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呪神Ⅱ①

「さてお前達の処遇だが」


 紅神の前にはジーク達四人揃って直立不動で立っていた。その表情には一様に緊張の度合いを含んでいる。


「とりあえず天瑞宮には置いておく事はできないからお前達の世界に戻ってもらう」


 紅神の言葉にジーク達は呆けた表情を浮かべた。紅神の言う言葉は無罪放免を意味しており寛大過ぎる処置だと言えるだろう。


「あの……本当にそれで良いんですか?」


 ジークがおずおずと紅神に尋ねる。


「ああ、お前達はエネスに欺されていただけだからな。創世神様を害しようとしたわけではないから帰ってもらって構わない」


 紅神の言葉にジーク達はほっとした表情を浮かべる。


「ただし許すのは一度だけだ。もう一度お前達が攻めてきた場合はお前達の意思など関係なく斃すつもりだ」


 紅神の言葉にジーク達は顔を強張らせる。ジーク達にいまさら紅神に挑むつもりなど微塵もない。ジーク達は勇気と無謀をきちんと分けて考えているのだ。いや、絶対神であるエネスを苦も無く斬り捨てた紅神に挑むなど無謀を通り越して狂人でしかない。


「それからこれは忠告なんだが」


 紅神はジーク達に向かって言う。紅神の言葉にはジーク達を気遣う響きがあった。


「お前達は今後、命を狙われる可能性がある」

「え?」


 紅神の言葉にジーク達は驚いた表情を浮かべた。


「狙うのはエネスの部下達だ。ようするに神、天使という連中がお前達を狙う可能性は十分にある」

「どうしてですか?」

「もちろんお前達は今回の件で黒幕が誰かを知ったからだ」


 紅神の言葉にジーク達は納得の表情を浮かべる。勇者の英雄譚はエネスが書いた筋書きによるものであった。それをジーク達は知ってしまった。それをなかった事にするためにはジーク達の口を塞いだ方が手っ取り早いのだ。

 エネスの言動から神は別に人間に好意的ではなく単なる下等生物であるという認識であるのは間違いない。人間が虫の命に重きを置かないように神もまた人間の命に重きを置くわけではないのだ。


「はい……心得ました」


 ジークは小さく頷く。同時に仲間達も沈痛な面持ちで頷いた。


「さてそれでは話は終わりだ。お前達が有意義な人生を送ってくれることを期待しよう」


 紅神はそう言うとジーク達の足元に魔法陣が浮かび上がりジーク達の視界がぐにゃりと歪んだ。



 *  *  *


 視界が戻った時、ジーク達は森の中に立っている。どこの森かは分からないがここは天瑞宮ではなく自分達の世界である事をジーク達は理屈抜きで察した。


「はぁ~帰ってきたな」


 ジークは息を吐き出しながらそう言うと仲間達も同様にほっとした表情を浮かべる。


「なぁ、もしあの方の言う通り……神達が俺達を狙ってくれば俺達にこの世界での居場所なんかないよな」


 ジークの言葉に全員の顔が曇る。神と天使達の力を知るジーク達にとって彼らが敵に回る事の恐ろしさを知っていたのだ。


「それだけじゃないわ。もしかしたらこの世界の人間達も私達の敵に回るかも知れない」


 アルマの重い声が澱のようにジーク達の心に沈んでいく。


「ねぇいっその事このまま逃げちゃわない?」


 シェリーの言葉に全員が顔を見合わせる。


「そうだな。何もバカ正直に俺達がこの世界にいることを知らせる必要はないだろう。消してくれと言っているようなものだ」


 アーノスも賛意を示した。どのみちこのままバルトライン王国に戻った所で捕まって殺される可能性が高いのだ。


「ねぇジーク、私ね。幸せになりたいの……」


 アルマがジークにポツリと呟く。ジーク達はそれを黙っていきいている。


「私って天涯孤独ってやつじゃない。私はずっと家族が欲しかった。ジークが私に結婚を申し込んでくれた時、ああ私にも家族ができるんだって思ったの」

「……俺もだ」

「私の幸せは家族を得ることであって、英雄になりたいわけじゃ無いの」


 アルマの言葉にジークは静かに頷いた。ここまでくればアルマが何を言いたいかを察するのは容易である。


「そうだな、バルトラインにわざわざ戻って殺される必要は無いな。俺にも家族なんていないからさ。戻る必要はないな」


 ジークの言葉にアルマは嬉しそうに笑った。


「シェリーとアーノスはどうする?」


 ジークは二人に尋ねたのはバルトライン王国に出向くと言うことではない。二人の意思はすでに出奔に傾いておりその事はジーク達も承知している。ジークが尋ねたのは俺達と行動を共にするか、それともここで別の道を行くかという事である。


「そうだな……普通に考えれば四人で行動するのは目立つ可能性があるから避けた方が良いのかもしれないが相手は神や天使だからな。目立たないように行動してもすぐに見つかるな」

「そうね。それなら私達は行動を共にした方が心強いわ」


 アーノスとシェリーの言葉にジークとアルマは頷いた。


「これで決まりだな。それじゃあ行こうか」


 ジークはそう言うと全員が笑顔で頷いた。


「そういうわけにはいかんな」


 突如頭上から男の声が発せられた。ジーク達はぎくりと体を硬直させ身構えつつ頭上を見た。


「ジルツォル様」


 ジークが緊張を孕んだ声で名を呼ぶ。そこには光り輝く鎧で武装した茶色い髪をした男性神が浮かんでおり、その周囲に天使達も浮かんでいる。


「勇者ジークよ……お前達に生きてられると都合が悪い……神の名の下にお前達には死んでもらう」


 ジルツォルはやや芝居かかった風にジーク達に言い放った。その顔には隠しきれない嗜虐の感情が漏れ出していた。

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