エネス⑬
「ははは!! もうこれで貴様は終わりだ!!」
「エネス様の神々しさに恐れおののいているのであろう!!」
神器を身に着けたエネスが現れたことで先ほどまで死の淵に立たされていた神や天使達は俄然活気づいた。しかも先ほどのエネスの『お前を斬り、創世神を討ち取る』という発言に紅神が反論せず沈黙した事も神たちに勝利の確信を与えたのだ。
「さぁ構えなさい。創世神の従者よ。私に抵抗しないものを斬らせるつもりですか?」
エナスは余裕の表情で紅神に言う。実際にエネスは神器を身に着けた自分が敗れるとは露ほども思っていないのだ。
神鎧『ハーヴェール』神盾『ジールギール』は超金属オリハルコンで作られた鎧と盾でありエネスがありとあらゆる加護を与え、物理的、魔術的な攻撃を防ぐことが出来る。
ハーヴェールとジールギールを身に着けている限りエネスを傷つけることなど何者にも不可能であるといってよかった。エネスは当然、紅神の攻撃を防ぎきると信じていたのである。
そして神剣『レヴァルディス』は爆炎の神剣であり、ありとあらゆるものをその絶大な火力によって焼き尽くすのだ。エネスが扱えばレヴァルディスは数百万度の熱を発することも可能なのだ。
「一つ聞いていいか?」
ここで紅神がエネスに向かって言う。
「なんです? 命乞いですか?」
エネスのあざけるような言葉に紅神は苦笑を浮かべる。いや、紅神もまた嘲るような嗤いをエネスに返した。
「そんなわけないだろう。俺がお前ごときに命乞いをする理由はどこにもないだろう。俺が聞きたいのはお前が死んだ後に後継者はいるのかということだ」
「な……」
「なにを驚いているんだ? お前はここで死ぬし、邪魔をするならそこにいる能無しどももまとめて始末する。そこは良いんだが後継者はいるのかが気になったんだよ」
「……」
紅神の言葉にエネスは沈黙する。だが顔を見ればエネスの表情には憤怒の感情が渦巻いている。どうやら怒りのあまり声が出せなくなっていたようである。
「でどうなんだ?」
紅神の質問の返答はエネスの神剣レヴァルディスの一閃であった。エネスの放った炎の斬撃が紅神に向かって飛ぶ。
紅神は手にした刀に魔力を注入すると放たれた斬撃をあっさりと切り裂いていった。気咲かれた炎の斬撃はきれいに紅神の背後を焼いていく。そこには紅神が先ほど切り伏せた者たちの骸があったがそれらはすべて炎の斬撃の余波により消し炭となっていった。
「まぁ良いか。こいつが死んだ後の事はこの世界の連中が何とかすべきことだしな」
紅神はそういうと手にした刀を一振りする。すると紅神の持っている刀の刀身が紅く変わっていく。刀身が紅く染まるたびに紅神から放たれる威圧感が強大化していった。
「な……なんだその剣は!?」
エネスは顔を強張らせながら言うと紅神はまたもあっさりと答える。
「この刀の名は【斬鬼紅神】と言ってな。創世神様が俺に授けてくれたものだ」
「く……そんな強大な力を持つ剣を……」
エネスの言葉に紅神は静かに首を横に振った。
「勘違いするな。この刀は創世神様が授けてくれたものであるが最初からこのような力を持っていたわけではない」
「……」
「創世神様の力を狙って各世界から勘違いした者たちが襲ってきたことは何度もある。俺はそれらのものと何度も戦ってきた。この刀の能力は斬った者の力を己のものとする事ができるのだ」
「斬った者の……?」
「そして創世神様は俺に努力に応じてどこまでも強くなるという加護を与えてくださった」
「なんだと?」
「わかるか……どこまでもという事は俺は無限に強くなる事が出来る。そして俺は強くなるための努力を惜しむようなことはない」
紅神の言葉にエネスはごくりとのどをならした。紅神がハッタリを告げているわけではない事を本能で察したのだ。
「そうだ。千年前の俺ならば神器を身につけたお前と互角だったかも知れないな」
紅神の言葉は威嚇するでも無く静かなものである。だが、放たれる威圧感は時が経つにつれて大きくなっていった。
「ば、化け者……」
エネスの口から絞り出すような言葉が発せられる。エネスの言葉に紅神は皮肉気に嗤うった。
「そうだ。化け者だ……お前如きでは到底到達できない……な」
紅神はそう言うとエネスの間合いに一気に踏み込んだ。まるで雷光、いや雷光よりも遥かに速い物理法則を完全に無視した動きである。
シュン!!
