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狂信者③

 紅神、織音、華耶は転移魔術で外側のリングに立った。


「もう少し時間がかかるみたいね」


 織音がリングの縁に立って身を乗り出して覗き込むと言う。


「そうか、呑気な奴等だな」


 紅神の言葉に織音と華耶は頷く。侵入者にとってはこの天瑞宮は言わば敵地であるにも関わらずのんびりと準備をしているところから余程の自身があるのだろう。


「まぁ一体の大きい奴が切り札なんでしょうね」


 華耶は呆れたように言う。


「う~ん……周りの方達からみれば……相当な……でも……」


 華耶は首を傾げながら紅神と華耶に視線を移し、そこからまた首を傾げた。


「どうした?」

「うん、あの方達の切り札と思われるあれ(・・)……そんなに大したものに思えないんだけど、どうしてあれが切り札になるなんて考えられるのかしら?」


 織音が首を傾げたのは紅神と華耶の実力を知っているからである。織音が紅神と華耶の実力を知っているのは二人が織音に伝えているわけではない。

 基本、紅神も華耶も織音にわざわざ戦闘力を伝えるような事はしない。だがそれでも気付くと言う事は織音の実力もまた紅神達に匹敵するものであると言える。


「まぁ、油断はしないさ。どんな能力があるか現時点では分からないからな」


 紅神がそう言った所で侵入者達が紅神達の前に姿を現した。


 現れたのは禍々しい気を放つ黒い靄に覆われた身長二メートル程のコウモリの羽を生やした怪物である。怪物を覆う黒い靄には所々に人の顔が浮かび苦悶の表情を浮かべるとまた消えていく。


(人の魂を瘴気で縛り付けているのか……むごいことをする)


 紅神はこの怪物が非道な事をしていることを即座に察する。瘴気というのは生物の負の感情によって誕生する毒素のようなものである。

 魂が瘴気に触れれば当然ながら魂も影響を受ける。いかに清浄な魂であっても怨霊になるし、亡骸に触れればアンデッドとなったりする。


「そこの者共、創世神の元に案内しろ」


 怪物の後ろから黒装束の者達が次々と天瑞宮の外縁のリングに昇ってきた。黒装束の者達は次々と外縁のリングに降り立つ。

 最終的に三百ほどの数の黒装束の者達がそろった。黒装束の者達は老若男女様々であるが毒々しく不愉快な嗤いを浮かべていることは共通していた。


「お前達は何者だ?」


 紅神の問いかけに対し黒装束の者が不愉快な表情を浮かべたまま言う。


「我らは偉大なる神エルクード様の敬虔な使徒よ。愚か者よ跪け!!」

『跪け!!』


 先頭の男が跪けというと後ろの者共も声を揃えて跪けと唱和する。三百人の口から一糸乱れぬ言葉が発せられた事は特筆に値すると言って良いだろう。


「ねぇ……何か不気味な連中なんだけど……」

「正直な話……異常者集団という感想しかないんだが」

「たまにいるのよね。こういう異常者の集団って……」

「まぁ宗教というものの負の部分を集めたのがこの連中と言う事だろうな」


 紅神と華耶の会話に黒装束の一団が怒りの表情を浮かべる。


「偉大なるエルクード様の使徒である我らを軽んじる者はその報いを受けるであろう!!」


 男の言葉に一気に集団の敵意が紅神達に向かう。


「そうか、そうか……それでお前らはここに何しに来たんだ? ここは創世神様のお住まいになられる天瑞宮だ。速やかにお引き取り願おう」


 紅神の警告に黒装束達から嘲りの感情が発せられる。正直、紅神達からすれば不愉快極まりないのだがこの段階ではまだ決定的な言葉を述べていないのでこのまま返るならばそれも良しと思っていたのだ。


「なぜエルクード様の使徒である我らが貴様のような下郎(・・)の言う事を聞かねばならぬのだ?」

「そうだ!! 跪け下郎が!!」


 一人の言葉をきっかけに一団が紅神達に悪意ある発言を行った。それはだんだんと熱を帯びるかと思われたがその熱は急速に凍り付いた。


 数人の黒装束達が突如浮かび上がったのだ。ジタバタと暴れる姿から空に浮かんでいるのが自らの意思ではないことは明らかだ。

 その事を察した黒装束達が何事かと周囲をキョロキョロと見回している。


「おろせぇぇぇぇ!!」

「この……巫山戯るな!! このような事をして神罰が下るぞ!!」

「この罰当たり共が!! 偉大なる神エルクード様のお怒りが貴様らに落ちる事になるぞ!!」


 浮かび上がった黒装束の者達は紅神達に対してエルクードとやらの神罰が落ちると喚き散らしている。


「あなた方は何を言っているか理解しているのですか?」


 そこに織音が静かな言葉で黒装束達に告げる。その声は静かであるし、淡々としているものであるが黒装束達は全員が背中に氷水を流し込まれたかのような感覚を味わうことになった。

 それから黒装束達の体が一斉にガタガタと振るえ始めた。彼らの体が繋がっておりそれにより恐怖が伝染したのではと思われるほどである。


「下郎……? 私を今まで守ってくれている蓮夜を下郎? 無知は罪だと言う事を魂まで刻み込んであげるわ」


 織音は静かに言い放った。織音のこの言葉は黒装束達にこの事態を引き起こしているのが織音である事を察した。


「うわぁぁぁぁ、な、なんだぁ!?」


 突如宙に浮かんでいる男の一人が絶叫を放った。左腕が不自然に捻れ始めるのを全員が目撃する。捻れた左腕はそのままさらに捻れていき男の口から悲鳴が上がった。


「ぎゃぁぁぁぁあ!! 痛い、痛い!! 止めろぉぉぉぉ!!」


 ギョギィィィィ!!


 男の左腕から異音が発し骨がねじ切られたのを全員が察した。左腕はそのままねじ切られついに男の体から離れるとそのまま外縁のリングにボトリと落ちる。リングに落ちた左腕から大量の血液が流れ始め、それが現実である事を周囲の黒装束共に知らしめた。


「がぁぁぁぁっぁぁぁ!! よくも!! 俺の左腕をぉぉぉぉぉ!!」


 左腕を引きちぎられた男が苦痛の言葉と怨嗟の言葉を発すると織音を睨みつけた。そしてその瞬間に今度は男の右腕が突如炎を発した。


「ぎゃああああああああああ!! な、なんで俺の腕が燃えてるんだ!! 誰か助けてくれぇぇぇ!!」


 炎に灼かれた腕を見て男が苦痛と驚愕に彩られた絶叫を放った。男の右腕は消し炭と化すとそのまま塵となって消えていく。


「立場を理解したかしら?」


 織音は冷たく黒装束達に言い放った。

 


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