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狂信者⑤

 エルグードを斬り捨てた紅神は織音達の待つ外縁のリングにほぼ一瞬で戻ってきた。戻ってきた紅神を織音は顔を綻ばせて迎えた。


「お疲れ様、格好良かったわよ蓮夜♪」


 織音は弾んだ声で紅神に言う。弾んだ様子の織音に対して、黒装束の者達は一様に顔を青くしている。


「あれ? なんか数増えてないか?」


 紅神が宙に浮かぶ黒装束を見て織音に言う。


「もちろんお姉様が連れてきたのよ」

「ほう……ということはこのクズ共はこれで全部か」


 紅神の質問に答えたのは華耶であるが、華耶の言葉から織音が他の場所にいる黒装束の者達の仲間を根こそぎここに転移させてきたのだろう。

 全員が黒装束を身につけているわけではなく、夜着を身につけている者もいるところから就寝中の者もいたのだろう。

 紅神は斬り落としたエルグードの首を無造作に投げる。投げられた首は外縁のリングに転がると黒装束達の口から悲鳴が上がり始める。紅神が投げたのが何か理解したのだろう。


「ま、まさか……エルグード様」

「そ、そんな……バカな」

「ひぃぃぃ!!」

「きょ、教主様!! 我々はどうすれば良いのですか!!」

「お、落ち着け!! エルグード様がこのような者に敗れるはずはないだろうが!!」

「し、しかし現に……」


 黒装束達の声には絶望が色濃く宿っている。それだけでなく呆然とした声も発せられていた。


「さて、それじゃあ報いをあたえてあげましょうか」


 織音は静かに微笑むが黒装束達は旺然ながら心穏やかな状況には決してなれないだろう。心穏やかにするには織音の黒装束達を見る目は厳しすぎるものがあったのだ。


「さっき私が言った言葉を覚えているかしら?」


 織音が黒装束達に冷たく言うと教主と呼ばれた男がゴクリと喉をならしながらなんとか返答する。


「我らはエルグード様の使徒!! 死など恐れてはおらぬ!!」

『そうだ!! 我らは死など恐れない!!』


 教主がそう叫ぶと織音はつまらなさそうにため息をつく。その態度が黒装束に対して不快感を与えたのは間違いない。


「まったくあなた達は何も分かっていないのね」

「な……」

「言ったでしょう。私はあなた達を殺さないって」


 織音の言葉に黒装束達の中から安堵の雰囲気が発したのを紅神達は察すると皮肉気な嗤いを浮かべた。この状況で罪が許されるなどと言うのは絵空事に過ぎない。だが黒装束達は紅神達の容貌が優しげなために寛大な処置が下されると思ったのだろう。特に新しく連れてこられた者達にその傾向が色濃く出ていた。


「あなた達に報いを与える方達は蓮夜が連れてきてくれたわ」


 織音は小さく微笑んで黒装束達に言い放った。黒装束達は織音の言葉に首を傾げている。紅神はたった一人であり誰かを連れてきた様子もないのだ。


「き、貴様はエルグード様の神罰が怖くないのか!! すぐに我らを解放しろ!!」


 教主は大声で喚き始めた。織音の言葉に言いようのない不安を感じ始めたのだろう。


「あら? エルグードとやらの木偶人形は蓮夜が斃したでしょう? それともこれはエルグードじゃなかったのかしら?」

「う……」

「それともエルグードはあなた達信者がこれから地獄を味わうというのに捨てるような器の小さい神なのね」

「貴様!! エルグード様を……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 反論の途中で教主は突然絶叫を放った。教主が絶叫を放ったのは教主の右腕が突然爆ぜたからだ。


「どうしたの? 右腕が破裂したぐらいでエルグードを侮辱した私に対する言葉を中断するなんて少しばかり信仰心が足りないんじゃない?」


 織音は冷たく言い放つと教主は苦痛に呻きながら織音を見る。しかし、その表情には明らかに今までと違う恐怖の感情が滲んでいた。


「おや? あなたのようなクズでもようやく理解したみたいね。自分達がどのような状況にあるかを……華耶」


 織音はつめたく言い放つと華耶に声をかける。


「はい、お姉様」

「このクズ共を閉じ込める檻をつくってちょうだい」

「まかせてください!!」


 華耶はそう言うと黒装束達全員を囲む檻が形成された。自分達が檻に入れられた事に対して黒装束達の恐怖は一気に高まったようである。


「ありがとう。それじゃあ次はこっちね」


 織音は紅神に視線を移すと紅神がエルグードから奪った瘴気が紅神から離れて織音の前にふよふよと浮かんだ。

 黒い靄は突然弾けるとそこに捕らえられていた魂達が一斉に姿を現した。捕らえられていた魂達は生前の姿を現した。その数は軽く見積もって数十万を超えるように思われた。


『こ、これは一体……』

『お父様!! お母様!!』

『シェルド!! ドロテア!!』

『シェルム』


 あちこちで魂達は抱きしめ合い、喜びを表現している。その光景を紅神達は顔を綻ばせながら、黒装束達は呆然とした表情を浮かべている。


「さて、再会の挨拶は済みましたか?」


 織音の言葉に魂達は一斉に言葉を止め、織音に視線を移すとその場で全員が跪いた。その中で三十代の男性が頭を上げると発言する。


『ありがとうございます。私はエルコルゴ王国最後の王であったラディス=トゥーラ=エルギディクと申します』


 優雅な仕草でそう告げたラディスは一礼する。その挨拶に対して織音は微笑むと返答する。


「織音といいます。こちらは私の守護者である紅神と呪神です。今回の件はさぞご無念の事と心中お察し申し上げます」


 織音の言葉にラディスは大いに狼狽えると頭を下げる。ラディス達は自分達をエルグードから引き離して地獄から解放してくれただけでその恩義は計り知れない。しかもまた家族と引き合わせてくれた事もそれに拍車をかけていたのだ。


『とんでもございません。我々はあなた様方のおかげで地獄から解放されました。感謝の言葉もございません』

「そうですか。実は私があなた達を解放したのには理由があるのです」


 織音の言葉にラディスを初め数十万の魂達身構えるのを感じる。このような状況で何をさせられるかが気になるところであった。


『そ、それで我らは何をすれば……』


 不安気なラディスの言葉に織音は静かに言う。


「あなた方にそこのクズ共の始末を頼みたいのです」


 織音は指差しながら冷たく言う。その視線と指差した先には檻にとらわれていた黒装束達の姿がある。


『始末……とは?』

「私の代わりにあの者共にあなた方から報いを与えて欲しいのです」


 それは甘美な報復の提案であった。

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