紅神は斬鬼紅神を横薙ぎに振るった。
(く……)
エネスは紅神の斬撃を神盾ジールギールで受ける。エネスはジールギールに防御用の術式を展開させ紅神の斬撃を受け止めようとしたのだが、紅神の斬撃はジールギールをまるで木の板のように斬り裂くとそのままエネスの左腕を斬り飛ばした。
ゴトリ……
エネスは自分の左腕が舞う光景を呆然と見つめている。何が自分の身に起こったかを理解することはできなかったのだろう。紅神はそれを見て好機と判断するとその場でそのまま一回転し、新たな斬撃をエネスに放った。
エネスは一瞬未満の自失から立ち直ると紅神の斬撃を後ろに跳んで躱した。考えての行動ではない。エネスを構成する細胞が反応したのだ。
紅神は追撃を緩めるような事はせずにそのまま間合いを詰めると首と腹に二段突きを放った。体を捩ってエネスは紅神の突きを躱すが紅神の攻撃はそれで終わりではなかった。紅神は突き込んだ斬鬼紅神をそのまま横に薙ぎ払ったのだ。
「く……」
エネスはまたも後ろに跳び紅神の斬撃を躱したがとても反撃できる状況ではなかった。僅か数合の剣戟で紅神はエネスを圧倒的に上回っているのを見せつけたのだ。
紅神の強さにエネスは顔を強張らせた。そして周囲の神と天使達は紅神とエネスの攻防を視認できたものは皆無であった。だが、エネスが押されているのだけは否応なしに理解していたのである。
(このままでは……)
エネスは自分の死を身近に感じぶるりと身震いする。
「おのれぇぇぇぇ!!」
エネスは治癒魔術を展開すると一瞬で斬り落とされた左腕が再生した。もちろん神盾ジールギールも同様に再生していた。
エネスは神剣レヴァルディスに炎を纏わせ神盾ジールギールを前面に掲げると紅神へ間合いを詰めてきた。紅神がエネスに斬撃を放とうとした瞬間にエネスは左に跳び一体の天使を紅神の方に押した。
「え?」
押された天使は呆然とした表情を浮かべながらそのまま紅神に向かって進む。死を感じた事で集中力が格段に増した故か自分の置かれている状況を察した天使は顔を恐怖で歪ませた。
紅神はその天使を左手で押しのけようとした時、天使の腹から炎を纏った剣が突き出てきた。その剣は神剣レヴァルディスだ。エネスが天使の背中から貫き紅神を貫こうとしたのだ。
しかし、紅神は神剣レヴァルディスを左手で掴むと呆れた様に呟いた。
「所詮、クズの考える事はこの程度だ」
「ひ……」
紅神が斬鬼紅神を振り上げたのを見てエネスは小さく恐怖の叫びを発した。エネスは自分の命運が尽きたことを察した。そしてそれが全く正しい事は証明される。
紅神は斬鬼紅神を振り下ろすとエネスを頭頂部から真っ二つに両断し一気に腹部まで斬り裂いたのだった。
「つけ上がるからこうなるんだよ」
紅神は倒れ込んだエネスに向かって冷たく言い放った。




