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狂信者②

「蓮夜~♪」


 バタンとノックもせずに紅神の元に織音が入ってきた。織音の行動に紅神は少々頭を抱えていた。


「ちょっと蓮夜、お姉様がわざわざあんたのむさい部屋に訪れたんだからもっと嬉しそうにしたらどうなの? お姉様のような美人と私のような美少女が来て一気に部屋が華やかになったでしょうが!!」


 織音の後ろからひょっこりと顔を出した華耶が紅神に向かって悪態をつく。その表情には不満気な感情がその顔に表れている。


(大方、織音の所に遊びに行ってて織音が俺の所に行くと言うから機嫌が悪いんだろうな)


 紅神は心の中でそう推測する。


「まぁよく来てくれたな。織音、華耶」


 紅神はそう言うと近くの宮女達にちらりと視線を移すと宮女達はこくりと頷くと即座に動く。

 もちろん織音と華耶の席とお茶を用意するためである。宮女達は持てる力を総動員し、ものの数秒で茶会の場を整えたのだ。


「流石は蓮夜の所の宮女ね♪」


 織音が誇らしげに紅神に言うと紅神は苦笑しつつ頷いた。紅神の元に配置されている宮女達は織音のつけたものであり、別に紅神が独自にそれぞれの世界から連れてきた者達というわけではないのだ。

 織音は好意を持っている者に対して褒めたいという欲求が意外と強い。そのため事あるごとに紅神や華耶を褒めるのだ。


「それで織音と華耶は今日はどんな茶菓子がご所望だ?」


 紅神は苦笑を噛み殺しつつ二人に尋ねる。紅神の言葉に華耶は織音の方をチラチラと視線を移す。織音に任せるという意思表示だろう。


「そうね……チーズケーキと紅茶なんていいわね♪」


 織音がそう言うと紅神は女官に視線を移す。すると女官はすぐに準備に取りかかった。またもわずか十数秒で紅神達の前には三つのチーズケーキが並んだ。


「まぁお前がつくるもの程ではないがこれも中々美味いと思うぞ」


 紅神は優しく微笑みながら織音と華耶に言うと織音はすぐに頬を染めた。料理作りが趣味の織音にとって最高の褒め言葉と言えるのだ。


「えへへ~蓮夜さえよければリクエストを受け付けるわよ。もちろん華耶もリクエストをちょうだいね♪」

「ああ、それは嬉しいな。何が良いか考えておくか」

「お姉様、私はこの間作ってくれたパンケーキがいいです♪」


 紅神と華耶の返答に織音は顔を綻ばせた。その様子は本当に幸せそうである。


「えへへ、幸せ~♪」

「ぐへへ~お姉様のカワイイ姿が見られて幸せ~♪」

(楽しそうで何より……)


 織音と華耶の様子に紅神は心の中で呟いた。




 *  *  *


 三人はまったりとした時間を過ごしている。すると突然天瑞宮の遥か下の方で凶悪な気配を三人は感じた。一つ大きな禍々し気配に小さい不快な気配が三百ほどだ。小さな不快な気配は正直な所大した強さではない。


「あら? お客様かしら?」


 織音がほわほわとした雰囲気を少しも乱すことなく言う。


「織音、あんな嫌な気配を放つ連中に様なんかつけなくて言いよ」

「そうよ。お姉様、どうせろくな事を考えてないだろうから、さっさと殲滅した方が良いわよ」


 紅神と華耶の言葉に織音は指を頬に当てて少し傾ける。その仕草は異性だけでなく同性であっても悶えてしまいそうなほど可愛らしいものである。


「う~ん……大きい方の気配なんだけどなんだかたくさんの感情が混ざり合ったような感じがするのよね。二人とも感じない?」


 織音の言葉に紅神と華耶は気配を探ると織音の言う通り所々で禍々しい気配の中に悲痛な感情が浮かんでは沈んでいくような気配を確かに感じていた。


「確かに……」

「あ、ホントだ……」

「となると大きい方は生贄の魂の集合体というわけか……」


 紅神の言葉に織音、華耶は頷く。そして、二人の表情には隠しきれない嫌悪感が浮かんでいる。


 紅神、織音、華耶は生贄という考え方に対してかぎりない嫌悪感を持っていた。大抵生贄に捧げられるのは立場の弱い者達ばかりであり、立場の強い者は強いるだけで何も失わずに恩恵だけを得ようというのが気に入らないのである。


「とりあえず行ってくるか」


 紅神が立ち上がると織音も当たり前のように立ち上がると、華耶も慌てて立ち上がった。


「……えっと、織音……お前なんで立ち上がってるんだ?」


 紅神の言葉に織音は意外そうな表情を浮かべた。


「もちろん私も行こうと思ってるのよ♪」

「はぁ? お前が出るような事は絶対に無いからここにいろよ」

「いや」


 紅神の言葉に織音は即答する。


「あんた、私とあんたがついてるんだからお姉様が危険にさらされることは絶対無いから大丈夫よ。私が絶対にお姉様を守るからあんたは心置きなく不届き者を成敗していいわよ」

「お前……その棒読み……」

「ソンナコトナイデスヨ」


 紅神の言葉に華耶はさらなる棒読みで返答する。


(どう考えても……織音が出るような相手じゃないんだよな)


 紅神は心の中でそう思う。


「わかったよ。華耶は織音を絶対に守れよ」


 紅神の言葉に織音はものすごく嬉しそうな表情を浮かべる。華耶は織音の嬉しそうな表情を見られただけで幸せそうだ。


(妙な事になったな)


 紅神は苦笑しながら席を立った。

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