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狂信者④

「た、助けて……」


 両腕を失った男は苦痛に呻きながら命乞いの言葉を吐き出すが織音はまったく動じる様子はない。


「心配しないで……私は(・・)あなた方を殺すような事はしないわ」


 織音の言葉に一瞬だけ希望の満ちた顔を黒装束達は浮かべるが、それがただの勘違いである事を次の瞬間に思い知らされた。


 バァァァァァン!!


 宙に浮かんでいた黒装束の一人が突然破裂する。破裂した黒装束の肉片が周囲に降り注ぎ他の黒装束達の顔が凍った。


「ア、アギス……」

「そ、そんな……」

「な……」

「ひぃ!!」


 黒装束達の口から恐怖の言葉が発せられた。だが、その恐怖の声など表面上の者に過ぎない事を次に黒装束達は思い知らされる。


「ぐぁぁぁぁぁ!! 痛い!! 痛い!! 助けてくれ!! 俺の体が粉々に!! いや、なんで俺はこんなになってるのに生きてるんだ!?」


 破裂した男が喚き始めた。男の体は肩から上はそのまま残っており頭部は無傷ではあるが、肺も破裂している以上、本来であれば声など発することは出来ないはずである。

 いや、それどころか即死しても不思議ではないはずなのに男は喚き散らしているのだ。明らかに何か異常な力が発しているのは間違いない。

 その事に気付いた他の黒装束の者達は困惑の度合いを深めていく。


「言ったでしょう……私はあなた達を殺すつもりはない……と」


 織音の言葉の意味を黒装束達は察した。体が破裂しても生きている仲間の姿を見れば、苦痛のみが延々とつづくという地獄が待っているのだ。しかも織音が何をやっているか黒装束達の誰もわからないのだ。


「あなた達の記憶を見たわ……あんな小さい子まで……」


 織音の言葉に含まれる嫌悪感は鋭い刃となって黒装束達の心に突き刺さる。エルクードという正義を掲げた黒装束達にとって織音の言葉など何ら痛痒を与えるはずはないのだが、黒装束達は織音の言葉に何故か罪悪感を刺激されたのだ。


「あなた達のような者に必要なのは反省でも救いでもない報い(・・)よ」


 織音はそう言うと黒装束達全員を宙に浮かせた。もちろん体を破裂された男も両腕を失った男もその中に含まれている。


「ひ……」


 宙に浮かんだ黒装束達の中には恐怖の言葉を吐き出す者もいたが織音はまったく心動かされた様子はないようであった。


「エルグード様!! お救いください!!」


 黒装束の一人が大音量で叫ぶと怪物が動き出した。その動きは人智を越えた速度で織音に拳を放った。だが織音はその怪物の攻撃をまったく動じることなく黙って見やる。


 ガシィィィィ!!


 怪物の放たれた拳を紅神が間に入り掴み上げた。


「こいつがエルグード? 」


 紅神の呆れたような言葉に織音は顔を綻ばせて紅神に言う。黒装束に向けた冷たさの極致のような声色とは明らかに違う。親しみの感情に満ちた声である。


「ありがとう蓮夜♪」

「まぁ、この程度の奴にお前が傷付く事は無いのはわかってるがな。こんなゴーレム(・・・・)ごときにお前を触れさせるわけにはいかない」

「蓮夜♪」


 織音が嬉しそうな声で紅神の名を呼ぶ。織音の声はやや恋する乙女のような響きがあるがこの状況では限りなく空気に見合わないといわざるを得ない。


「よっ……っと!!」


 紅神は怪物の腹部を殴りつけると怪物は凄まじい速度で吹き飛ぶとあっという間に彼方に吹き飛んでいった。


「それじゃあ行ってくる」


 紅神はそう言うと斬鬼紅神(ざんきくがみ)を抜き放った。斬鬼紅神の刀身が紅く色を変えていく。


「いってらっしゃい♪」

「さっさと片付けなさいよ」


 織音と華耶の声を背中に受けながら紅神は飛んだ。


(ふむ……あんまり瘴気を斬りたくないな)


 紅神はエルグードを見ながら考える。エルグードを覆う瘴気には間違いなく生贄として捧げられた者達の魂が取り込まれている。紅神は生贄として捧げられた者達の事を思うと黒装束の者達に対して怒りしか湧かない。

 普段は優しい織音があそこまで怒りを持ったのは黒装束の者達が生贄となった者達をどのように扱ったかを記憶を覗いてみたためである。


(とにかく……早く……してやらなければな)


 紅神はそう決断すると左掌をエルグードにかざし衝撃波を放つ。放たれた衝撃波はエルグードの胸部に直撃し覆っていた瘴気を舞い散らせた。瘴気が舞い散った下にエルグードの本体が見えた。

 本体が見えた瞬間に紅神は斬鬼紅神を突き出し、エルグードを刺し貫いた。


 エルグードの胸を斬鬼紅神が貫くがエルグードは構わず反撃に出る。瘴気が斬鬼紅神を掴み上げ紅神の動きを封じようとしているのだろう。


(無駄な事を……)


 凄まじい速度ではなたれた拳を紅神は余裕を持って躱した。紅神の頬をエルグードの拳が掠める。エルグードはそのまま拳を連続して放つが紅神には当たらない。

紅神は連続して放たれる拳を無造作に掴むと瘴気が紅神に取り憑いてきた。紅神は取り憑いてきた瘴気を優しくエルグードから引き離した。紅神とエルクードの瘴気を操る能力の差により、紅神がエルグードから瘴気のコントロールを奪い取ったのだ。


「ま……所詮はゴーレムだよな」


 紅神はつまらなさそうにエルグードに言い放った。完全に瘴気を奪い取られたエルグードは本体を晒している。紅神は胸を貫いていた斬鬼紅神を振るうとエルグードの胸部がまるで紙のように斬り裂かれた。


 傷口から鮮血が舞う。紅神はそのまま横薙ぎの斬撃を放つとエルグードの首を刎ね飛ばした。

 紅神は刎ね飛ばした首を無造作に掴み上げると残った体はそのまま落下していく。


「じゃあな……三下」


 紅神は落下していくエルグードの体の部分を見下ろしながら言い放った。

 

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