狂信者①
今回は短いですが御了承ください。
「おお!! 神よ。我らに永遠の繁栄を!!」
「「「「繁栄を!!」」」」
黒装束に身を包んだ男は朗々とした声で叫ぶと背後にいる者達数百人が一斉に続いた。数百人もの人間が僅かな乱れもなく声を揃えるとそれだけで大気を揺るがす事になる。
「さぁ、生贄を捧げよ!!」
黒装束に身を包んだ男が叫ぶと興奮したような声が雄叫びがこの場に響き渡った。背後にいる数百人が同時に叫んだのだ。
その興奮を含んだ声の中に顔を青くした者達が連れてこられる。十歳未満の女の子、十代前半の男の子、三十代の男女、五十代半ばの男女六人だ。
「お父様ぁぁぁぁ、お母様ぁぁぁ!! 怖いよぉぉぉ」
小さな女の子は余りの異様な雰囲気に泣き始めた。大の大人でさえこれから自分達がどのような目に遭わされるかを想像すると腰砕けになりそうなところなのに幼い子がそれに耐えきれなくて鳴いてしまうことを誰が責める事が出来るのだろうか。
「怖がることはない。お前達は“エルグード”様の贄となるという栄誉が待っているのだ。むしろ光栄に思わなくてはならない」
黒装束の男はニヤリと顔を歪ませて嗤う。自分のやっている事にまったくの罪の意識など無い者の顔であった。
「お願いよ!! せめてシェルドとドロテアの命だけは助けて!!」
三十代の女性が叫ぶが黒装束の男は意に介することなく朗々と告げる。
「偉大なる神であるエルグード様の糧となる事が出来るというのに何が不満なのだ!!」
「お願いよ!! シェルド、ドロテアを助けて!!」
「罰当たりめが!! 命を惜しむ事無くエルグード様の贄となるのがいかに栄誉な事か貴様のような邪教徒には分からぬのだな!!」
ガキィィ!!
男は女性の顔を手にしていた錫杖で殴りつける。相当な力で殴りつけたのだろう女性の口から血と歯が飛んだ。
「母上!!」
「シェルム!! おのれぇぇぇぇ!!」
「お母様ぁぁぁぁ!!」
女性が倒れた事に対して悲痛な声が発せられた。その声を聞いても黒装束の男は眉一つ動かす事無く口元を歪めて嗤った。
「ふ、国を滅ぼしたマヌケの分際で何を言っているのだ。貴様らは我がエルグード様の権威を認めなかったために滅びるのよ」
男の言葉に男達は憎々しげな視線を向ける。
「悔しいか? 悔しかろうよ。守るべき国も民もそして家族も貴様は何一つ守る事は出来なかったのだからな。聞こえぬか? 民達の怨嗟の声が? 邪教徒である貴様らの民もまたエルグード様の贄としてくれる。先に待っておれ!!」
黒装束の男はそう言い捨てると右手をかざした。すると巨大な魔法陣が浮かび上がりモコモコとした黒い靄が生贄の六人を覆っていく。
「うわぁぁぁぁぁん!!」
「がぁぁぁぁ!!」
「シェルム!! ドロテアぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃあああああああああ!!」
「ぐぉぉぉぉぉ!!」
黒い靄に覆われた六人は声の限りに叫ぶその叫びはまともな神経を持つ者ならば耳を覆いたくなるような悲痛なものであるが黒装束の男は平然としていた。
黒い靄に覆われた六人の肌はどす黒く変色し目から光が失われ動きを止めた。
「ふははははははは!! エルコルゴの王よ!! 王妃よ!! 王子よ!! 姫よ!! 貴様らはこのエルグード様の元でこのまま永遠に仕えれば良い!!」
黒装束の男は狂ったように笑い始める。
「さぁ、この国の邪教徒共もまとめてエルグード様に捧げよ!!」
『ウォォォォォォォォォ!!』
黒装束の男が叫ぶと興奮に満ちた声が発せられ大気を揺らした。
この世界で最も古い歴史を持つエルコルゴ王国は、エルグード教団の手により滅亡したのであった。




