借りて行った行為など被害者達の憎悪の前には何の免罪符にもならないどころか被害者達の怒りを増幅させるだけであった。


『うるさい!! 黙れ!!』


 魂の一体が剣を黒装束の男の顔面に容赦なく振り下ろした。


「ぎゃああああああああ!!」


 頭部を両断された黒装束の男は絶叫を放つ。本来であればこれで地獄から解放されるのであるが、織音の力により黒装束達の地獄は終わる事はない。しかも精神崩壊する事が出来ないので苦痛から逃れる術がないのだ。


「くそ!! 教主のせいだ!! あいつが調子に乗って……がぁ!!」


 黒装束の一人が教主に向かって呪詛の言葉を吐き出そうとした時に一体の魂の斬撃が心臓を貫いた。

 あちらこちらでそのような光景が展開されている。黒装束達は地獄の苦しみを味わい、ただひたすら耐えるしか出来なかったのである。




 そして、永遠に続くと思われていた地獄が終わる光景をひとりの黒装束が目にした。魂の一体が妙にスッキリとした表情を浮かべて消滅したのだ。


「おい!! みんな聞け!! 今一体の魂が消えたぞ!! 必ず終わりが来る!!」


 その言葉に黒装束達は希望を見いだしたような表情を浮かべる。黒装束達の中にはこの地獄がいつかは終わるという想いこそが希望だったのだ。


 それから黒装束達はひたすら耐える。体を斬り刻まれ、凄まじい苦痛に耐えながらこの地獄が終わるのをひたすら耐えた。


 それから約二十年もの間、黒装束達は耐えに耐えあらゆる責め苦を受け続けた。そして最後の魂が納得して消えた時に静寂が檻の中に満ちた。


「終わった……のか?」


 苦痛がなくなった事に対して黒装束の一人が周囲を見渡したときに魂達が一つも残っていない事を確認すると周囲から少しずつ笑い声が起こり始めた。


「はははははははははは!!」

「やったぞ!! 我らは耐えきったのだ!!」

「はははははは!!」

「ひゃははははははは!!」


 黒装束達は狂ったように嗤い始める。誰一人として死ぬ事無く、二十年もの長い期間を耐えきった事に充実感と織音達を見返す呪詛の声を発した。


「ははははは!! 我らは生きている!! そして死ぬ事は永遠に無い!!」


 教主が高らかに宣言すると周囲の黒装束達も嗤い始める。


「我らは神となったのだ。さぁこの世界を我らのものとしようではないか!!」

『うぉぉぉぉぉ!!』


 教主の言葉に黒装束達は黒い咆哮をあげた。その時、黒装束達の視界がぐにゃりと歪んで視界が戻った時には二十年前に見た天瑞宮の姿が見えた。


「ここは……?」

「あそこだ……」

「なんなんだ?」


 黒装束達は全員がここが自分達の地獄が始まった場所である事を想いだし顔を青くする。


「ま……反省なんかするわけないと思ってたけど驚かないな」

「そうね。アホは何も学ばないからアホなのよね」


 黒装束に投げ掛けられた侮蔑の言葉にビクリと黒装束達は体を震えさせる。黒装束達にとって忘れることの出来ない自分達を地獄に叩き落とした者の声であった。



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